廃棄処理されるはずの“意外なもの”から生まれた肥料が、緑と地球への優しさを育てる――。

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畑で育った、丸まるとした大ぶりなキャベツ。このキャベツの栽培には、食器をリサイクルして作られた肥料が使われている。

“創業110年”老舗食器メーカーが開発

石川県白山市にある創業110年以上を誇る食器メーカー・ニッコーの工場。

この工場では、牛の骨を焼いた灰を混ぜて作る“ボーンチャイナ:BONE CHINA”と呼ばれる食器が、主な商品として生産されている。

この食器の特徴は、透明感のある白さ。

しかし、”ボーンチャイナ”をはじめとした陶磁器は、長年リサイクルができない状況だった。

リサイクル肥料の開発者である、ニッコー研究開発本部・滝本幹夫本部長は「食器が肥料になるかっていうのは思いつきだけなので」と開発の経緯を振り返る。

ニッコー研究開発本部・滝本幹夫本部長:
産業廃棄物として「陶磁器くず」という分類があり、それと同じで山に埋め立て処理しなきゃいけないというルールになっている。

滝本さんが目をつけたのは、”ボーンチャイナ”の食器を作る際に混ぜる、牛の骨の灰に含まれているリン酸カルシウムという成分だ。

ニッコー研究開発本部・滝本幹夫本部長:
家庭菜園を少しやっていて、「リン酸って、ああそうだな、肥料だな」と結びついたという感じ。

リン酸カルシウムは植物が育つために必要な成分で、肥料として利用されている。

滝本さんは石川県立大学と共同研究を行い、小松菜で実験。食器を細かく砕いたものでも効果が続くことを実証することに成功した。

制度改正により実現

しかし、食器を肥料として活用するためには、突破すべき問題が…。

実際に肥料として使えるかどうかを農林水産省に話を持ち込んだところ、思わぬ法律の壁にぶつかったのだ。

ニッコー研究開発本部・滝本幹夫本部長:
(農水省からは)ただ、ダメと言われた。理由は、当時「肥料取締法」という法律があり、その法律では肥料にしてもよい素材というのを限定されていた。

しかし、その後、法律が改正。2022年2月に「ボナース:BONEARTH」という名前で、食器からリサイクルした肥料が認定された。

「ボナース」は水に溶けにくく、長期間にわたり肥料の効果を保つ。

さらに、色が白く見栄えが良いため、観葉植物に使う化粧砂としても理想的だ。

今後は、ホテルやレストランから自社の”ボーンチャイナ”を回収し、「ボナース」にしていくことも検討しているというニッコー。レストランと契約する農家にも「ボナース」を使ってもらうことで、資源の循環を目指す。

ニッコー研究開発本部・滝本幹夫本部長:
コミュニティーみたいな感じができれば、我々が農家さんを応援することもできるんじゃないかなと最近思ってきていて。そういう関係を築いていって、もうちょっと輪を太く大きくできないかなと思っている。

肥料高騰で「資源循環」に期待大

「Live News α」では、日本総合研究所・シニアスペシャリストの村上芽(めぐむ)さんに話を聞いた。

海老原優香 キャスター:
今回の試み、SDGsに詳しい村上さんの目には、どのように映っていますか。

日本総合研究所シニアスペシャリスト・村上芽さん:
食器をリサイクルして、肥料に生まれ変わらせるという取り組みは、SDGsでは目標12に含まれる「廃棄物の再利用」にあたります。

また、肥料として使われるということは、目標2に含まれる「持続可能な食料生産システム」にも貢献しているといえます。

最近、世界的な原材料高に加え、円安も影響して輸入肥料が高騰しています。国内で資源を循環させることで、肥料を作れることへの期待は大きいと思います。

身近なアイデアと制度改正でSDGs目標達成を

海老原優香 キャスター:
国内で肥料をつくる“循環の輪”が、これから力強く、大きく回っていくといいですよね。

日本総合研究所シニアスペシャリスト・村上芽さん:
今回の、国内資源を活用して肥料をつくる試みで興味深いのは、これまで廃棄するしかなかった「陶磁器くず」が肥料の素材として使えるようになった、という点です。

物としては同じ牛の骨由来の灰なのに、制度がかわることによって、産業廃棄物から肥料に変えることができるとは、不思議な話でもあります。

SDGsのなかには、特に政府に向けて、補助金や税制のあり方を見直して、もったいない消費を減らすように、という趣旨のターゲットもあります。

「食器から肥料を作ろう」という新しいアイディアを実現するために、必要なルール変更は、SDGsを推進する政府としても望ましい行動だったといえるでしょう。

海老原優香 キャスター:
趣味の家庭菜園からひらめたアイデアが、今回の取り組みへとつながったということです。こちらについては、いかがですか。

日本総合研究所シニアスペシャリスト・村上芽さん:
それもまた、今回の試みで見逃せない点です。広い意味で、「働きがい」のあるお仕事をされているのだろうなと感じました。

SDGsの達成に向けて、政府、企業、大学などの団体や個人まで、さまざまな立場の人が知識や技術を持ち寄ってパートナーシップで取り組むことも、目標17に含まれています。

今回の事例からは、目の付け所を変えることや、制度の壁に当たっても、あきらめないことの大切さが伝わってきました。

海老原優香 キャスター:
これまでの当たり前の中に、どこかにもったいがないか。探してみる。考えてみる、取り組んでみる。すると、みんなの未来が変わる。そう信じたいですね。

(「Live News α」3月21日放送分より)