WBCの世界一に大きく貢献したメジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、侍ジャパンの壮行試合で名古屋市を訪れた際、名古屋城天守閣の木造復元に使う切り株にサインし、4月14日から一般公開されることが注目されている。

その名古屋城天守閣の木造復元工事は、完成までのスケジュールが大幅に遅れている。市は3月22日、「名古屋城天守閣の木造復元」について、「整備基本計画」の一部を有識者会議に提出した。

計画は3月中にまとめ、2023年度の早い時期に文化庁へ提出する予定で、その後文化庁での有識者会議に約2年半、木造天守の建造などの整備に約6年半かかり、完成は最短で2032年度になる見通しだ。

河村市長「2022年までにできなければ“全員切腹”」

この記事の画像(6枚)

名古屋城は1610年に築城が始まり、1612年に完成。1930年に城郭としては初めて「国宝」に指定された。しかし、1945年の「名古屋空襲」で焼失し、1952年には国の「特別史跡」として、1959年に残った石垣の上に鉄骨鉄筋コンクリートで再建。

年月がたち、2010年ごろには、老朽化に伴い補強や再建が議論されるようになり、2012年、河村たかし市長が「名古屋民族の誇りとして何とか成し遂げたい」と、「木造復元」を掲げた。

名古屋城は築城当時の設計図が残っていて、当時の造りで復元が可能な国内唯一の城だ。

2017年の市長選では「木造復元」を争点にして、河村市長が圧勝。その結果、2018年には工事のため天守閣の入場を禁止にして準備を進め、河村市長は「2022年12月までにできなければ関係者は全員“切腹”とまで話す覚悟だった。

完成時期の見通しは10年遅れの2032年に…木造復元への課題は

しかし、22日に示された今回の計画では、完成時期の見通しを最短で2032年度としている。

なぜ木造復元が進まないのか、理由は大きく3つある。1つは「石垣」の問題だ。現在残っている石垣は築城当時のもので、有識者は「歴史的価値が高く調査と保護」を最重要視するべきという声が上がっていた。

しかし、名古屋市は早く工事に取りかかろうと、有識者たちの同意が不十分なまま、計画の案を文化庁に提出した。

奈良大学で城郭考古学を専門の千田嘉博教授は「石垣の修復には、石をひとつひとつ形や状態を検証して結合するなどの措置が必要で、気の遠くなるような作業」と話し、かなりの時間と費用がかかると指摘している。また、熊本城の修復で職人も不足しているという。

2つ目は「安全性」の問題だ。石垣は「城の土台」のため、念入りな調査が必要だが、木造での復元を目指すには、建築基準法上、震度7程度の大きな地震が起きても、倒壊や崩壊しない安全性の確保が求められる。しかし、昔通りの図面で復元する場合、安全性が確保されるのかという問題があがった。

「特別史跡」は建築審査会の同意が得られれば、建築基準法の適用を除外できるため、市はその対応を求めてきた。ただ、名古屋城は多くの人が集まる観光地のため、建築基準法の適用外になった場合の安全性をどう確保するのかが議題になっている。

3つ目は「バリアフリー」の問題だ。今の名古屋城には、中にも外にもエレベーターがあるが、築城当時の設計図に忠実に復元するとなれば、エレベーターをつけることはできない。市はバリアフリーに配慮して、地下1階(石垣部分)から1階部分に小型昇降機をつけると提案したが、障害者団体から「それでは不十分」として抗議の声もあがっている。

市が提出した22日の「基本計画」では、新たに天守閣の横にある「小天守」にスロープを設置する案が示されたが、有識者からは「景観が損なわれる」、河村市長は「何も聞いていない」と話している。

市は2023年度の早い時期に、整備基本計画を文化庁に提出する予定だ。

2023年3月22日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
東海テレビ

岐阜・愛知・三重の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。