人工知能の書いた恋愛映画に泣かされる?

人工知能チャットGPTは名作「カサブランカ」のような映画の脚本も書けると自認しており、危機感を抱いた人間の脚本家がストライキで対抗している。

米国の映画やテレビの脚本家約1万5000人で作る全米脚本家組合(WGA)は5月2日からストライキに突入し、テレビ番組の制作中止や映画撮影の延期など影響が出始めている。

映画の都・ハリウッド
映画の都・ハリウッド
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WGAの要求の中心は脚本の使用料のアップだが、もう一つ人工知能AIをめぐる問題がある。

組合側はAIに脚本を書かせたり、書き直させないこと。また脚本家が書いたものをAIの訓練のために使用しないことを要求しているが、経営側は「これについては今後も話し合いが必要」とだけ回答するにとどめていて、最後まで交渉の障害になりそうだと言われている。

チャットGPTのようなAIは、映画やテレビの脚本の執筆もできるとされ既に限定的にCMなどに使われているようだが、いずれ映画制作に全面的に関わりそのクレジットタイトルに「AI制作」と出る日も遠くないと考えられる。

これに対して人間の脚本家たちは「AIには人間味のある筋書きは書けない」と反論する。

「AIは「カサブランカ」を書き起こせるだろうか? 脚本家たちはこうチャットGPTを攻撃する」(AP電5日)

ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマン主演の名作映画「カサブランカ」(1942年)
ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマン主演の名作映画「カサブランカ」(1942年)

「AIは既存の著名な作家のスタイルをずる賢く真似する可能性はある。例えばノーラ・エフロン(『ユー・ガット・メイル』などロマンティック・コメディの名手とされた脚本家)のようなコメディや、マリオ・プーゾ(『ゴッドファーザー』の原作、脚本を担当)の真似はできるかもしれない。しかし『カサブランカ』に迫るのは無理だろう」

ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマン主演の名作で「君の瞳に乾杯」という名セリフでも知られる名作ラブロマンスをAIが書き起こせるわけがないという映画脚本家たちの声を記事は紹介しているが、AIにロマンティックな映画の筋書きを考えさせるのは無理なのだろうか?

チャットGPTに脚本を依頼してみると…

そこで本人に直接訊いてみた。

木村太郎
あなたは「カサブランカ」のようなロマンチックな映画の脚本を書くことができますか?

チャットGPT
もちろんです!「カサブランカ」にインスピレーションを受けたロマンチックな映画の脚本を書いてみるとこうなります。

チャットGPTが出力した脚本
チャットGPTが出力した脚本

フェードイン:

外部。パリの通り - 昼

1941年、パリの通りは活気にあふれている。若い女性イザベルが、胸にフォルダーを抱えて通りを急いで歩いていた。突然、彼女は男性ジャックにぶつかり、書類を落としてしまう。

イザベル:すみません!

ジャック:謝る必要はありません。手伝いましょう。

書類を拾いながら、彼らの手が触れ合い、一瞬の視線を交わす。イザベルは急いで物を集め、立ち去る。

カット:外部。パリのカフェ - 昼

イザベルは一人でテーブルに座り書類をめくりながらコーヒーをすすっていると、突然、ジャックが現れ、向かいの席に座る。

ジャック:一緒しても構わないですか?あなたの書類を見て、気になってしまったんです。何か重要なことですか?

イザベル:はい、そうです。レジスタンスのものです。

ジャック:レジスタンス?

イザベル:はい。私たちは、ナチス占領に関する情報を収集するのを手伝っています。

ジャック:あなたは勇敢ですね。それに情熱的です。

イザベル:はい、私の兄はナチスに連れ去られ、私は彼をとり戻すためにできる限りのことをしたいと思っています。

ジャック:私にも失ったものがいるんです。

彼らは一瞬沈黙し、ジャックがテーブルを越えてイザベルの手を取る。

ジャック:今私たちは出会ったばかりですが、私たちの間には特別なものがあるような気がします。

イザベル:私もそう感じます。

カット:外部。パリの通り - 夜

イザベルとジャックは腕を組んで通りを歩きながら、会話に没頭していると突然、彼らはナチス兵士の一団に止められる・・・

チャットGPTはスラスラと脚本を書き始め、2人はその後カサブランカで再開するという物語が展開してゆく。

このチャットの原文は英語なので、私が日本語訳したセリフはこなれていないかもしれないが、ストーリーとしては十分納得できるものになりそうだ。主人公は「カサブランカ」のリックではなくジャックに、イルザはイザベルにとオリジナルの配役だ。

WGAのストライキは簡単には収まらないように思える。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。