入管法改正案が参院で審議されている中、改正の根拠とされているのは「難民申請者の中に難民はほとんどいない」ことだ。

しかしその根拠とされる難民審査参与員の国会での発言について、「虚偽答弁ではないか」とする調査結果が公表された。

「撤回するか虚偽答弁になるしかない」

「撤回するか虚偽答弁になるしかない」(高橋済弁護士)

2021年4月に衆院法務委員会に参考人として呼ばれた「難民を助ける会」の名誉会長で難民審査参与員の柳瀬房子氏は「入管として見落としている難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません。難民の認定率が低いというのは、分母である申請者の中に難民がほとんどいないということを、皆様、是非御理解ください」と発言した。

この発言が入管の立法事実となったのは明らかだろう。

また当時柳瀬氏は参与員制度が始まった2005年から参与員をしており、「その間に担当した案件は2000件以上」と語った。

その後2023年に再び発言した際には、自身が担当した件数を「約4000件」だとしている。つまり2021年から2023年の2年間で約2000件、1年間で1000件を担当したことになる。

柳瀬氏の発言に対し「撤回するか虚偽答弁になるしかない」と語る高橋弁護士(一番左)
柳瀬氏の発言に対し「撤回するか虚偽答弁になるしかない」と語る高橋弁護士(一番左)
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「年間1000件の審査は不可能でありえない数字」

「年間1000件というのは不可能である。ありえない数字。それは対面審査をやっていると言うのなら虚偽としか言いようがない。この発言や発言を引用する入管の態度は許せない」(渡邉彰悟弁護士)

今回全国難民弁護団連絡会議(以下全難連)がほかの審査参与員にアンケート調査を実施したところ、年間担当件数の平均は約36件で、柳瀬氏の扱い件数と大幅な差があることがわかった。

全難連代表でもある渡邉弁護士はこう続ける。

「難民はいるんです。私もミャンマーのケースをたくさん抱えていますが、ロヒンギャや少数民族の人たちが参与員にかかっているわけです。にもかかわらずほとんどがずっと認定されてこなかった。そういう発言を一部だけ取り上げて、入管が自分たちの主張を通すための一方的なもので到底公正で客観的なものではありません」

渡邉弁護士(左)「年間千件は不可能でありえない数字」
渡邉弁護士(左)「年間千件は不可能でありえない数字」

「適切な審査ができるとは到底考えられない」

またアンケートの結果では1件当たりの審査の平均時間をきいたところ5.9時間だった。柳瀬氏のいう年間1000件の審査については、審査参与員からも「通常ではあり得ない」「信じられない」といった声や、「記録を精査しているのかはなはだ疑問である」「書面審理のみ、あるいは入管当局からの口頭説明のみで、不認定の決定をしたのだと思われる」と柳瀬氏の審査そのものを疑問視した声が上がっている。

また「物理的に可能であったとしても、適切な審査ができるとは到底考えられず、制度としても特定の参与員に集中して事件を割り振ることが不当であることは言うまでもないと思います」と制度そのものが不当であると指摘する声もあった。

「偏った意見をとり上げるのはいかがなものか」

こうした結果から考えると、柳瀬氏の発言とその発言を根拠にした「難民申請者の中に難民はほとんどいない」という現状認識は果たして正確で公正と言えるのか疑問符がつかざるをえない。

ある審査参与員はこう語る。

「年間1000件を処理できるというのは想像がつきません。仮に、そのような割り当てをされてそのような処理をしているとしたら、かなり偏った参与員だと思いますので、そういう方の意見を参与員の意見としてとり上げるのはいかがなものかと思います」

疑念の声に政府、入管、国会はどうこたえるのか

また、今回の調査結果の分析に協力した社会調査支援機構チキラボ代表の荻上チキ氏は、「そもそも不認定率が高い背景には何があるのかという第三者調査が必要ではないか。他の参与員と比べて、代表性を欠く参考人発言をベースに政府資料が作られ、法改定の議論が進んでいる。現在の審査制度の妥当性を検証することが先決ではないか」と強調した。

荻上チキ氏「法改定の議論より審査制度の検証が先決」
荻上チキ氏「法改定の議論より審査制度の検証が先決」

高橋弁護士は「本来であればこれは政府がやるべきことですが、政府は個々の参与員の処理件数などを確認していない。我々が調査した結果わかったのは、命をかけている審査請求が、書類を簡単に確認し、サインするだけの審査になってしまっている可能性があるということです」と語った。

こうした疑念の声に対して、政府、入管そして国会はどうこたえるのだろうか?

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。