「大谷はここじゃない果ての銀河からやってきたんだ!」メジャーの実況がこう表現した。
確かに、この惑星は大谷の舞台としては狭すぎるのかもれしれないーー。

4月22日カンザスシティ・ロイヤルズ戦に先発した大谷は7回102球を投げて被安打2、11奪三振の無失点で今季3勝目をあげた。この時点で奪三振数38も防御率0.64もア・リーグトップ。開幕してまだ1カ月もたっていないが、メジャー最高の投手に与えられるサイヤング賞の最有力候補との報道も出てきている。

そんな脅威のピッチングを徹底解剖。打者心理・捕手心理・投手心理、それぞれが“勝負の瞬間”に何を考え、勝敗が決したのか。3つの視点から紐解いていく。

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さらに吉田正尚との侍ジャパン対決でも躍動した大谷。「S-PARK」ではアメリカ・ニューヨークにある、最新のテクノロジーを駆使して、メジャーリーガーのデータを分析する「スタットキャスト」を訪れ、そこで大谷を担当するプロフェッショナルを独自取材した。

ビッグマッチの裏に隠されたマル秘データを明かしてもらった。

1:「打者心理」から深掘り

まずは圧倒的だった22日の登板を「打者心理」から振り返る。

今季、大谷の好投を支えているボールがスイーパー。スイーパーとは横の変化量が大きいスライダーのことだ。

22日の球種別の投球割合は、スイーパー43%、カットボール23%、ストレート20%、カーブ9%、スプリット5%と、スイーパーを投げた割合が最多。大谷は4つの三振を奪うなど、ロイヤルズ打線を翻弄した。

データ分析のプロであるアドラー氏も、大谷のスイーパーに舌を巻く。

どれだけ失点を防いだかを表す数値「Run Value」で大谷のスイーパーは「8失点」を防ぎリーグトップタイ
どれだけ失点を防いだかを表す数値「Run Value」で大谷のスイーパーは「8失点」を防ぎリーグトップタイ
どれだけ失点を防いだかを表す数値「Run Value」で大谷のスイーパーは「8失点」を防ぎリーグトップタイ
どれだけ失点を防いだかを表す数値「Run Value」で大谷のスイーパーは「8失点」を防ぎリーグトップタイ

MLB.com スタットキャスト分析担当 D・アドラー氏:
大谷は昨シーズンからスイーパーで誰よりもストライクを奪っています。いま大谷翔平のスイーパーは、野球界で最も価値のあるボールなんです。どれだけ失点を防いだかを表す数値「Run Value」というものがあるのですが、大谷のスイーパーは「8失点」を防いでいてリーグトップタイに立っています。

いま世界最高のボール、大谷のスイーパー。

とはいえ、これだけ多投していれば「打者心理」として、そのスイーパー待ちになりそうだが、今季開幕戦で大谷と対戦したアスレチックスの選手はこう語った。

オークランド・アスレチックス S・ランゲリアーズ捕手:
真ん中に入ってきたら別だけれど、大谷のスイーパーを打つことは難しいよ。98マイル(158km/h)のストレートがあるのに、スイーパーは待てない。ストレートを狙うしかないんだ。 

平均130キロ台のスイーパーだけを狙っていると、160キロに迫るストレートへの対応が困難になる。

22日も初回、ロイヤルズの1番・ウィットJr.に対し、初球133km/h真ん中のスイーパーで見逃しストライク。二球目も133km/h低めのスイーパーで空振り。三球目も136km/hのスイーパーでファウル。スイーパーを続けて追い込むと、最後は159km/h真ん中のストレートで空振り三振を奪った。

そして4回、ウィットJr.との2度目の対戦。カウント1-1からスイーパーで追い込むと、今度の決め球は140km/hのスイーパー。ストレートが頭にある「打者心理」の裏をかいた。

カンザスシティ・ロイヤルズ B・ウィットJr:
今夜は完敗だ。大谷のスイーパーを打ちたくて、僕がいろいろと打席で試行錯誤し過ぎたのかもしれないね。そういう部分を彼に突かれた結果だと思っているよ。

2:「捕手心理」から深掘り

続いて、「捕手心理」から大谷のピッチングを振り返る。

22日の試合、大谷に3勝目をもたらしたのは、C・ウォーラックの一振り。決勝の2ランホームランを放ったウォーラックは、左肩を痛めた正捕手L・オハッピーに代わり、今季メジャー初昇格で即スタメンマスク。

実は、大谷が先発する試合で、今季捕手が打ちまくっているのだ。22日の試合の前までバッテリーを組んでいたオハッピー。大谷が登板している時の打撃成績は、8打数4安打2本塁打4打点と大活躍。バッティングで大谷を援護していた。

なぜこんなにも打つことができるのか?その答えは、「捕手心理」を考えた大谷の行動にあった。

ロサンゼルス・エンゼルス 大谷翔平:
僕が投げている時は、僕からも球種を出しているので。なるべくオフェンスに集中してもらえるように、まずはディフェンス面での不安はなるべくなくしたいとは思っています。

昨季から導入されたサイン伝達機器「ピッチコム」。今季から投手から捕手に送信することが可能になった。大谷は自らこのピッチコムを使って、サインを送っている。

つまり、配球を組み立てているのは捕手ではなく大谷。22日の試合でも ピッチコムを操り三振の山を築いた。

17日の週に投げたエンゼルス先発陣の中で、投手がサインを決めているのは大谷だけ。17日(月)デトマーズ、19日(水)スアレス、20日(木)キャニング、21日(金)サンドバルがそれぞれ先発した時は捕手側がサインを出し、18日(火)と22日(土)に先発した大谷だけが自分でサインを出していた。基本的には捕手がヒザにつけたピッチコムでサインを送信しているのだ。

配球の組み立てについて聞かれた大谷は「楽ということはないですかね。楽しい部分はある。自分で決めて投げることに対する責任も出てきますし、何より言い訳ができない。あらゆるカウントで考えながら投げるのは、1つ作業は増えるけれど、その分楽しい」ポジティブな姿勢でピッチコムを使っていた。

その結果、捕手はディフェンス面での負担が減り、バッティングに集中。大谷を援護することができている。

ロサンゼルス・エンゼルス C・ウォーラック:
サインを出すのは少しプレッシャーだし、大谷が出し続けてくれるならいつも受けたいよ。毎回打ちたいからね。

3:「投手心理」から深掘り

最後は「投手心理」。大谷が見せた“一瞬の神判断”に注目した。

それは3回、ノーアウト一塁の場面。ピッチャー返しの打球、バウンドしたボールを大谷はスルー。遊撃手のネトが二塁ベース近くでキャッチし、6-6-3のダブルプレーが成立した。

ロサンゼルス・エンゼルス 大谷翔平:
ネトの守備力というか、送球の良さがあれば十分アウトになると思ったので。最初は捕ろうかなとも思いましたけれど、捕るよりはスムーズにグラブを引いた方がいけるんじゃないかと思いましたね。

「投手心理」としては反射的にキャッチしたくなるボールだが、仲間を信じてダブルプレーを生み出した。  

侍対決“大谷翔平vs吉田正尚”

WBCで日本を世界一に導いた「大谷翔平対吉田正尚」の1打席のみとなった“侍対決”。

アドラー氏は「大谷は球種の区別ができないよう上手くカモフラージュしていた」と語る。

まず全4球を振り返ると、1球目は得意のスイーパーで見送りストライク。続く2球目もスイーパーでファウル。3球目はカーブを見逃し。1ボール2ストライクで迎えた4球目。最後はストレートで吉田を空振り三振に仕留め、メジャー初対決は大谷に軍配があがった。

ここでアドラー氏が興味を持った点は三振を奪った球種だという。

MLB.com スタットキャスト分析担当 D・アドラー氏:
興味深いのはこの三振を奪った球種が、今シーズンあまり使うことのなかった高めのストレートだということです。

大谷の高めのストレートの割合は昨季38%だったのに対し、今季は16%と減少傾向。大谷にとっては珍しい高めのストレート。

谷翔平と吉田正尚の初対決での球種と軌道
谷翔平と吉田正尚の初対決での球種と軌道

特別に3D解析をしてもらうと、そこには高めのストレートを生かす大谷の投球術があった。

大谷翔平と吉田正尚の初対決での球種と軌道
大谷翔平と吉田正尚の初対決での球種と軌道

初球のスイーパーと最後の高めのストレートを比べてみると、最初はボールの軌道がほぼ同じ。スイーパーだけ急激に変化しているのがわかる。

MLB.com スタットキャスト分析担当 D・アドラー氏:
ストレートがスイーパーに見えてくるんです。その2つを見分けるのは難しい。

今季、多投しているスイーパーがあるからこそ高めのストレートが生きた大谷の投球だった。

今季は開幕から無傷の3連勝、ここまで許したヒットは僅か8本の大谷。シーズン最初の5試合ではメジャー新記録となる、被打率「0割9分2厘」をマークしている。 次回登板は、27日午後(日本時間28日早朝)開始のアスレチックス戦。スイーパーをどう配球してくるのか注目だ。

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4月29日(土)24時35分から
4月30日(日)23時15分から
フジテレビ系列で放送