円安やウクライナ侵攻による穀物の国際価格の高騰で、家畜の餌代が値上がりし、畜産農家の経営が大きな打撃を受けている。そうした中、この春、牛舎を新設し、生産規模の拡大に乗り出す酪農家が富山・高岡市にいる。
飼料価格が高騰する今だからこそ、「地域の資源を循環させる持続可能な農業を確立したい」。若手酪農家の思いを取材した。

余った食品を牛の餌として活用

高岡市で酪農業を営む青沼光さん(36)。開業して2023年で8年になる。飼育する牛は、約70頭で、そのうち40頭の乳搾りを毎日、朝と夕方に行う。

乳搾りを行う青沼さん
乳搾りを行う青沼さん
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酪農家・青沼光さん:
(乳搾りは)出席をとってるような感じ

地域の飼料用米や酒かすなどの余った食品を、牛の餌として活用するよう努めている青沼さん。外国産の飼料価格が高騰する中、この春、新しい牛舎とたい肥舎を開設する。生産規模を拡大するとともに、稲作農家などと連携し、牛の餌を地域で賄い、たい肥を田畑に還元する取り組みを加速させる考えだ。

酪農家・青沼光さん:
たい肥が圧倒的にこの地域は足りていないというのもあるが、富山県の牛乳は需要(学校給食含む)に対して供給が6割くらいしかない。地域の人に富山の牛乳を選んでもらえるような状況を作るのが、生産者としての責務かなという思いもあったので

飼育する牛は165頭に増え、生乳の生産量は、今の2.5倍の年間1,100トン余りを見込んでいる。

新しい牛舎の総事業費は約3億円。国や県の補助も活用するが、青沼さんは2億円ほどを借り入れて負担する。

きっかけはテレビ番組

広島県出身の青沼さん。牛舎に併設された家で、一緒に牛の世話を行う妻の佳奈さんと息子3人の5人暮らしだ。仕事というよりも、生活そのものだという酪農に関心を持ったのは、子どもの時に見たテレビ番組がきっかけだったという。

酪農家・青沼光さん:
生き物を家で飼って生活している人がいると(テレビで酪農を見て)認知して、知れば知るほど、お金を稼ぐことにがっついてない、農業自体が。とりわけ自分は生き物が好きだったので、牛を飼って、家族と牛乳を搾っていれば生活できるというのは、ほかにないと思った

新潟大学の農学部を卒業後、県内の牧場などで経験を積み、廃業する農家の施設を引き継いで、今の農場を開業させた時の牛の数はたったの7頭。暴れる牛から乳を搾るのは一苦労だった。

外国産飼料の価格高騰 逆境を打開したい

飼育方法や餌の種類、与え方に工夫を重ね、徐々に牛の数を増やし、経営も軌道に乗りつつあった時に襲いかかったのが、外国産飼料の価格高騰だった。青沼さんも、餌の半分は外国産に頼っているのが現状で、3,000万円台だった年間の餌のコストは5,000万円ほどにまで膨らんだ。
餌代捻出のために、新しい牛舎の開設を見据えて、育てていた子牛20頭を売却。納得のいく値段はつかなかったものの、経営を維持していくためには苦肉の策だったという。

酪農家・青沼光さん:
どの農家も同じような状況なので、市場に子牛があふれて、相場が崩れてしまって、これまでかけてきた費用の半分くらいの値段でしか、この子たちも売れない。売れば売るだけ、赤字がさらに増える

青沼さんは、経営がギリギリの状態でも新しい牛舎での増産と、地域資源を活用する酪農を確立する夢は諦めなかった。たい肥を農家に提供し、地域から手に入れられる餌の割合を増やすことで、外国産の飼料価格高騰という逆境を打開したいと意気込んでいる。

酪農家・青沼光さん:
地域にあるもので、人が食べるものを生み出すというのが、1次産業の本質的な役割だと考えている。日本の農業がその場所(外国産の飼料頼り)にいてはだめだと思っていたので、流れを作る意味でも、誰もやらないからやらないではなく、次の日本の酪農がどこへ行くべきかを示したい

(富山テレビ)

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