共働きや一人親家庭の増加で「学童保育」が足りず“待機児童”が問題となる中、子どもたちにより良い環境で放課後を過ごしてほしいと、一から学童保育を作った女性がいる。新たに作られた施設には、子どもの成長を考えた“ある狙い”があった。

子どもたちに“何でも挑戦させること”

諫早市栄田町に2023年4月に開所した学童保育「そらのたね」。子どもたちが集まって、今か今かと待っていたのは…。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
みんな~釜あけるよ~!スリーツーワン、ゼローッ!!

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歓声が上がる中、できたのは釜で炊いたご飯。子どもたちは、炊きたてのご飯でおにぎりを自分でにぎって、口いっぱいにほおばった。

児童:
おいしい!

児童:
うまい!

学童保育「そらのたね」には、ほかの学童にはあまり見られない特徴がある。

テレビ長崎・円田智子アナウンサー:
中に入ってみると、天井が高く開放感があります。足元に目を移すと「土間」になっていて、さらに一角には、今ではあまり見ることができない「かまど」も備えられているんです

昔ながらの「かまど」が
昔ながらの「かまど」が

昭和30年代まで日本の台所に欠かせなかった「かまど」。ガスコンロやIHに代わり、ほとんど見ることがなくなった「かまど」を学童保育に作ったのは、子どもたちに負けないぐらいパワフルな平古場瑠美さん。元保育士で3つの学童保育の理事長を務めている。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
(子どもたちや職員に)少しでもいい環境を作りたいよね、子どもの成長は待ってくれないから。行政が…とか何かの理由をつけて先延ばしにするよりも、(新しい学童づくりを)できるんだったらやっちゃおう!みたいな

2022年9月に始まった「そらのたね」の工事。建物には「子どもたちに日本文化の良さを感じてほしい」という平古場さんのこだわりがつまっている。

建築材には長崎県産材を使用するこだわり
建築材には長崎県産材を使用するこだわり

建築材のほとんどが長崎県産材で、壁には耐火性や湿度の調節に優れたしっくいや土が使われている。

子どもたちも一緒に作業
子どもたちも一緒に作業

壁の一部は、竹を網の目状に施す昔ながらの工法「竹小舞(たけこまい)」で、職員や子どもも一緒に作業に汗を流した。

中でも平古場さんの強いこだわりは「かまど」。「火を扱ったことがない」「マッチをすったことがない」子どももいる中、子どもたちに「あえて不便さを経験させたい」という平古場さんの狙いがあった。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
かまどを置くことで危険もある。だからこそ、言葉がけや(友達同士の)目配り気配り、面倒くささの中から人とのつながりができると思うので、あえて置いた

かまどは、保育所などにピザ釜を作った経験もある山田祐さんに依頼した。

ーー学童にかまどがあることについて

木工家・山田祐さん:
いいなと思う。何でも結果が出るまでに意外に時間がかかることを今の子どもは知らない。前段階が本当は楽しいんだと早く気づいたほうが、人生は絶対楽しい

2023年4月10日、開所して初めてかまどでご飯を炊く日。
平古場さんがつくる学童保育のモットーは、子どもたちに“何でも挑戦させること”だ。

この日集まった新1年生も、率先してお手伝いをする。昼食メニューの豚汁に使う野菜を包丁で切ったり、かまどに使う薪(たきぎ)も小学校の裏山で子どもたちが集めてきたものだ。

「かまど」はクラウドファンディングで

平古場さんが学童保育を始めたのは、9年前の2014年。2人の子どもの母親で保育士をしていた平古場さんは、長年の夢だった学童を作ろうと一念発起。自費を投じて「にじのたね」を立ち上げた。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
つらい時も苦しい時も、小さい時の思い出が自分を励ましてくれた。人間の土台期に「この世は美しい!」という感性が育っていたら自分を信じる力になるだろう。次は自分がそれを提供できる立場の大人になりたかった

現在、平古場さんは諫早市御館山小学校区内に3つの学童を運営し、186人の児童・生徒の放課後の居場所となっている。(2023年4月現在)

しかし、国からの補助は十分ではなく、決して潤沢とはいえない資金繰りのため、念願だった「かまど」はクラウドファンディングで資金を募った。

平古場さんの思いに賛同した人たちからの支援金は、約2カ月間で目標金額の2倍の200万円を超えた。多くの人の支援を受けて設置された「かまど」に、子どもたちも興味津々だ。

ーー火を近くで見てどうですか?

児童:
楽しい。

ーー煙の匂いはどうですか?

児童:
いい匂い…じゃないよ!くさい!

危険なものをすべて排除するのではなく、子どもたちにどう扱うかを見せて、教える。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
今、かまどに火をつけたけど、触ったら?

児童たち:
熱い!

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
火が消えたあとも?

児童たち:
ちょっと熱い。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
ちょっとどころじゃない。すごく熱い! 1回火をつけたかまどには、その日1日触りません!

「幸せを見いだすような大人に…」

そして時には、失敗も。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
まだまだやった。難しいね。失敗もあるある!もう1回もう1回!やっちゃいましょう!

「かまど」は火加減や時間、“蒸らし”のタイミングなどが難しく、かまどでの初めての炊飯は大成功!とはいかなかったようだ。

NPO法人「にじのたね」理事長・平古場瑠美さん:
いずれ自分たちで、挑戦したり失敗したり挫折したりがあると思う。物事をしっかり受け止めて、幸せを見いだすような大人に育ってほしい

「失敗した」経験も「成功した」という経験も。 平古場さんがつくる学童保育には、子どもたちが将来、花を咲かせるための多くの「たね」がつまっている。

全国学童保育連絡協議会が行った調査では、小学生が学校で過ごす時間は年間1,140時間。それに比べて、学童保育で過ごす時間は1,630時間と、約500時間も長い時間を学童で過ごすという結果もある。(小学1~3年生の平均・2007年調査)

多くの時間を過ごす学童で、手間と時間はかかっても、みんなで協力しながらご飯を炊いて一緒に食べたおにぎりの味は、子どもたちにとってかけがえのない記憶として残るだろう。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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