G7広島サミットの議題の1つである「ジェンダー」。この問題は、男女の差別をはじめ多岐にわたるが、中でも性的マイノリティーであるLGBTQ+について考える。

ジェンダーはG7広島サミットの議題の1つ
ジェンダーはG7広島サミットの議題の1つ
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LGBTQ+とは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)、Questioning・Queer(クエスチョニング・クィア)など様々な性的マイノリティーの人々を表す言葉として、それぞれの頭文字をとったもの。

18日に国会提出の方針
18日に国会提出の方針

性的マイノリティーの人々への理解を増進するための議員立法をめぐり、自民党は5月16日、超党派でまとめた法案の修正案を決定した。18日に国会へ提出する方針だ。

この修正案を話し合った自民党の出席者からは「女湯に『私は女性だ』と自認する男性が入ってきた時、排除できない。そうした懸念を払拭しておかなければならない」との発言があった。

つまり、理解を増進する法律を悪用して、トランスジェンダーを装った男性が女湯や女子トイレに入る懸念があるというもの。

こうした発言や懸念を当事者はどのように感じているのか。トランスジェンダー女性に話を聞いた。

「当たり前に普通に暮らしたい」就活で感じた苦痛

トランスジェンダー女性の時枝穂(ときえだ みのり)さん。出生時に割り当てられた性別は男性だが、性自認は女性だ。

出生時に割り当てられた性別は男性だが、性自認は女性
出生時に割り当てられた性別は男性だが、性自認は女性

宮司愛海キャスター:
時枝さん自身はトランスジェンダー女性ということですが、気づかれたきっかけはいつ頃だったのですか?

時枝穂さん:
男女で分断されることにモヤッとした気持ちがあったのは、中学生くらいにはあったかもしれません。

かつては男性として生きなければいけないと思っていた時枝さんだが、高校卒業の時に転機が訪れたという。

高校卒業時に転機「ようやく自分らしい服装だったり、振る舞いとかをできるようになってきた」
高校卒業時に転機「ようやく自分らしい服装だったり、振る舞いとかをできるようになってきた」

時枝穂さん:
高校卒業してから、明日からもう学校の制服着なくていいってなったタイミングで「あ、自分らしい服を着ていいんだ」って思ったのが、ちょっとずつそこから。ようやく自分らしい服装だったり、振る舞いとかをできるようになってきたかなっていう感覚。当たり前に、普通に暮らしたいっていうふうに思います。例えば学校行った時に、自分が着たい制服を着られるとかね。

時枝さんがトランスジェンダーとして特に苦しかったのは、就職活動の時だった。それは履歴書の性別欄の記入から始まる。

特に苦しかったのは就職活動。履歴書の性別欄で…
特に苦しかったのは就職活動。履歴書の性別欄で…

時枝穂さん:
男女の丸つけるところが、本当に苦痛でした。なんで性別欄ってあるんだろうって。リクルートスーツを着ると、はっきり男女って分かれるじゃないですか。はっきり曖昧さを許さないというか、スカートはいて、バンプスはいて、髪をくくってとか。そういう形の就職活動もたぶん無理だなと思ったので、就職活動は諦めたんですよね。いわゆる非正規雇用といわれるアルバイトとかパートとか派遣の仕事とか、不安定な仕事がずっと続いていました。

「そういう形の就職活動もたぶん無理だなと思ったので、就職活動は諦めたんですよね」
「そういう形の就職活動もたぶん無理だなと思ったので、就職活動は諦めたんですよね」

就職活動を諦め、不安定な働き方を余儀なくされた時枝さんは、20代の頃を“暗黒時代”と振り返る。

アルバイトやパート、派遣の仕事をしていたという
アルバイトやパート、派遣の仕事をしていたという

誰もが安心できるトイレ空間…前向きな議論を

しかし、30代になってからは、LGBTQのパレードに参加することで、自分には多くの仲間がいることに気づいた。

自分には多くの仲間がいると気づいた
自分には多くの仲間がいると気づいた

現在は、自治体の同性パートナーシップ制度の普及や同性婚の法制化に向けた活動を行っている。

その成果もあり、G7を前にLGBT理解増進法案が国会に提出されることになったが、自民党内の慎重派などから様々な懸念が示された。

宮司愛海キャスター:
「トランスジェンダーをかたって、男性が女性のトイレや銭湯に入ったりするのではないか」というようなことを危惧する方々もいます。当事者としてはどう思われますか?

「そういうことはあってはいけない」
「そういうことはあってはいけない」

時枝穂さん:
トランスジェンダーを装って、女子トイレとか女子風呂に入る行為はもともと犯罪行為なので、そういうことはあってはいけないわけですよね。「男性が入ってきた。危ないじゃないか」とか、不安とか恐怖に感じる人はいるんですけど、そういう人たち(女性)が安心してトイレに入れるスペースも必要。(同じように)トランスジェンダーの人たちも、安心してトイレできる空間もつくりましょうっていう、前向きな議論になんでならないんだろうって思います。

「そういう人たち(女性)が安心してトイレに入れるスペースも必要」
「そういう人たち(女性)が安心してトイレに入れるスペースも必要」
「前向きな議論になんでならないんだろうって思います」
「前向きな議論になんでならないんだろうって思います」

その上で時枝さんは、差別をなくすためには、それぞれが自らの偏見について自覚することが大事だと訴える。

「偏見とか差別は私の中にも多分ある」
「偏見とか差別は私の中にも多分ある」

時枝穂さん:
偏見とか差別って、私の中にも多分あるんですよね。同じLGBTQの中でも、私はゲイの方とかレズビアンの方って、100%理解してると言ったらそうじゃない。どこかで偏見持っていたりとかすると思うんですよ。「それ(偏見)を自分が持っているんだ」って、そういうものを受け入れた上で、ちゃんとルールで決めていくことが大事。自分たちがちゃんと声をあげれば、ちゃんとアクションすれば、社会は変わるんだってところも見せていきたい。

「ちゃんとルールで決めていくことが大事」
「ちゃんとルールで決めていくことが大事」

LGBT理解増進法案は修正前、「性自認を理由とする差別は許されない」となっていたが、修正後は「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」となった。

これに対して、時枝さんは「非常に残念。都合よくLGBTQ+当事者が利用されたと感じ、本当に困っている。当事者に寄り添った法案とは言えない」と話す。

また、「G7サミットをきっかけに今回の法案が一歩でも前に動いたという点は、前進したと言える」とした一方、「議論がさらに加速する起爆剤にできたらいい」と話していた。

(「イット!」5月17日放送より)