4月15日、和歌山市で選挙の応援に訪れていた岸田首相が、演説直前に爆発物を投げ込まれる事件が発生した。
安倍元首相の銃撃事件から9カ月、衆参の補欠選挙もある統一地方選を前に全国各地で街頭演説などが行われているが、こうした事件を防ぐ手立てはないのだろうか。

「最後の砦は守られたが最初の砦は…」
内閣危機管理監や警視総監を務めた警察庁OBの米村敏朗氏は「最後の砦は機能した」と取材に話した。最後の砦、つまり不審物を投げられた後のSPら警護にあたった警察官が岸田首相を離脱させる一連の行動は迅速で適切だったとしている。

一方で「問題は最初の砦だ」と指摘する。今回の現場には金属探知機は設置されていなかったが、「不審者がいたら声をかける、職務質問をする、場合によっては荷物を確認する、その上で現場から隔離して逮捕することもある。まず声をかけるところからスタートしないと機能しない」

警察当局は安倍元首相銃撃事件を受けて、政治的な背景や組織性が低い単独犯による「ローンオフェンダー」「ローンウルフ」型犯罪の対策として、銃などの製造方法を調べる可能性があるインターネット上の情報収集を強化してきた。

現場での想像と準備
米村氏は「安部元首相の事件など個人的な動機がいきなりテロという形に飛躍する状況の中で、ネット上での不審者の割り出しにも限界がある。そうなると現場での想像と準備が重要となる」と語る。
今回の事件でも爆発物の威力がさらに強く、地面に触れるとすぐに爆発するようものだったら結果は重大だった。

「警察庁が警備計画を事前に確認しても問題は現場となる。そういう意味でも現場を俯瞰的に見る指揮官や警察官が、ここが危ない、あの人はおかしいと指摘できるかどうかだと思う」
「握手しないと仕事にならない」
また演説場所などの選定をする政党側との調整には難しい面があったという。
「総理の秘書官だった当時、遊説で総理に握手を求めてくる聴衆の手をSPが振り払ったときに、あとから総理に『あれだけはやめてくれ。握手しないと仕事にならない』と言われたことがある。総理であっても政治家であれば、それでは政治活動はできないと思うところがあった」という。
「こうした事件を受けて警護する現場の声をできるだけ聞いてほしいとあらためて思う」
リスクとセキュリティの調和
別の元警察庁幹部も「今回は直近の警護員がよく動いた」と話すが、「所詮リスクはゼロにはならない。リスクを下げることはセキュリティの度合いを上げることで、政治活動の自由度は下がる。その調和をどうするのか、主催する政党側と警察が協議することになる」と話す。

ただ首相は行政のトップで自衛隊の最高指揮官でもある。「アメリカの大統領がああした遊説をやることはあり得ない。首相の立場は特別だ」と語る。

安倍元首相の事件を契機に警察当局は様々な施策を打ち出したが、結果として現職の首相が狙われる事件がおきた。多くの人を巻き込む可能性があるテロを防ぐための手立てを、選挙に関わるそれぞれの立場で考える時期に来ていると言える。
【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】