法案から消えた「性自認」
LGBT理解増進法案の修正や提出を巡って自民党内が荒れている。
8日に行われた自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」などの合同会議では、法案の中で問題になっている「性自認」「差別は許されない」との表現を、「性同一性」「不当な差別はあってはならない」にそれぞれ修正する案が提示された。
この記事の画像(4枚)当初公明党を含む与党内の法案推進派は19日から開かれる先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前の成立を求めていたが、修正案が出たことで成立はほぼ間に合わなくなり、代わりにG7前に国会に提出する事を目指している。
保守系を中心とする慎重派は修正案に一定の評価をしながらも2つの点で十分ではないと考えている。1つ目は女性の権利や安全がきちんと守られるのかということだ。
「体は男性」が女湯に入らないか
たとえば「心は女性だが体は男性」の人がお風呂の女湯に入ることは厚労省の局長通達で禁止されているのであり得ない、と推進派は主張しているし、政府もそう答弁している。
だがLGBT理解増進法が成立した後に「心は女性で体が男性」の人が、女湯への入場制限は「性同一性による不当な差別」と主張しても、銭湯の主人は入場を拒否できるのか。主人が警察を呼んで入場を阻止した場合、その人が訴えたら司法判断はどうなるのか。実は世界ではその手のトラブルがあちこちで起きている。
また日本では最近、渋谷区や新宿区でジェンダーレスの公衆トイレができて話題になっている。これは女性の専用トイレがなく、男性用の小便器以外が男女共用となっており、女性から不安の声が上がっている。
10日の会議では浴場やトイレなど公共の場で女性の権利を守る規定を設けるべきだとの指摘もあったという。
2つ目は法案が小中高校で子ども達にジェンダー教育をするなど国民への理解増進を求めていることだ。会議では「性教育すらできていないのに、LGBTだけ教育するのはどうか」として削除を求める意見が出た。
一時期、過激な性教育が行われ国会でも問題になったことがある。教師にしても裁判官にしても時々ルールを拡大解釈してとんでもないことをやったり言ったりする人がいる。公共の場で特に子どもや女性が傷つくことのないよう、立法や行政は細心の注意を払わなければいけない。
自民保守票の大量離反も
僕はLGBTの人たちを差別することは修正案の通り「あってはならない」事だと思うし、日本は多様性を認める国であるべきだとも思う。だが「サミットに間に合わせよう」などと政治的な都合で拙速に法律を作るのは良くない。
推進派の稲田朋美元政調会長は10日、「サミット前にある程度進めておくべきというのはその通り。総理総裁が指示を出している。今国会で成立させるべきだ」と述べた。自民党内では保守派の反発があるものの、週明けに推進派が法案の提出を強行するのではないかとの見方が出ている。
自民党にとって選挙における保守票の離反は大きな問題だ。統一地方選では日本維新の会にかなり食われたし、昨年の参院選では保守系のNHK党(現在は政治家女子48党)と参政党が合わせて300万票を取っている。この政治家女子も参政もLGBT推進法案には慎重な立場だ。
稲田氏の言うことが本当なら岸田文雄首相は法案を今国会で通したいということだが、強引にやると大量の保守票が離れる可能性があるので気をつけた方がいいと思う。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】