4月からの新生活に向けて気持ちを切り替えている人も多いと思うが、在学時の思い出を振り返ることができる“卒業アルバム”。
コロナ禍で、学校行事やイベントが中止になり、制作に困る学校も話題になった。

そんな卒業アルバムに関する意識調査を、毎年約100万冊を制作する卒業アルバムの大手メーカーのダイコロ株式会社(大阪・枚方市)が実施。その結果、“映え”を意識した今の高校生の思いが明らかになった。

「写真は加工したい」高校生が4割

調査は、2023年1月19日~23日に、全国の高校生男女200人と保護者200人を対象にインターネットで実施した。

現役高校生が卒業アルバムで不安に感じること(複数回答)
現役高校生が卒業アルバムで不安に感じること(複数回答)
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まず、高校生に“卒業アルバムで不安に感じること”を聞いたところ、「マスクをした写真ばかりになりそう」といった回答が59.5%と最も多かった。

コロナ禍でマスク着用が日常になったが、思い出がマスク写真ばかりになるのは避けたいようだ。

高校生の卒業アルバムに対する希望
高校生の卒業アルバムに対する希望

そして、高校生に卒業アルバムへの希望を聞いたところ、65%が卒業アルバムの“映え”を「意識したい」と回答し、「写真はアプリで加工したい」という声も41.5%に上った。

加工したい理由としては、「マスクなしで無加工の写真が残るのが恥ずかしい」「事故画が一生残るのは嫌」「個人写真のページを見たときにがっかりしたくない」といった声が寄せられている。

デジタルネーティブ世代の高校生にとって、スマホで撮影した写真を加工することが当たり前になっているのだろう。事故画を避けるのはもちろん、“卒アル映え”を望む気持ちが強くあるようだ。

思い出を残るための写真を加工することに対し…
思い出を残るための写真を加工することに対し…
高校生が望む卒業アルバム写真は…
高校生が望む卒業アルバム写真は…

一方、保護者に聞いてみると、78.5%が「加工してほしくない」と回答した。
加工してほしくない理由としては、「子どもの写真は実際の様子を振り返って見たいので、ありのままを残してほしい」「加工するのが当たり前になっているが、そのままの姿が記念になると思うから」などがあげられた。

高校生も全ての写真が加工したものになるのは避けたいようで、78.5%が「加工写真のみは避けたい」と答え、「加工前後の写真両方を残したい」といった回答が57.5%となっていた。
 

卒業アルバムは必要
卒業アルバムは必要

写真の加工については高校生と保護者で意見が分かれたが、「卒業アルバムは必要?」という質問には「必要」と答えた高校生が94.5%、保護者でも92%と、意見が一致した。
時代が変わっても卒業アルバムという形で思い出を残すことの大切さは変わらないようだ。

行事が2022年秋に集中…スケジュール調整に苦戦

実際、卒業アルバムの写真はやはりマスク写真が多くなってしまっているのか?“映え”のために加工を求める声があるが、どういった対応ができるのか?

現在の卒業アルバム事情を、ダイコロ株式会社の松本秀作社長に聞いてみた。


ーー卒業アルバムの不安に感じる第1位が「マスク写真ばかりになりそう」といった結果をどう受け止めている?

コロナ禍で学校行事が延期や中止になるなか、日常の学校生活でもマスク着用が普通となっていましたので、学生の皆さんの不安の声は当然だと思います。


ーー実際のところ、マスク写真が多くなっているのが現状?

行事の写真はほとんどがマスク着用です。個人写真(ひとり写し)やクラス集合の写真は、撮影時だけマスクを外して、しゃべらないようにして撮影されていたようです。

卒業アルバム ブックサンプル
卒業アルバム ブックサンプル

ーー写真集めは、そこまで困ることはなくなったの?

コロナ禍当初のように写真集めに困るということはなくなりました。ただ、2022年の2学期中旬にそれまで延期されていた学校行事が一斉に行われ、写真撮影が一時期に集中することになったため、2023年の卒業アルバム制作スケジュールは一時的に大きく崩れ混乱しましたが、無事に制作完了することができました。

“映え”を意識して、クラスページの個人写真に変化

ーー“映え”を意識している結果となったが、それに対してはどう感じている?

デジタルネーティブ世代であるということを反映していると思います。「卒業アルバムに加工写真を使うべきか否か」といった問題意識ではなく、今の高校生の写真に対する意識を、私たちのような卒業アルバム制作に携わる関係者は認識していくべきだと考えます。

また、「映え」を意識しながらも、全てが加工のみの写真は避けたいの回答が多いことから、卒業アルバムの持つ役割や価値観が変わっていないと理解しています。卒業アルバムの価値が一過性のものではなく、長い人生のなかで問われるものであるという考え方は今も昔も変わらないと思います。

個性を出したクラスページ 1人の写真サイズも大きくなる
個性を出したクラスページ 1人の写真サイズも大きくなる

ーー「全てが加工のみは避けながらも映えてほしい」という意見に応えるために、何か対応策はあるの?

そのような声を取り入れていくことと同時に、そのときにしか撮ることのできない学校生活の生き生きとした表情を、プロカメラマンが撮影したきれいな写真で、卒業アルバムのなかに大切な思い出として残してあげることが大切ではないでしょうか。

また、映えを意識する中で、昨今ではそれぞれの個性や多様性を出していこうということで、卒業アルバムで最初に見るだろうクラスページの個人写真を、正面写真ではなく、それぞれ違ったスタイルで撮影した写真を使用するようにもなりました。例えば、野球部の子は野球のユニフォームを着用しバットを構えている写真。花が好きな子は、花を抱えている写真であったりします。

デジタル化の中での卒業アルバムのあり方

ーー高校生も保護者も「卒業アルバムは必要」と一致した回答だった。それに対してどう思った?

卒業アルバムに残された学生時代の思い出は“プライスレス”ということだと思います。卒業アルバムは世代を超えて必要とされていると感じています。昨今、自然災害において甚大な被害がありました。そんなときに、多くお問い合わせをいただくのは災害によって失われた卒業アルバムの再生依頼です。

また、卒業生を対象とした卒業アルバムは日本固有の文化です。外国には卒業生を対象としたものではなく、それぞれの学年の1年間を対象にしたイヤーブック(Year Book)というものがあります。今後、弊社は日本の卒業アルバム(Graduation Book)を世界に拡げていきたいと思います。
 

卒アルモバイル イメージ
卒アルモバイル イメージ

ーーコロナ禍を経た、昨今の卒業アルバムの形にはどういった物があるの?

2022年、弊社が発表したスマホで見る卒業アルバム『卒アルモバイル』では、動画や音声といったデジタルならではの思い出の多彩な表現をしています。自分の好きな写真に差し替えることも可能です。スマホさえあれば、いつでもどこでも見たいときに卒業アルバムを見ることができます。

卒アルモバイル イメージ
卒アルモバイル イメージ

コロナ禍当初のような写真集めで困ることはなくなったそうだが、2022年は延期されていた行事が開催されたことで、写真撮影が一時期に集中し、スケジュール調整での苦労があったという。

なおダイコロは、2023年の制作はコロナ禍以前に戻り、イベントなどのスケジュールも計画通りになっていくだろうと考えており、「早くコロナ禍前に戻ってほしい」とも話していた。

保護者世代は、自分の体験からの意見でもあると思うが、今どきの高校生が何年後かに卒業アルバムを見返したときに、ありのままか、加工かどちらがよかったのか、その時になってみてわかるものかもしれない。

(画像提供:ダイコロ株式会社)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。