G7広島サミットまでに決着がつくのか注目されていた、LGBTなど性的マイノリティへの理解を増進するための法案。5月18日、自民党と公明党が何とか間に合う形で、「LGBT理解増進法案」を国会に提出した。ここにくるまで、自民党内で議論が紛糾した。

自民党 大紛糾の末に…「LGBT法案」国会提出

そもそも議論が動き出すきっかけとなったのが…

「見るのも嫌だ。隣に住んでいたらやっぱり嫌だ」

今年2月に更迭された岸田首相の秘書官の、LGBTへの差別的な発言だった。

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2年前に、超党派で作成された法案をたたき台に議論が始まったものの、自民党の保守派は反発。

自民党 宮澤博行議員:
行き過ぎた人権の主張。もしくは性的マジョリティー(多数派)に対する人権侵害。これだけは阻止していかないといけないと思います

そのため当初の法案にあった「差別は許されない」という文言を、反対派に配慮し「不当な差別はあってはならない」に変更。16日の自民党内で了承された。

自称“慎重派の最右翼”西田政調会長代理は、

自民党 西田昌司政調会長代理:
(Q.修正された「不当な差別」の意味は?)
差別という言葉を出したら、少し何かあったら「差別だ、差別だ」ということじゃないと、そういうこと
(Q.“不当ではない差別”は認められる?)
いやそうではなくて。言葉遊びのような形になってきてよくない。差別という言葉一つで世の中がギクシャクしないように、おおらかな表現という意味で「不当な差別」になっている

一方、推進派の稲田朋美議員は、

自民党 稲田朋美議員:
私自身は「不当な差別」と「差別」は法的には一緒で、“差別”は不当なものだという考え方をしている

「差別」という文言一つをとっても、党内に温度差があることが分かる。
また修正案では「性自認」という文言が「性同一性」に変更された。

提出された法案について当事者たちからは失望の声が…

性的マイノリティー支援団体 松岡宗嗣代表:
議論すればするほど、内容が後退していき、デマや差別的な言説が広げられていく。そういう状況です。このままでは“理解増進法”ではなくて“理解抑制法”になる

浅沼智也さん:
国際社会に向けた「やってる感」を演出するだけの、G7広島サミットをやりすごそうとするのは到底許されません

今回の法案で、果たしてG7と肩を並べることができるのでしょうか?そして本当にLGBTへの理解は深まるのか?

2年前には国会提出が見送られた「LGBT法案」ですが、なぜ今提出なのか?なぜもめたのか?何が変わるのか? 関西テレビ「newsランナー」では、法案提出に向けて精力的に動いてきたキーパーソン、LGBT議連の稲田朋美会長代理に話を聞いた。

そもそも「理解を増進する」法案が、なぜ必要だと考えているのか、改めて教えて下さい。

自民党 稲田朋美議員:
実はこのLGBTの特命委員会は、私が政調会長であった2016年に、特命委員会を設立してずっと議論を続けています。いろんな当事者の話を聞きまして、その上でやはり差別のない社会を作るために、理解をしっかり進めていくことが重要だねっていうことになりました。実は自民党は“差別禁止”ではなくて“理解増進法”を作ることによって、差別のない社会を作っていこうということで、理解増進法をまとめたのが2019年ですので、かなり長い議論の末にできた法案です

今回提出された「LGBT理解増進法案」が国会で可決成立した場合、次のようなことが求められるようになる。

・国は理解増進のための“基本計画”作成や“学術調査”実施
・企業は採用の機会均等
・学校は生徒への教育や教師への研修

あくまで罰則はない、努力義務にとどまるということだ。努力義務ということで、どこまで差別が解消できるとお考えですか?

自民党 稲田朋美議員:
私はこの法律ができたら、当事者にとってもすごく大きな前進だと思うんですね。それはどういうことかというと、当事者の方々がいろんな要望を持っていく場所が今はどこにもなくて、それがこの法律ができることによって、内閣府の中に部署ができて、そこに官僚もいて、いろんな困り事や課題などの、要望が聞けるということが一つあります。それから今、 各地で条例ができておりますけれども、いろんな形の条例がある中で、国が基準を作る、計画を作るということも非常に大きいと思います。理解増進では足りないとか、罰則をつけるべきだという方もいらっしゃるんですけど、かえって何が差別かというのが明らかでない時点で、差別を罰則で解消・禁止するよりも、まず理解増進でやれることは、たくさんあると思います

LGBT法案を巡っては、2年前の法案から文言が微妙に変わった。2年前に超党派議連がまとめた法案では、「性自認を理由とする差別は許されない」という文言だったが、法案に慎重な自民党の保守派議員からこの文言では問題があるという声が上がった。そして、18日提出された自民党の修正案では、

・「性自認」→「性同一性」
・「差別は許されない」→「不当な差別はあってはならない」

という文言に変更されている。「性自認」と「性同一性」の違いをどう捉えたらいいのか?

自民党 稲田朋美議員:
どちらも「ジェンダーアイデンティティー」をどう訳するかなのですが、2019年に自民党が作った案では、やはり「性同一性」という言葉を使ったんです。なぜならアイデンティティーという限りは、少し継続的な意味合いのある言葉として「性同一性」という言葉を使いました。ところが与野党の協議の中で、「性同一性」という言葉よりも、「性自認」という言葉の方が広く社会で認知されているので、「性自認」という言葉を使いましょうということになって、「性自認」という言葉を使いつつ、自民党の定義をそのまま入れることによってアイデンティティーをこう表現するという形にしたのが2年前です。2年前、この法案はいろんな議論があって、“預かり”ということになりました。今回、元の自民党の案の言葉に戻すということです。ただ最初の自民党案と2年前、そして2年前と今回、定義の中身自体は変わってないので、呼称を元々の自民党案に戻したということで、趣旨は全く変わってないというふうに思います

この文言変更について、保守派議員に配慮したのではないかという指摘がある。慎重派の自民党の西田昌司議員は「性自認と書くと自分が認めた性と色々な解釈ができる。医学的な用語の「性同一性」なら少しフラットでいいのではないか」と話しています。
稲田さんは「性自認」と「性同一性」は同じだとしていますが、同じであれば「性自認」という文言でよかったのではないのでしょうか?

自民党 稲田朋美議員:
私は2年前も同じで「性自認」で、広く使われている言葉を使ったらいいと思って、与野党の協議をまとめたわけです。けれどやはり同じ意味でも、どう呼ぶかで印象が違うと思う人もいて、「今だけ女性とか、朝は女性だけど夜は男性の人を排除できないじゃないか」とか、いろんな議論が2年前からずっとありました。なので同じ意味ならばその元々の自民党案の呼び方を、「ジェンダーアイデンティティー」の訳を、元々の自民党案ではアイデンティティーなので少し継続的な意味合いにしようということで、その呼称にしたということです

西田議員は「解釈が変わる」という言い方をしていますので、同一ではないと言っている。つまり自民党の中では、稲田議員のように「同じだ」という方もいるかもしれないが、「違うんだ」っていう方もいるので、統一されていないということになってしまうが、いかがなのか?

自民党 稲田朋美議員:
法律上の定義の中の、性同一性の定義と、2年前の性自認の定義と、ほぼ同じ定義を使っています。もっと言うと、元になる自民党の定義と同じものなので、法律上はその定義の内容が何かによって同一かどうか変わるものですので、趣旨は全く一緒だと思います。違ったように感じる方はいたのかもしれませんが、法律上は一緒と私は考えています

自民党の慎重派が主張している懸念として、例えば、男性として生まれて、自分は女性だと自認している人が、「女湯に入りたい」と言う時、お店側は「不当な差別はあってはならない」として拒否できなくなるのではないかと指摘されている。また悪意を持って法律を悪用し、トランスジェンダーを装った男性が、女子トイレに侵入してくるおそれもあるのではいかという懸念も、自民党の慎重派の議員が主張している。

法律を悪用する形で女性を装った男性が女湯や女子トイレに入ってくるのではという心配はあるのか?心配に感じている方にどう説明するのか?

自民党 稲田朋美議員:
この法律とその犯罪とごっちゃにするっていうのは、私はトランスジェンダーの当事者にとって非常に耐えられない気持ちになると思うんです。この法律があろうがなかろうが、 犯罪は犯罪だし、今法律がなくてもそういう犯罪行為に出る人はいます。またこれはルールの決め方の問題で、今も公衆浴場の要項の中で、「男女は分ける」と書いてあります。その男女はどういう男女ですかと厚労省に聞きましたら、この男女は身体的な特徴によって分けるということを、明確に国会の答弁でも言っています。これはルールの決め方の問題で、この法律を作ったら、身体的特徴で決めてるところがいきなりこの自認によって決めるとか、不当な差別になるっていう事は全くない。この法律ができることでおかしな事態が起きるっていうのは全然違う話だと思います。そこをしっかり説明していく、そしてまた心配をされている方に対しては、そういう心配のないルールの決め方をしっかりやっていきますということも、この法律ができることで国が指針を作っていくことができるので、私はむしろ安心していただけるんじゃないのかなと思います

ここで関西テレビ「newsランナー」の視聴者から、質問が届いた。

Q.国会議員の理解が遅れているのでは?

自民党 稲田朋美議員:
2月の首相秘書官の発言も、やっぱり理解ができてないからこそ、ああいう差別的な発言につながったと思います。国会議員の中にも、国民の皆さんの中にも、理解を進めていくことによって、差別のない社会を作っていくことができるというふうに思います。やっぱりそういう意味で、この法律がとても重要だとずっと思ってきました

18日に法案が提出されましたが、国会でどのように議論され、成立するかどうかが、今後の焦点になる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月18日放送)

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