アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス近郊で5月25日に起きた、黒人男性が白人警察官による拘束時に死亡した事件。これに端を発した暴動は、ニューヨークなどにも広がりを見せている。
では、日本における人種問題の現状はどうなっているのか?解消への取り組みを取材した。
80年代の映画のシーンがそのまま現実に
「過去と同じことなのです。黒人の命が軽視されているんです。ホワイトハウスでは、何もこれに対応しようとはしません」
日本時間の6月1日、CNNテレビに出演したスパイク・リー監督はこう語った。
スパイク・リー氏が監督・主演した映画『Do the Right Thing』の上映は1989年。映画では、ニューヨーク・ブルックリンで人種差別を巡るいざこざが暴動に発展し、駆けつけた白人警察官が拘束時に黒人男性を死亡させるシーンが描かれた。まさに今回の事件そのままだ。
著者は1980年代、そして2000年代とニューヨークに2度居住し、定点観測的にアメリカ社会がどう人種差別に立ち向かってきたかを見てきた。しかし、当時もそして今でも有色人種に対する差別や偏見はアメリカ社会に根深く存在しており、トランプ政権になってさらに増幅しているようにさえ見える。
この記事の画像(7枚)人種問題の解消を目指すスタートアップ
日本に在留する外国人は約293万人(2019年12月末現在)で、2012年以降、一貫して増えている。しかし、このうち約3割が外国人であることを理由に差別的な発言を受けており、就職を断られたのは25%、住む家の入居を断られたのは4割に達しているという。
一方、こうした在留外国人が受ける差別や生きづらさをテクノロジーの力を使って減らそうという取り組みも行われている。
「ミネアポリスの事件は、非常に悲しい事件だと思います。今回の暴動のように怒りが全面に出てしまうと、議論ができなくなってしまいますね」
こう語るのは、外国人がビザ取得手続きを簡易に出来るサービスを提供するスタートアップ企業、株式会社one visa(以下 ワンビザ)の代表取締役、岡村アルベルト氏だ。
岡村氏はペルーで生まれて6歳で大阪に移住し、今は東京に住んでいる。
「日本は多くの外国の文化を吸収してきたと思います。日本で増えている外国籍の方々も新しい日本の文化をつくっているし、この流れはこれからも加速すると思います。日本の人種問題も、議論をしながら外国籍の方々と一緒に暮らしていく気持ちを固めれば、良い方向にいくと信じています」(岡村氏)
コロナ禍で情報弱者となる外国人を救う
岡村氏は、「すべての人が暮らしたい場所で暮らせる世の中を作りたい」と言う。
その理念を実現するため、ワンビザではビザ申請にかかる書類を自動作成するクラウドサービスを企業の人事向けに提供している。2020年秋からは、外国人が職場で不当な差別を受けていないか、緊急相談窓口をおいてチェックできるようなサービスを開始する予定だ。
また、コロナ禍においては、政府の支援策があっても情報が日本語であるために、外国人の多くが「情報を受け取れずに困っている」という。こうした声を受けて、ワンビザでは情報を多言語でわかりやすくまとめ、一元発信する「#日本から国境をなくす」プロジェクトを発足した。今回は助成金の申請や遠隔受診方法など、コロナに関する情報が主だが、今後は地域の情報なども多言語で展開する。
「日本に暮らす外国籍の方々がスムーズに定住でき、地元住民の方と共存できる仕組みをつくりたいと思っています。近くに住んでいる何々人ではなく、近くに住んでいる何々さん、と言えるようになれば、大きな変化が起きると思います」(岡村氏)
就労における外国人への差別と偏見
「『人種』は、かなりあやふやな概念ですが、人種のるつぼと言われるアメリカと日本でも、問題は同質なのかと思います」
こう語るのは、就労目的で来日する外国人と企業や地域をつなぐ取り組みをしているEDAS(以下 イーダス)理事長の田村拓氏だ。
来日する外国人は、就労する際に様々な差別や偏見を経験する。
法務省の調査によると、「外国人であることを理由に就職を断られた」のが4人に1人、「同じ仕事をしているのに、賃金が日本人より低かった」のが約2割、「労働条件が日本人より悪かった」というケースが1割以上ある。
イーダスは「来た時よりも、もっと日本を好きに」を理念に掲げている。2016年の設立以来、イーダスには会員として企業経営者や日本語教育の研究者らが集まり、外国人にコミュニティを提供している。
「外国人留学生の就職支援セミナーや外国人政策の勉強会を行っています。また、外国人と日本人が集まって、日本にいる外国人が経験する『あるある』を語り合うワークショップも開催しています」(田村氏)
コロナの感染対策において、政府の発信する情報は当然日本語が中心となることから、イーダスでも外国人の母国語で届けるような取り組みを行っている。
アフターコロナは異質を受け入れ共に進む
田村氏は「コロナの影響で、外国人の受入れは大きな転換を迫られている」と言う。
「これからは外国人に、経済力が下降線をたどる日本を選んでもらうことが、今まで以上に重要になります。外国人受入が進めば、周辺に『異質』が存在するようになりますが、外国人や人種に対する偏見を超克し、『異質』を受容できれば、日本はグローバル感覚を身につけ、再び海外への発展に転じることができるのではないでしょうか」
岡村氏は、さらに次のように語る。
「今、日本で暮らす外国籍の方々の実態をあまり知らない方が多いと思っています。犯罪率が高い、生活保護を受給している、日本の文化を壊すなどのイメージが先行しているのです。大切なのは、外国籍の方が日本にいるのは政府が決めたからではなく、僕らも必要としているということです。外国籍の方と一緒に、この国を前に進めていくという気持ちがあれば、日本では人種問題は大きくならないと信じています」
建国以来、人種差別を乗り越えようと努めながらも苦しむアメリカ。そして日本でも、人種・国籍・宗教の違いから生まれる差別や偏見は、今も残っている。
アフターコロナには、こうした違いを理解して、テクノロジーの力も使いながら乗り越えていく時代が来るだろう。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】