子どもたちの学びの常識が変わりそうな出来事が、Twitterで反響を呼んでいる。
アジア圏の日本人学校で教員を務める、エイ(@zikatu1)さんは、3月上旬、小学5年生の女の子から読書感想文を受け取った。ファンタジー小説「ハリー・ポッター」をテーマに、自主的に書いたものだったが、内容に違和感を覚えたという。
それは当たっていた。エイさんが「もしかして、お母さんに手伝ってもらった?」と聞いたところ、女の子は「ううん、ちがうよ。これChatGPTが書いたの」と答えたというのだ。
数十秒で読書感想文が完成「ChatGPT」のすごさ
女の子が使った「ChatGPT」は、アメリカの企業OpenAI社が2022年11月にリリースした、対話型AI。チャット形式で質問を入力すると、人間が答えているかのように文章で返してくれるのだが、ユーザー数は2カ月で1億人に達し、日本でも話題になっている。
この記事の画像(7枚)ChatGPTはウェブで公開されていて、2023年3月時点では、登録すれば無料で試すことができる。使い方はログインした先のページにある、入力欄に知りたいことを入力するだけ。
試しに、編集部で「ハリー・ポッター 読書感想文」と入力したところ、あらすじや魅力をまとめた500文字ほどの読書感想文が数十秒で書き上がった。
このほか、入力欄に「子ども風」などと入力すれば表現のアレンジも可能だ。ChatGPTは教室で話題になり、エイさんはその後、扱い方を考える授業も行ったという。
子どもたちの姿を見て、考えが変わった
今回はエイさんが気づいたのでよかったが、AIの進化で、学校の読書感想文の宿題をChatGPTにやってもらう、という便利とはまた違う使い方をされるようになっても不思議ではないだろう。
扱い方を考える授業はどのように進められ、子どもたちはどんな反応を見せたのだろうか。エイさんに聞いた。
――女の子の読書感想文のどこに違和感を覚えた?
文章の構成と言葉遣いになります。普段は使わない「感銘を受ける、絆を再確認する」といった表現があって、いつもと違うな、大人びているなと感じました。他の子どもたちはすげー!と驚いていて、読書感想文はAIに任せたらいいじゃんという子もいました。
――ChatGPTで書いたことを知り、どう思った?
最初は怖さを感じました。子どもが書いたかAIが書いたか、分からない日も近いと思いました。思考力は書くことで鍛えられるので、その機会が少なくなるのではとも感じました。しかし、ChatGPTに楽しそうに質問したり、学ぼうとする子どもたちの姿を見て考えが変わりました。
――扱い方を考える授業はどう行われたの?
最初に「作文はAIに任せた方がいい?」と問いを投げて、子どもたちに意見を聞きました。そうしたところ、AIが書いた文章には読みやすいというメリットはあるが、人間味や面白味がないというデメリットも出ました。そこで(人間とAI)両方の良さを活かした作文を書かせました。作文を自分で書く→ChatGPTで添削する→読み比べる→AIが出せない味を話し合う→AIを生かせる部分を加えて修正するという流れで進め、AIの利活用を学ばせようと思いました。
――AIが出せない味とはどういうこと?
子どもたちによると「自分らしさ」だそうです。自分のエピソードや表現の仕方、会話文から始める構成などが“味”と考えていました。AIはエピソードを含めて書くこともできるようですが、個人的にはリアリティを感じない“きれいごと”に見えることもあるように思います。
――授業を終えた、子どもたちの反応は?
授業後は「AIに全て任せるのではなく、まずは自分で考えて、味を作ることが大事だと思う」「これからもAIの使い方について見つけたり考えたりしていきたい」という感想がありました。新しい技術の活用について考えるきっかけになったと感じています。
勉強に活用できるかもしれない
――ChatGPTは勉強にも活用できそう?
活用の可能性は大きいと感じています。子どもが情報を探す時間をさらに短縮できますし、文章の添削は検索サイトにはない魅力です。これまでの作文指導は、作文を先生に提出して、数日後に朱書きされた文章を書き直すということが行われていました。
ChatGPTでは「次の文章を添削して」と入力すればすぐに答えるので学びの鮮度が違います。比べるとどう変わったのかも分かりやすく、文章の書き方や構成の作り方も分かります。「変更した理由を教えて」と尋ねれば教えてくれるので、正直、先生よりも丁寧で驚きました。うまく活用すれば子どもの学びをサポートし、教員の負担を減らすことにもつながると感じています。
――今回の出来事に関連して、思ったことは?
教育現場でAIを禁止するのではなく、利活用について学ぶことが、これからの時代を生きる子どもたちのプラスになると思いました。(コンクールなど)成果物の見分けは難しくなると思いますが、結果を賞賛する教育から、自分の思いや表現を形に変えるために何を使うのかといった、過程を賞賛する教育へと変えていく必要性も感じています。
全てがAI頼みになっては良くないが、学習の効率化などには、ChatGPTのようなシステムは役立つかもしれない。これからは、勉強も人間とAIが共存する時代になっていくかもしれない。