外国人の収容の在り方を見直す入管法改正案がいま国会で審議されている。こうした中、名古屋入管で死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの死に至るまでを映した映像、約5時間が国会で開示された。

 

「一昨年に視聴したビデオとは全く違う内容だ」

映像は297分。映像開示後記者団の取材に応じた衆議院法務委員会理事で、立憲民主党鎌田さゆり議員は、開示されたビデオは一昨年に視聴したものとは大きく印象が異なっていたという。

「一昨年に視聴したビデオでは、看護師さんのリハビリに(ウィシュマ)サンダマリさんがものすごく痛がっていたのが印象的でした。今回は食事のシーンが非常に多くて、まったく食べられないサンダマリさんに入管職員が食事をさせている場面がほとんどでした」

記者団の取材に応える鎌田さゆり議員(4月17日衆議院議員会館にて撮影)
記者団の取材に応える鎌田さゆり議員(4月17日衆議院議員会館にて撮影)
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今回開示された映像には、職員がウィシュマさんを侮蔑した発言、「鼻から牛乳」や「薬効いている?」などはなかった。

「一昨年のビデオと今回のものは、全く違う内容だという印象を持っています。今回初めてビデオをみた法務委員会の委員は、職員がちゃんと食事をお世話しているという印象を持ったのではないかと思います」(鎌田氏)

「裁判所の勧告に従ってお出しした」

野党側は「裁判で開示されている証拠のビデオを見ない限りは審議に入れない」と訴え続け、急遽ビデオを視聴することが決まった。しかし鎌田氏は、一部議員の姿勢について懸念をこう示す。

「裁判で開示されている証拠のビデオを見るということに、どれだけの議員、特に与党側が意義を感じているのか。途中退席した議員がいたり、寝ていた議員もいて非常に残念でしたね」

今回開示されたビデオについて齋藤法務相は閣議後会見で、「裁判所の勧告に従って『こういうものを出してほしい』ということで、それをお出ししたということと理解しています」と述べている。

齋藤法務相(11日、閣議後会見)
齋藤法務相(11日、閣議後会見)

「市民も映像すべてを見るべきだと思う」

この発言に対してウィシュマさん遺族側弁護士の高橋済氏はこう語る。

「弁護団は295時間、全ての動画を検証調書に添付することを求めていますが、国側はこれを拒否しています。なので弁護団が国に対してあくまで証拠を隠滅されないように保全したのが、今回国会で開示された5時間のビデオです。ただ弁護団はすべての映像を見られていません。いわば目を瞑った状態で、最終報告書などの文字情報から保全すべきと思われる映像を最低限要求したものなのです」

高橋弁護士「辛いシーンがあるかもしれないが、市民も映像すべてを見るべきだと思う」
高橋弁護士「辛いシーンがあるかもしれないが、市民も映像すべてを見るべきだと思う」

弁護団は295時間の映像すべてを法廷に出すように求めている。高橋氏はその理由をこう語る。

「弁護団は裁判の争点である、健康状態などが写っているであろう5時間のみをやむを得ず求めたにすぎません。またすべてを見て5時間を選んだわけでもありません。295時間の中にはもっと辛いシーンがあるかもしれません。しかし市民もこの映像を全て見るべきだと思います」

映像を出さなかったことが入管への不信感に

また鎌田氏もこう語る。

「私は一昨年のものと今回のものをみて、まったく違う印象を持っています。両方見ている人間として、編集なしの映像をすべて見せるべきだと思います」

ウィシュマさんの遺族が国会で傍聴していたことについて、齋藤法務相は「傍聴席に遺影を持たれていたので、改めて厳粛な気分になりましたし、本当に二度とこういうことを繰り返してはならないということを、改めて胸に刻ませていただいた」と語った。

審議入りした国会を傍聴したウィシュマさんの遺族(13日)
審議入りした国会を傍聴したウィシュマさんの遺族(13日)

また「今度の入管法改正というのは、私は長期収容をできるだけ回避する、それから保護すべき方はきちんと保護するという意味で大いに前進をしている法案だと思っておりますので、丁寧な説明をしますので、多くの国会議員の方に御理解をいただいて、1日も早い法の成立を期して努力していきたいと思っています」とも述べている。

これまで映像を出さなかったことで、入管に対する不信感が高まったのは疑いがない。「丁寧な説明をする」ためにも、映像はすべて公開したうえで入管法改正案についてより深まった議論してはどうだろうか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。