原爆資料館に展示されている写真「焼け跡に立つ少女」。G7広島サミットの開催に合わせ、この少女の人生をモデルにした朗読劇が上演される。出演するのは少女の息子。そこには、亡き母から託された平和へのメッセージがあった。

「焼け跡に立つ少女」は自分の母だった

(劇団の発声練習)
~柿の木栗の木かきくけこ、啄木鳥(きつつき)こつこつ枯れ欅(けやき)~

劇団の発声練習
劇団の発声練習
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発声練習をするのは朗読劇「蛍火」のメンバーたち。原爆で右手に大やけどをした少女・葉子の物語を演じる。

メンバーの1人、藤井哲伸さん。藤井さんの母・幸子さんの人生がモデルになった。

藤井哲伸さん(62)
藤井哲伸さん(62)

藤井哲伸さん(62):
自分なりに平和発信の満足感が得られれば、それはそれで母親の満足感にもつながるのかなという風に、勝手に解釈しながら今はやっているんですけどね

包帯が手と顔に巻かれ、痛みをこらえるように一点を見つめる少女の写真。

原爆資料館に展示されている「焼け跡に立つ少女」。
5年前、当時10歳だった幸子(ゆきこ)さんだと判明した。

藤井哲伸さん:
右手に大やけどを負って、それからちょっと分かりづらいですけれども、体の中にも特に取れない部分、頭の部分にもガラス片は入っているんですね

幸子さんは、藤井さんが高校2年生のとき、骨髄ガンのため42歳の若さでこの世を去った。

藤井哲伸さん:
20数年経ってから症状が出てくるというところの悲惨さというか、そういうものがあるということは、本当に今、こういうご時世でもあるし、世界中の人に認識をしてもわらないと

藤井さんは現在東京在住だが、広島市出身で舟入高校演劇部のOBだ。母・幸子さんの人生が朗読劇になると知り、稽古場に駆け付けた。

藤井哲伸さん:
人がたくさん、若い人も含めて集まってくれたというのが本当に嬉しいなと思っていますね

藤井哲伸さん
藤井哲伸さん

藤井さん自身も、主人公の治療にあたる医師の役で出演する。

(朗読劇の練習で)
主人公・葉子役:
指が動くようになったらうち、なんでもできるような気がする。先生、ありがとうございます

医師役・藤井哲伸さん:
おいおい手術はこれからじゃ。お礼は手術が終わってからにしてもらわにゃ…

主人公・葉子役:
そうでした…

演出家:
藤井くん、すごくいいね。お医者さんのような感じだね。生活感がある

焼け跡に立つ「母」からのメッセージ

作品のテーマは「和解」。脚本と演出を務めるのは藤井さんと同じく舟入高校演劇部OBで、3学年先輩の久保田修司さん。これまで、広島を拠点に劇団を立ち上げるなど、長年演劇に携わってきた。

脚本と演出を担当・久保田修司さん:
広島から和解とか平和とかを訴えていく1つの市民運動にしていきたいなと。それともう1つは、被爆者ということで一括りにされるんではなくて、その被爆者1人1人に人生があって、生活があってということを世界の人に知ってほしい

藤井さんの母・幸子さんが、戦後、英会話を勉強していたという話をもとに、他の被爆者の実体験も加え、オリジナルの脚本に仕上げた。

藤井哲伸さん:
なぜ核廃絶が、共通した議論にあげられないのかというのが、歯がゆくてしょうがないですね。核廃絶の役目をせがれに託したと…そういうような感じがするんですよね

朗読劇「蛍火」のメンバーは週1日から2日のペースで稽古を続け、G7広島サミット直前の5月17日・18日に上演本番を迎える。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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