役所の文書に目を通している時、「所管する」など、いわゆる“お役所言葉”の意味が分からず、内容を理解できなかったという経験はないだろうか?

こうした中、三重県松阪市が、広報紙やリリースなど市民向けの文書を分かりやすくする「伝わる広報文書作成マニュアル」をまとめ、3月16日から運用を開始した。

松阪市役所
松阪市役所
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「伝わる広報文書作成マニュアル」の掲載事例によると、マニュアルには以下のような方針と例が示されている。

◆お役所ことばは使わない
(例)「所管する」 → 「管理する、担当する」

◆命令調・否定形の表現は避ける
(例)「記入のこと」 → 「記入してください」
(例)「10日以降は受け付けません」 → 「9日までに申請してください」

◆漢字を続けるのは避ける
(例)「○○小学校長寿命化改良工事」 → 「○○小学校の長寿命化に向けた改良工事」

◆法令用語・専門用語は、わかりやすいことばに言い換える
(例)「○月○日から供用開始」 → 「○月○日から利用できます」
(例)「特別徴収」 → 「(年金などからの)引き落とし」

◆カタカナ語は注意して使う
(例)「インクルージョンは~」 →「多様な人々を受け入れ共に関わって生きる社会を目指す『インクルージョン』は~」

◆略語はなるべく使わない
(例)「国保」 → 「国民健康保険」
(例)「ADL」 → 「食事、排せつ、着替えなどの日常生活動作」

◆体言止めは多用しない
(例)「経費の削減」 → 「経費を削減します ※情報の正確性を欠く」

◆「ナッジ理論」を活用する
ナッジ(nudge:そっと後押しする)とは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのこと。

松阪市では「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けするような文章にすること」としている。

(例)「納税が遅れています。支払ってください。」 → 「あなたの街では10人中9人が期日内に納付しています」

役所の文書が分かりやすくなりそう、という期待が持てる内容なのだが、そもそも、このようなマニュアルをまとめた理由は何なのか?

また、いわゆる“お役所言葉”を使わないことについて、市民や役所で働いている人は、それぞれ、どのように受け止めているのか? 松阪市の担当者に理由と反響を聞いた。

きっかけは「潜在保育士」という言葉の意味が分からないという声

――このようなマニュアルをまとめた理由は?

去年、保育士の資格は持っているが、保育士として勤務をしていない「潜在保育士」の登録促進事業を実施した際に、市民の方から「潜在保育士」という言葉の意味が分からないという声がありました。

その際、市役所で日常的に使っている言葉であっても、市民の皆さんには伝わらない言葉があるということを改めて実感するとともに、このような言葉を改めることで、「読む人に伝わる文書」、そして「市が伝えたいことがしっかりと伝わる文書」にしなければならないと感じました。

そのような時に、愛知県一宮市が「伝わる文書作成の手引き」を作成されているということを知り、一宮市および、一宮市が手引きを作成する時に参考にした愛知県犬山市にお話を伺い、一宮市と犬山市の手引きを参考にして、今回のマニュアルを作成しました。

「広報 まつさか 2023年3月号」
「広報 まつさか 2023年3月号」

――松阪市では、このマニュアルに沿って、いつから市民向けの文書を作成している?

運用開始については3月16日となっています。ただし、反映されるのは3月16日以降に作成された文書となります。実際に発行される文書に反映されるのは、新年度頃(4月頃~)からになると考えています。


――役所内の文書に使う言葉は、いわゆる“お役所言葉”のまま?

今回のマニュアルについては、あくまでも市民などに向けた広報文書用のものとなっています。そのため、役所内で使う言葉は対象としておりません。また、その他にも公用文や文書の相手・場面などに応じて、このマニュアルに沿ったものだけではなく、それぞれに適した文書とするようにしています。

「職員一人一人が伝わる言葉を意識する」

――いわゆる“お役所言葉”を改めることについて、市民や役所で働いている人は、それぞれ、どのように受け止めている?

まだ、このマニュアルに沿った文書が発行されていませんので、市民の皆さんがどのように受け止めているのかは分かりません。

役所内では「このマニュアルにあるようなお役所言葉を使っていたので、分かりやすい文書にすることは良いこと」といったような声がありました。

すぐに、すべての広報文書で、このマニュアルをしっかり守った文書とすることは難しい部分もあると考えています。しかし、このマニュアルを基に、職員一人一人が伝わる言葉を意識することで「読む人に伝わる文書」「市が伝えたいことがしっかりと伝わる文書」となっていくと考えています。


――役所から個人に送る「通知文書」が、このマニュアルの対象になる可能性は?

通知文書にも、このマニュアルを反映させていこうと考えています。

イメージ(通知文書)
イメージ(通知文書)

市民向けの文書に、いわゆる“お役所言葉”は使わないことが明記された、三重県松阪市のマニュアル。今後は広報紙だけでなく、目にする機会が多い通知文書など幅広く反映されていくこと、そして、多くの自治体に広がっていくことを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。