この春、新生活が始まるタイミングで子どもにスマホを持たせる人もいるはずだ。
その際に注意すべき点、親子でのルールづくりのコツはぜひ知っておきたい。
ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーの鈴木朋子さんに聞いた。
子ども向け携帯電話とスマホの違いは?
内閣府が2月に発表した「令和4年度青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報)」によると、10歳以上の小学生の64%が自分専用のスマホを持っているという。
ちなみに中学生では91%、高校生は98.9%もの子どもが自分のスマホを持つという結果が出ている。
「小学生の高学年くらいになると、塾や習いごとなどで1人での行動が増えるので、見守りの意味を込めてスマホを持たせる家庭が多いですね」と鈴木さん。
「スマホがここまで一般的になる前は子ども向けの携帯電話が最初の選択肢になる家庭も多かった」という。
この記事の画像(5枚)子ども向けの携帯電話とは、スマホ以前に主流だったフィーチャーフォン、通称「ガラケー」のようなもの。
「丈夫で壊れにくいため子どもが多少乱暴に扱っても安心で、月額の利用料金もスマホと比較して低く抑えられる」ということもある。GPSが内蔵されており、位置情報の取得も可能だ。
「ただし、あらかじめ登録した、限られた連絡先にしか電話できない、アプリも使えないなどの理由で物足りなさを感じるご家庭もあります。そのため最初からスマホを持たせるご家庭が増えています」
ルール設定でまず抑えたい基本
子ども用のスマホも存在するが、多くは大人も使うスマホ端末を子どもが利用するケースのはずだ。その際に、最低限決めておくべきルールは何だろうか?
「まず大切なのは『1日1時間まで』など使用時間の上限についてのルールです。『21時以降は使わない』など終了時間の設定も必要でしょう。曜日ごとに設定したり、習い事のある日はちょっと遅くまで使ってもいいよ、というように実際の生活に合わせて無理なく守れるルールにすることがコツです」
加えて決めておきたいのが「スマホを使う場所」だ。
「自分の部屋に持ち込んでしまうと、いつまでも使ってしまいます。ですから家族の目があるところ、例えば『リビングのみで使う』と決めるのも効果的。そうすれば詐欺メールなどが届いたときなどに、子どもがすぐ親に尋ねて被害を未然に防げるケースがあるでしょう」
友人間でのトラブルがあった場合も、スマホを操作する子どもの様子がおかしいなど、早めに気づくことができるはずだ。さらに犯罪被害を防ぐためには「SNSなどで知り合った人に個人情報や連絡先を教えたり、会いに行ったりしない」などのルールづくりも忘れてはいけない。
フィルタリングをうまく活用する
鈴木さんのもとに寄せられる相談でもっとも多いのが「長時間利用に関する悩み」だという。
「ずっと動画コンテンツを見続けている、友達とずっとLINEのやりとりをしている、などの相談です。それが進むと、深夜まで寝ずにスマホを見続けてしまう、テスト勉強をしない、など生活に支障が出てきて事態は深刻になっていきます」
長時間利用を防ぐには時間のルールづくりとともに「YouTubeは1時間まで」といったようにアプリごとの使用時間を設定するのもおすすめだという。
ここで活躍するのが「フィルタリング」だ。
そもそもフィルタリングとは、違法や有害情報との接触から子どもを守り、安心して安全にインターネットを利用する手助けをするサービスのこと。18歳未満の子どもがスマホや携帯電話を持つ際にはフィルタリングを設定することが法律で義務化されている。
具体的には、ドコモ、ソフトバンク、au、LINEMO、Y!mobileなどが運営する「あんしんフィルター」。また、子どものAndroidスマホに設定できるGoogleのアプリ「Googleファミリーリンク」、iPhoneやiPadなどには「スクリーンタイム」と「ファミリー共有」もある。
この機能によって有害なサイトを閲覧できないようにするだけでなく、アプリの利用時間も設定できる。有料コンテンツも勝手に購入できないようにできるため、ゲームアプリなどの課金で多額の請求が届くなどのトラブルも未然に防ぐことができる。
アナログの見守り+フィルタリングの両輪がマスト
ただ、フィルタリングがあれば安心とはいかないのが難しいところ。なぜなら、フィルタリングは親の許可があれば解除できるからだ。
「高校生ぐらいになると学業に関して自分で調べ物をする機会も多く、フィルタリングが支障となるケースもあります。親のほうも細かく解除の設定するのは大変なので『まあ大丈夫だろう』と、すべて解除してしまうケースが多いのです」
だからこそ、鈴木さんは「『フィルタリング』と『家庭での見守り』の両輪でお願いします」と強調する。そのためにも子どもの様子の変化に早めに気づけるよう、親の目が届く範囲でスマホを使うルールが大切になる。
「例えば子どもが夜遅くまでスマホを見てると気づいたら、まず『そろそろおわりの時間が近いよ』と声をかける。それでもやめないときにはフィルタリングの設定で21時で強制的に終了とする。この両方をうまく使わないとルールの運用は難しいでしょう。
口で言うだけでは何となく利用時間が延びてしまうこともありますが、フィルタリングでロックされてしまえばしょうがないよね、と子どももあきらめられる。親子の関係性が必要以上に悪化せずにすみますよね」
スマホとうまく付き合うために
「子どもの頃からインターネットに触れて、フェイクニュースなどをきちんと判別できるリテラシーをつけることは成長する上でとても役に立つでしょう。YouTubeが勉強に役立つこともありますし、SNSでの励ましあいや情報交換が役立つこともあるはずです」
思春期になると親子で話し合うことも容易ではなくなるが、SNSから拡散されたことでニュースに取り上げられる迷惑動画に関してなど、親自身の率直な感想や考えを子どもに伝えていくことも大事だという。
「『お父さんはこういうのは好きじゃないな』『やりすぎだと思う』『食べ物がもったいないよね』など、ニュースをきっかけに伝えていくだけでも、子どものリテラシーの向上に十分つながるのではないかなと思いますね」
現代の社会において、インターネットを触らせるのは不安だからと遮断するのはもはや不可能に近いだろう。うまく付き合う方法を親子でそれぞれ見つけていくことが大切そうだ。
鈴木朋子
IT ジャーナリスト。ITの知見と2人の娘の子育て経験を生かして、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」として活動中。著書に『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)がある。
取材・文=高木さおり(sand)
イラスト=さいとうひさし