豊かな森林と豊富な温泉に恵まれた熊本。この地域自然の恵みを活用した、サステイナブルな取り組みが行われているーー。

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温かみある色や、シックな色で作られた洋服、靴やポーチバッグ、そして、淡い桜色のストール。これらの生地すべて、ある原料を使った糸からできている。

番場成花ディレクター:
こちら、“木糸”で作られた洋服なんですが、通常の洋服と何ら変わりない着心地で、木からイメージするようなゴワゴワ感など、特に感じません。

この洋服やバッグなどの生地は、森林を整備する際に出た、天草ヒノキや小国杉などの間伐材を使った木から作った糸、“木糸”から作られている。

“木糸”を使った製品の企画・製造・販売を考案したのは、Circulife(サーキュライフ)の川原代表だ。

地元である熊本の環境問題と向き合い、「地域活性化のためになれば」と始めたという。

Circulife・川原剛代表取締役:
(環境問題の解決として)根本から素材を変えることができないのかなって考えたときに、“木糸”であればその代替になるのではないか。

Circulifeの衣類は糸や生地に間伐材を使用するため、通常の衣類にくらべ、4分の1ほどのCO2の削減が可能だという。

さらに“木糸”を活用した製品作り以外にも、小国町わいた温泉郷の地熱と湧き水を使った「草木染」にも取り組んでいる。

Circulife・川原剛代表取締役:
地熱を使うことができればCO2の排出もないし、水もこうやって潤沢にすごく湧き出ているので、素材を作るとき、染料を作るときでも、そういったことは常に考えていきたい。

大地の恵みを活用して、地元熊本の桜や天草の名産オリーブの木など、自然由来の染料での染色を行っている。

日本全国へ循環の輪を提案

こうしたプロジェクトは、地元の森林組合にとっても問題解決の手助けになったという。

小国町森林組合・入交律歌さん:
私たち林業地も、もっと木を他の人に使っていただきたいが、なかなか家は建たない。家具にしてもらうといっても量がそんなに出るわけじゃない。

でも、このたくさん育ちきった木をどうしていくかというときに、全然違う切り口から、「布で頑張ってみませんか」って言っていただけたのは、また一つ柱を立てていただけたような気持ちだった。

熊本から日本全国へと、循環する生活の輪を広げたい川原さんは、今後の展望をこう語った。

Circulife・川原剛代表取締役:
いま熊本で熊本の間伐材、熊本の色でやっているが、各地域でやっていけば、それぞれ地域活性化にもつながる。地域ごとの適量生産・適量消費。最後は自然のものを使っているので廃棄ではなくて、土に戻すという循環サイクルを作っていければ一番いいかなと思っている。

SDGs「水不足に悩む人を減らす」にも貢献

「Live News α」では、日本総合研究所・シニアスペシャリストの村上芽(めぐむ)さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
木の糸と書いて、“木糸”。SDGsに詳しい、村上さんの目にはどのように映っていますか。

日本総合研究所・村上芽さん:
“木糸”という素材がSDGsに貢献できる側面は、たくさんあります。まず、せっかく育っても、木材にするには不向きな木の使い道が広がります。

最近では、バイオマス発電に使うという方法もありますが、燃やしてしまうよりも、繊維のような素材に変えるほうが、付加価値を高くすることができます。

そうすると、林業を営む際の収入源が増えますから、森林を持続可能なかたちで経営し続けやすくなると考えられます。これは、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」に貢献します。

堤 礼実 キャスター:
間伐材から洋服やバッグを作るのは、地域の森にも地球にもやさしい、素敵な取り組みですよね。

日本総合研究所・村上芽さん:
衣服の生地になるとき、ポリエステルなどの化学繊維に代わることができれば、石油由来の材料の消費を減らすことになります。

同じ天然素材と比べるとしても、綿の生産はほとんど外国ですし、現地で非常に多くの水を使うという事情もあります。

そこで、国内で、しかも、水をやらずに育つ木を使って糸をつくることができれば、環境への負荷を減らすことも期待できます。

めぐりめぐって、海外で水不足に悩む綿の産地に少しでも貢献できれば、「水不足に悩む人を減らす」ことを含む目標6につながるといえます。

着古しても「土に還る」安心感

堤 礼実 キャスター:
この“木糸”が、地域の事情や課題の解決と、向き合っていることについては、いかがですか。

日本総合研究所・村上芽さん:
製造工程では、草木染の染料や、熊本県の地熱のように、豊かな自然の恵みを生かそうとされているため、SDGsでいえば「農業」や「再生可能エネルギー」にも貢献しますし、地元で魅力的な仕事を作り出せることは、「働きがい」や、「住み続けられるまちづくり」にもつながるといえます。

衣服はそもそも、大量生産大量消費が問題になっていますが、素材が木や草であるとしっかり分かっていれば、どうしても着られなくなったときには、コンポストに埋めてのかな土に還ると考えると、着古したときにも安心でいられそうです。

堤 礼実 キャスター:
自然に近いものを手に取ったり、身につけた時に心地よいと感じることが多くある気がします。
それが地球にも優しいものであると、より、うれしさが増しますよね。

(「Live News α」5月10日放送分より)