ケージに入った猫たちがいるのは、本屋の一角。なぜ本屋に猫が…?インターネットで本を買うことが増え、コロナ禍で電子書籍の普及も進み、書店の経営は苦しくなっている。広島の老舗書店の新たな戦略を取材した。

異例!書店で「保護猫の譲渡会」

本を買うのはネット派?それとも書店派?全国にある書店の数は2011年からの10年間で4分の3に減少している。そんな書店業界で生き残りをかけて奮闘するのが、広島県内有数の老舗書店「フタバ図書」。

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2月、広島市佐伯区のフタバ図書・五日市店であるイベントが開かれた。女子高校生と書店がコラボレーションした「保護猫の譲渡会」だ。

進徳女子高校3年生・奥野聖未さん:
最初は人が来なくて、後からどんどん増えてきた感じです

本を買いに来た人にとっては「ここで?」と不意を突かれただろう。その背景には、書店だけでなく“地域の課題”もある。かつて広島県は犬猫の殺処分数が全国で最も多く、殺処分ゼロを目指した行政とボランティアの取り組みが2016年から行われている。現在、殺処分数は大幅に減少したが、そこにはボランティアが主催する動物の譲渡会など地道な活動があった。

フタバ図書・小田剛 課長:
本屋は性別・年齢問わずいろいろな人が集まって来る。書店に来る人の流れを利用してもらって、地域の何かと何かをつなげる動きができたらいいと思っています

地域や福祉との“コラボ戦略”

1913年に創業し広島市内を地盤としてきたフタバ図書。多角経営を進め、2018年3月期には260億円の売上高を記録するが、その後、財務状態が悪化。2021年、経営を一新して新体制に。

新体制でスタートしたフタバ図書は数々の新戦略を打ち出してきた。まず始めたのが、店舗を開放した「コラボ戦略」だ。2022年4月にはフタバ図書・中筋店で、コロナ禍で製品を販売する機会が減少した福祉事業所とコラボし、パンの販売を行った。

フタバ図書・小田剛 課長:
本の売り上げが変わるというものではないが、福祉事業所の方もパンが売れるとすごくうれしいし、何より買う人がただパンを買うというだけでなく「誰かを応援できた」という価値を喜んでいただいている実感があります

 
 

フタバ図書では、定期的に福祉事業所の自主製品を販売するイベントを行っている。地域に寄り添ったコラボ戦略で“人の流れ”を作り出す。しかし、それが直接的な売り上げにつながるかというと…微妙だ。
書店のビジネス戦略には、大きな壁が立ちはだかっている。電子書籍の利用拡大である。2022年の出版市場は、コロナ禍前の2019年と比べると紙出版市場が約9%減少しているのに対して、電子出版市場は約63%増加している。

本はスマホやタブレットで読む時代になってしまうのか。しかし「今でも本屋のファンは多い」と小田さんは言う。

フタバ図書・小田剛 課長:
本屋に行って、実際に本棚を見ることで本当に自分の読みたい本を見つけられる。そんな本屋の良さを感じてくれる人もたくさんいるので、そういう良さは残していけたらと思います

“本ではない”別の商材や業態を

全国的に書店の数が減少している理由には、そもそも利益率が約20%と決して高くない事情もある。書店の良さを残しながら今の時代を生き抜いていくためには、どうすればいいのか。

フタバ図書・小田剛 課長:
今は本を売るだけというよりも、地域のコミュニティーのハブ機能を担いながら“物を売る価値”にプラスアルファの価値を付ける活動をしていかないと、生き残っていけないだろうと思っています

フタバ図書・小田剛 課長
フタバ図書・小田剛 課長

これからの書店には、本を売るだけなく付加価値が必要になる。生き残りをかけたフタバ図書の新たな販売戦略とは…

フタバ図書・小田剛 課長:
まったく違う新たな商材で、福山市に「駿河屋」という店を出しました。ホビー・雑貨の中古を扱う業態です。文具から派生して日用的な雑貨であったり、家族で会話が生まれるようなボードゲームなどを扱っています

フタバ図書・小田剛 課長:
個人的には、書店のカフェでいろいろな業種の人が集まって新しいビジネスが生まれたり、そんな場所にもなればいいなと思っています

フタバ図書・小田剛 課長
フタバ図書・小田剛 課長

進化を迫られる書店業界。新体制に生まれ変わったフタバ図書は、“地域のハブ機能”を担いながら次々と新たな戦略を繰り出している。来店のきっかけを広げることによって、次世代の書店のモデルが生まれるかもしれない。

(テレビ新広島)

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