日常でちょっとした不満を感じることもあるだろう。これを売ることができる「不満買取センター」というサービスをご存じだろうか。

不満買取センターのシステム(提供:Insight Tech)
不満買取センターのシステム(提供:Insight Tech)
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不満を文章にして、専用のスマホアプリやウェブサイトから投稿すると、文章解析のAIが査定して1~10ポイントで買い取りする。これが500ポイントたまると、500円相当のギフトコードと交換できるというものだ。

不満は1日10件まで投稿でき、「こうだったらいいのに」といった要望も伝えられる。他の人の投稿内容を閲覧できるほか、共感したことを伝える「わかる!」ボタンがあるのも特徴的だ。

サービスの利用イメージ(提供:Insight Tech)
サービスの利用イメージ(提供:Insight Tech)

ウェブ版の不満買取センターは2015年に始まり、会員数は約73万人(2023年5月時点)。運営会社は「Insight Tech」で、こうした“不満のビッグデータ”をレポートにし、企業や自治体に提供することで収益性を確保しつつ運営しているという。

新機能や高性能だけでは選ばれない時代

しかしなぜ、企業や自治体にもお問い合わせフォームはあるのに、不満を集めているのだろう。1日で約1万5000件の投稿が寄せられるというが、コロナ禍の不満から生まれた商品・サービスはあるのか。Insight Techの代表取締役社長・伊藤友博さんに聞いた。

――不満買取センターを始めた経緯を教えて。

モノが量的に満たされている現代では、新機能や高性能だけでは商品が選ばれなくなっています。「こうだったらいいのにな」「こんなシーンで使いたいのにな」という気持ちにきめ細かく対応することが、新しい価値を生み出す時代だと考えました。
 

――投稿した不満はどんな要素で査定される?

不満を感じたシーンが具体的に記載されているか、提案・要望が含まれているかなどの要素をAIで査定しています。実際はシーンや理由が具体的に記載され、改善策や提案が書かれていると高いポイントなります。これらがあると企業や自治体が、マーケティング上の示唆を汲み取りやすいためです。
 

――実際はどんな不満が寄せられているの?

実はクレームのような不満は少なく、「こんな〇〇があったらいいのに」といった提案が含まれる投稿が全体の3~4割を占めます。商品・サービスに対する具体的な不満だけでなく、日常生活のちょっとしたシーンで感じた、具体的な声が多いですね。

実際に投稿された不満の例(提供:Insight Tech)
実際に投稿された不満の例(提供:Insight Tech)

【実際に投稿された不満の例】
・常温で保存可能なヨーグルトがあればいいのに。毎日食べるものだから、冷蔵庫に出し入れするのがそもそも面倒です。(30代女性)
・スーツケースのタイヤは交換できるようにすべき。本体はまだまだ使えるのにタイヤだけのために粗大ゴミで捨てるのはもったいない。(40代男性)

――買い取りの対象とならない、不満はあるの?

個人の誹謗中傷に当たるような不満、性的な内容の不満などはお断りしています。

コロナ禍の不満から生まれた商品も

――近年のコロナ禍で寄せられた不満は?

自宅で過ごす時間が長くなったことでの不満が目立ちました。在宅勤務の夫に毎食、食事を作るのが苦痛、会議や電話がうるさい。買い物をまとめてするようになったが、その分ごみがたまってしまうといったものです。鉛筆を書く音すら気になるという声もあります。
 

――不満がきっかけで生まれたものはある?

味の素AGF様の「ブレンディ(R)」ザリットルは、(不満買取センターに寄せられた)コロナ禍の不満で生まれました。スティックタイプのパウダーを水に溶かせば、コーヒーや緑茶など、1Lサイズの飲み物がすぐにできるという商品です。

不満を参考に販売された「ブレンディ®」ザリットル(提供:Insight Tech)
不満を参考に販売された「ブレンディ®」ザリットル(提供:Insight Tech)

コロナ禍では買い物に行きにくいが、家での飲み物の消費量は多い。そのため(1)大容量のペットボトルをたくさん買い込む必要がある。(2)家に保管する場所がない(3)多くのごみが出てしまい環境にやさしくない気がする。といった不満から生まれました。いままでの価値を起点に、不満から、小さなイノベーションを生み出した事例と言えます。
 

――企業や自治体はなぜ、不満を知りたがる?

人々のちょっとした不満はアンケートで聞いてもなかなか汲み取ることができません。生活者一人ひとりの「届けるまでもないか」という不満、自然発生する声に“イノベーションの種”が隠れていることを、企業や自治体も気づき始めたのだと思います。

不満の裏側にある期待を届けたい

――不満買取センターに期待するものは?

私たちは「声が届く世の中を創る」ことを目指しています。「この気持ち、どこに届けたらいいんだろう」「企業には届かない思いだよな」「こんな商品があったらいいのにな」という気持ちがあればセンターに寄せていただければと思います。私たちが懸け橋となり、生活者の不満と裏側にある期待を届けたいと思います。
 

――企業や自治体側に伝えたいことは?

不満のビッグデータを通じた「生活者起点」のユーザーファーストの実現をご一緒できればと思います。世の中の「不満(マイナス)」を「価値(プラス)」に変える挑戦をしたいと願います。

 

不満買取センターの利用者は「不満を投稿するとスッキリする」「声が届いて商品・サービス改善に貢献している気がする」というタイプが目立つともいう。利用者はちょっとした不満を伝えられる、企業や自治体はアイデアの参考になる。こうしたところから、画期的なモノが生まれるのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。