親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご」が熊本市の慈恵病院に開設されて、2023年5月で16年になる。熊本市の大学生・宮津航一さんは2022年の春、自らを「ゆりかご」に預けられた子どもだと公表した。
当時3歳だった航一さんを迎えた両親は、のちにファミリーホームの運営を始め、航一さん自身もそこで成長した。生みの親以外による家庭的な養育の場の一つ、航一さんも育ったファミリーホームを取材した。

生みの親以外の「家庭的な養育」

2023年3月、熊本県内のファミリーホームで誕生会と送別会を兼ねたパーティーが開かれた。「きょうの景品はスイーツ!早いもん勝ちです」の声に、子どもたちも喜んでいる様子だった。

ファミリーホームのパーティーで出たスイーツ
ファミリーホームのパーティーで出たスイーツ
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ホーム長の永嶌洋三郎さん(81)は妻、そして息子夫妻らとともに6人の子どもを養育。実の孫4人も含め、子どもは2歳から19歳までの総勢10人だ。血のつながりや年齢に関係なく一緒にゲームをしたり、みんなで楽しむ。

「ファミリーホーム」は、親が育てられない子どもを里親や児童養護施設などでの経験を持つ養育者が、自らの家庭に迎え入れ養育する制度で、小規模住居型児童養育事業とも言う。

後片づけを手伝っているのは高校生のミキさん(仮名)だ。

ーーいつもお手伝いとかしてくれるんですか?

永嶌さんの息子の妻:
「ちょっとこれして」って言ったらしてくれます

ミキさん(仮名・高校生):
うん。料理関係だったらね

ミキさんは、さりげなく小さい子の面倒を見たり、子どもたちの中でも優しいお姉さん的な存在だ。

求められる“ホームの増加”

熊本県ファミリーホーム協議会は、県内8つのホームによって2022年に設立された。永嶌さんが会長を務めている。

熊本県ファミリーホーム協議会・永嶌洋三郎会長:
よりよいファミリーホームを目指すため、8月に設立しました

事務局のスタッフとして宮津航一さん(19)も参加している。

「ゆりかご」に預けられていたと公表した宮津さん
「ゆりかご」に預けられていたと公表した宮津さん

宮津航一さん:
家庭に近い環境で育つことは大事だと自分の経験から思う。今8ホームですが、さらに必要。僕も発信していきたいと思っている

熊本県ファミリーホーム協議会は、定期的に会合を開いて意見交換している。

熊本県ファミリーホーム協議会・宮津美光副会長:
ホームごとにいろんな悩みがあります。力を合わせて、そのことを話し合ってまとめて、意見として(行政などへ)あげていこうとやっていきたい

児童虐待などによって親と暮らせない子どもは、熊本県内で642人(2021年度末現在)、熊本県内8つのファミリーホームには合わせて31人(2023年4月1日現在)の子どもが生活しているが、ファミリーホームを含む家庭的な環境で里親のもとに暮らす子どもは全体の約15%(2021年度末現在)にとどまっている。85%は児童養護施設などで生活している。

ファミリーホーム協議会の定例会には、里親の支援を行うNPO法人なども参加する。

NPO法人 優里の会・黒田信子理事長:
なかなか里親が足りない状況がある。(定例会に参加し)いろんな意見をいただくことで、私たちも子どもをきちんとマッチングできるメリットがある

家庭の「一つのかたち」

2023年4月の朝6時半、永嶌さんのファミリーホーム。この日は、子どもたちの小学校は遠足ということで準備に大忙しだった。

小学生のハルカさん(仮名)は2歳の時にこのホームにやってきた。

ハルカさん(仮名・小学生):
お母さん、これに入れて

永嶌さんの息子夫妻は、ハルカさんにとって両親も同然の関係だ。一緒にお弁当箱におかずを詰めたり、お手伝いもお手のもの。永嶌さんの孫たちとは、まるで兄弟姉妹のようだ。

ホーム長・永嶌洋三郎さん:
分け隔てしないことです。対等にという考えもあるしね。そして大きくなったらもうきょうだいですからね

永嶌さん自身、幼い頃に両親の離婚を経験、母親に引き取られ、ほかの兄弟とは別々に育った。

ホーム長・永嶌洋三郎さん:
そういうことをなじるんじゃなく、ご縁に対して自分にも因縁があるんだなと思った。現実に味わってますから

永嶌さんは、価値観が多様化する今だからこそ、子どもたちにとって揺るぎないよりどころが必要だと考えている。

子どもたち:
行ってきます。遠足楽しんでくるね

永嶌さんのホームでは、養育していた子どものうち2人が先日、親元に帰った。3月のパーティーで後片づけを手伝っていた高校生のミキさん(仮名)もその1人だ。
ミキさんは手紙を残していた。

ミキさん(仮名・高校生)が残した手紙(抜粋):
本当は泣きたいぐらい悲しいです。それだけここで過ごす時間がとっても楽しかったです。食卓を囲むこと、私には当たり前のことではなかった。もう一度お母さんとしっかり向き合って話をしてみようと思います。こんなふうに思えたことも、たくさんの人からの支えがあったからだと思ってます。

家庭的な環境での養育を必要をする子どもがいる。ファミリーホームもまた家庭の一つのかたちだ。

(テレビ熊本)

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