宮城県・白石川堤沿いに咲き誇る「一目千本桜」。1923年に植えられたのが始まりとされ、2023年で植樹100周年迎えた。一方で、約1200本のうち300本は樹齢100年となる老木。この宮城県内随一のサクラの名所を守ろうと、「樹木医」として活動を続ける男性がいる。

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一目千本桜の保護活動“樹木医”とは

樹木医 尾形政幸さん:
これは100年経った木です。この木は、ここから枝が出ているんだけど、本当に最後のエネルギーをふり絞っているような状況。かなり木が弱っている。

宮城県大河原町に住む尾形政幸さん(66歳)。「樹木医」として一目千本桜の保護活動を行っている。「樹木医」とは、財団法人が定める樹木の保護育成をする専門家。合格率は20%と狭き門だ。

サクラの寿命は60年から70年。一見、幹が太く丈夫そうに見えるが、寿命を超えた老木の表面には長年、害虫などから身を守ってできたコブが。そして、表面にキノコがびっしり生えている木も。これは、枝の切り口や小さな傷などから入った菌が繁殖して内部が腐っている証拠だという。尾形さんは、サクラと対話しながら枝のせん定や表面の保護など、一本一本の個性に沿った治療を施す。

樹木医 尾形政幸さん:
「苦しいよ」と言っているかもしれない。サクラに心があるなら「早く助けて」と言っているかもしれない。会話しきれないですよ、まだまだ。

尾形さんが、一目千本桜の保護活動を始めたきっかけは、高校生の時の学校行事だった。宮城県内の農業高校の教師になってからも生徒たちとサクラの希少種の復活プロジェクトや東日本大震災で被災した沿岸地域への植樹活動をしてきた。付き合いが長くなるにつれて次第にサクラに魅了されていった。

樹木医 尾形政幸さん:
高校教師時代にサクラの活動をしてきて定年する頃には頭の中がサクラ一色になっていた。 サクラをおいて人々を笑顔にする植物はない。

「サクラと長く付き合っていきたい」そんな思いで、尾形さんは、60歳で樹木医の試験に合格。定年退職後の2022年4月から活動を始めた。

次世代に引き継がれる「サクラ再生」

尾形さんの思いは若い世代にも引き継がれている。この日は、一目千本桜の再生プロジェクトに取り組む地元高校生たちが研究結果を地域住民に説明。弱ったサクラを再生するため光合成を促す活性剤を開発したという。

柴田農林高校による「一目千本桜再生プロジェクト」の研究結果報告
柴田農林高校による「一目千本桜再生プロジェクト」の研究結果報告

別の日には、サクラの開花を前に別の農業高校の生徒たちが堤防に植えられた成長の遅いサクラの育樹活動を行った。

県農業高校の生徒による植樹活動
県農業高校の生徒による植樹活動

木の周りに堀った穴に「空気管」と呼ばれる竹の筒を埋め込んでいく。これは、活動に参加した、宮城県農業高校の生徒たちが考えたもので、固まった土がほぐれ、地中に根が張りやすくなるという。柴田農林高校の生徒たちが開発した活性剤も流し込んでいく。

生徒たちは、「サクラを咲かせて人々を元気にしたい」と話してくれた。尾形さんの思いは、脈々と次世代に受け継がれている。尾形さんもそんな生徒たちの姿を見て、「未来を託せる」と満足げに語った。

「次の100年へ」新たなサクラを届けたい

一本一本の状況に合わせて治療を施し、きれいにより長く花が咲くよう、一目千本桜を支えている尾形さん。樹木医の仕事はそれだけではない。

樹木医 尾形政幸さん:
土手のサクラ、ソメイヨシノとシロヤマザクラから採った種も、ここにまいていまして、芽が出始めているところ。

この日、尾形さんが取り組んでいたのは「後継樹の育成」。次世代にサクラをつなげるという意味で、樹木医にとって大切な仕事の一つだ。特に、サクラが咲く3月から4月にかけては、品種改良にとって重要な時期だという。尾形さんはこの日、性質や特徴が異なる品種を交配させる受粉作業に精を出していた。開花直前のつぼみに綿棒でひとつひとつ花粉を付けていく、地道な作業だ。

樹木医 尾形政幸さん:
花粉が付くと限らないんですよ。開花していると他の花粉がついている可能性があるので…。

サクラの木1本あたり100個ほどのつぼみに受粉させ、実になるのは5個ほど。採れた実を土に埋めて芽が出るまで大切に育てる。3年後まで無事に成長するのはこのうち1本あるかないかだ。尾形さんは約20年前から新たなサクラの品種を生み出そうと取り組んできた。

樹木医 尾形政幸さん:
あんまり思いを強くすると、サクラの品種改良は続かないんですよ。ただサクラをやっていると非常に癒される。楽しんでやっているのが長く続けられたところかな。

尾形さんが、試行錯誤を繰り返しながらこれまでに開発したサクラは約60種類。その中に、「一目千本桜の中心になるかもしれない」と考えている品種がある。

「100年後も」一目千本桜と呼ばれるように

樹木医 尾形政幸さん:
これが紅桜、大河原紅桜といいます。

「ソメイヨシノ」と野生種の「エドヒガン」を交配させて誕生した「大河原紅桜」。一目千本桜の多くを占める「ソメイヨシノ」は、寿命が60年ほどとサクラの中では短命で、害虫被害にも弱いという特徴がある。

一方で「大河原紅桜」は、病気に強く寿命が500年ほどの「エドヒガン」の性質を引継ぎ、その弱点を克服。薄紅色の花をつけた大木に成長するという。9年前に交配した原木は、尾形さんの農地で満開を迎えていた。

樹木医 尾形政幸さん:
ソメイヨシノ自体が、寿命が短いので、寿命が短ければ植え替えもしなくてはならないし、手入れや治療が大変。大河原紅桜はあまり手がかからない。高木になるサクラなので遠くからでも豪華に見えます。

サクラの保護と新たな品種の開発。「地域の宝をこれからも引き継いでいく」。そんな強い思いが尾形さんの背中を押す。

樹木医 尾形政幸さん:
サクラは町の宝ですから、一目千本桜が、100年後にもそう呼ばれて長く続くようにという思いです。

植樹から100年、今まさに満開の時を迎えた「一目千本桜」。新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止していた「桜まつり」を4年ぶりに再開するなど、多くの人が桜を愛でる。

この風景が100年後も続き、訪れた人を笑顔にするように。
尾形さんはこれからもサクラを見守り続ける。

(仙台放送)

仙台放送
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