岸田首相はウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。一方、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領も首脳会談を行い、共同会見で結束を誇示した。BSフジLIVE「プライムニュース」では2つの首脳外交を分析し、ウクライナ情勢について議論した。

秘密外交ができなかった従来の日本は、報道協定を守れる国となれるか

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新美有加キャスター:
極秘で進められた岸田総理のキーウ訪問では、ロシア兵によるウクライナ民間人の虐殺があったとされるブチャ訪問後、ゼレンスキー大統領と会談。日本出発前、岸田総理は質問に対しとぼけざるを得なかったが、秘密の保持など慎重に進めたとキーウで発言。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹: 
当然。秘密を守るには政治家、官僚、メディアの共同作業が必要。従来、日本のメディアは秘密を必ずしも守らなかったが、今回は成熟を感じる。これが前例になれば。

反町理キャスター:
報道機関が同行するが情報が漏れないように報道協定をする、とまでは至っていない。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
次の段階で。それが主要国の外交力。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
報道協定を守れる日本になってほしい。また現地での警備のために自衛隊などが行けない点は、今後検討が必要。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
今回は事前にロシア側に通達しており、ロシア当局からの攻撃の可能性は非常に低かった。だが、ウクライナ国内にも小規模でコントロールのきかない親露派が多くいる。いろんな事態を想定することが非常に大事。

日本とウクライナ、中国とロシアの関係が対比される構図

新美有加キャスター:
岸田総理はウクライナに対し、エネルギー分野などで日本円で約600億円の追加支援、殺傷能力のない装備支援として約40億円の拠出、また2国間関係の「特別なグローバルパートナーシップ」への格上げに合意したと発表。ゼレンスキー大統領は、G7広島サミットへのオンライン参加、復興協力への期待などを語った。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
グローバルパートナーシップはNATO(北大西洋条約機構)用語。パートナーとしての日本とウクライナが三角形をつくる形で、NATO協力でもある。岸田総理がNATOとの連携を強めてきた成果。

反町理キャスター:
ロシアが虐殺を否定しているブチャの訪問について。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
行くべきでなかった。ロシアと西側で見方が異なり、明らかに作為があるという意見もある。岸田総理が今踏み込む必要があったか。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
絶対に行くべきだった。衛星写真など証拠が積み重なっている。西側の情報に疑義があるなら、G7の一員として大丈夫かとなる。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
ウクライナの戦争はグローバル。日本が踏み込むのは、我々の近くにも独裁者がいる強い危機感があるから。ロシアがお咎めなしなら、必ず我々の地域にも波及する。

反町理キャスター:
米「ワシントン・ポスト」紙の論評。中国の習主席と岸田総理を指し、「ロシア・ウクライナそれぞれと首脳会談を行ったアジアの2人の指導者による非常に対照的な構図は、中国の東アジアにおける影響力増大を牽制するとともに、対ロシアにおいて日本は西側諸国と協調するアジアのリーダー国であることを示そうとした」。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
アメリカにとって最も脅威なのは中国。ワシントンからはそう見える。

反町理キャスター:
岸田総理の「G7として、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したい」は対露だけではないと。対露・対中の国際協調も、素地が固まってきたか。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
そう思う。岸田政権は純粋に国政上の日程で決めたところ、この構図になったのだと思うし、日本政府にもここまでのアピールはまずいと思う人がいる可能性は高い。だが私は、もう腹をくくりませんか、と言いたい。

表向きには「仲裁」の中国から、ロシアへ武器は流されるのか

新美有加キャスター:
岸田総理・ゼレンスキー大統領の共同会見から数時間後、習近平主席とプーチン大統領も共同会見を行い共同声明を発表。プーチン大統領はウクライナへの軍事支援を強める欧米を「西側」として批判したが、習主席は批判せず、仲裁と対話を促してきたと述べた。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
習近平はアメリカとの対立を国益と考えていない。ただ、記者会見の前日に4時間半の対談をしており、中露の距離は明らかに縮まった。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
習主席はロシアが負けては困るが、勝ってほしくもない。むしろ距離は縮まらなかったと思う。

反町理キャスター:
プーチン大統領は「中国提唱の和平計画の多くは、ロシアのアプローチと一致」。だが、12項目のうち「民間人や捕虜の保護」「原発の安全確保」「核を使うな」など、のめないと思うが。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
プーチンから見て一番重要なのは停戦。中国の立場はニュートラルで、ロシアが侵略したというニュアンスがゼロ。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
中身がない。クリミアの主権についてなど何も言っていない。中国に本気で仲裁する気はない。情報戦の一環と見るべき。

東野篤子 筑波大学大学院教授
東野篤子 筑波大学大学院教授

東野篤子 筑波大学大学院教授:
中国がわからせたのは、ロシアは中国の経済的・政治的なリーダーシップに従うほかないという上下関係。共同宣言も、ロシアでの決済を人民元で進めるなど、主導権は完全に中国。

反町理キャスター:
「第三者に向けての軍事・政治的同盟ではない」と強調。だがロシアは軍事支援が欲しいのでは。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
こう書くということは、実はそうだということ。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
この文章が入った点は中国の勝ち。だが、絶対に武器が流れないかというと話は別。世界中にいる武器商人は、儲かるために何でもする。その武器が流れれば誰がやったかもわからない。

反町理キャスター:
ゼレンスキー大統領が2022年11月に停戦交渉再開の5条件を出しているが。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
ウクライナとしては、中国が全く違うものを出して和平案というのは違うと。ロシアが侵略して始めた前提もなく、二度と侵略しない保証にも触れていない。ゼレンスキー大統領の言う最終的な平和をもたらす「平和の公式」10条件にも重ならない。

中国による仲裁は無理 トルコかインドか、どの国にも不可能か

新美有加キャスター:
米NSC(国家安全保障会議)のカービー戦略広報調整官は「中国はロシア寄りの立場、公平と見ることはできない」「中国が建設的な役割を果たしたいなら、ロシアに軍を撤退させるよう圧力をかけるべき」と強調。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
アメリカの基本的な立場。習主席の訪露前から、アメリカは「中国の武器や弾薬がどこかに流れている」など情報戦を仕掛けている。

反町理キャスター:
アメリカの対中圧力をロシアはどう見るか。

東郷和彦 元外務省欧亜局長
東郷和彦 元外務省欧亜局長

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
ロシアは「自分が正しい」というアメリカの姿勢に徹底的に反対する。だがロシアも、中国が12項目を出したから仲裁が成立するとは思っていない。

反町理キャスター:
どの国の仲裁ならばウクライナがのめるイメージがあるか。

東野篤子 筑波大学大学院教授:
開戦後すぐの停戦交渉ではトルコが仲裁していたが、地震以降、ほとんどイニシアチブをとれていない。ウクライナは引き続き期待していると思うが。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
トルコの仲裁には賛成。もうひとつ挙げるならインド。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
当分、どこの国も無理。戦争の決着は戦場でつく。

「戦狼外交」から「関与外交」へ 高まる中国の外交力

新美有加キャスター:
3月10日、2016年から国交を断絶していたイランとサウジアラビアが、中国の仲介で外交関係を正常化。中国の王毅政治局委員は「中国は善意の信頼できる仲介者として責任を果たした。今後も大国としての責任を示す」と発表。中国の外交力は強まるか。

東郷和彦 元外務省欧亜局長:
北京で両国の和解が成立し、アメリカの影も見えなかった。驚いた。当事国が違うウクライナは効かないと思うが、やはり中国が外交力をつけた証と見えたが。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
中国にそんな力はない。正常化の最大の理由は、お互い必要だったから。機運は何年も前から動いており、中国がおいしいところを取ったというのが率直な印象。中国の外交は「戦狼外交」から「関与外交」に向かっている。

反町理キャスター:
戦狼外交とは。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
自己主張して相手を批判しておしまいというもの。だがそれで世界中に敵を作った。そこで、水面下の外交交渉から関与して国益を高めていこうと。

反町理キャスター:
アメリカはサウジアラビアともイランとも関係が悪い。そこに関与外交に舵を切った中国が入ってきた?

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
それに近い。アメリカはアフガニスタンのカブール陥落後に戦闘部隊を引いたが、中東から出ていったのではなく、バーレーンやカタールにも巨大な部隊がいる。だがアメリカの外交安全保障政策の優先順位が、中東からインド太平洋地域に変わってきた。これを感じた中東諸国が動いていたところ、中東諸国の一部が中国を招き入れた。こうした隙間に中国が出てくる可能性は、中長期的には心配。だが、中国がアメリカに対抗して軍事的な関与を深めたいとは思えない。もたなくなる。

(BSフジLIVE「プライムニュース」3月22日放送)