世界遺産の島、宮島が今揺れている。コロナ後のインバウンド客増加を見込んだ高級ホテルの誘致を市が主導しているが、地元民からは反対の声が上がっている。現地を取材した。

業者ではなく市が主導の誘致計画

廿日市(はつかいち)市・松本太郎市長:
価格で言うと、1泊数十万円といったレベルの方たちがターゲット。1回の旅行で100万円単位のお金を惜しげもなく出して行かれる方たちということになると思います

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廿日市市の松本太郎市長が宮島を「一流の国際観光拠点に」と目指しているのが、高級ホテルの誘致。島の東側に広がる包ヶ浦(つつみがうら)自然公園を活用し、欧米など海外からのインバウンドを呼び込もうという計画。

これは観光庁がコロナ後のインバウンド復活を見据えて募集した「上質な宿泊施設の開発促進事業」で、2022年2月に廿日市市がその1つに選ばれたことから始まった。この事業では観光庁が、自治体と宿泊施設運営会社やデベロッパーをマッチングすることになっている。

五十川裕明記者:
宮島桟橋に来ました。フェリーから降りて多くの人が向かうのは画面に向かって左側、厳島神社や商店街が並んでいる方向です。今回計画が浮上しているのは反対側の包ヶ浦自然公園で、ここから約3キロ離れています。

桟橋から車で10分ほどの場所に海水浴場やキャンプ場などを併設している包ヶ浦自然公園。

五十川記者:
包ヶ浦自然公園に来ました。鹿もいまして本当にのどかな雰囲気が漂います。周囲は山が取り囲んでいるんですけれども、ここ一体だけが平地となっています

およそ30年前は年間16万人が利用したが、施設の老朽化などで近年は3分の1以下まで落ち込んでいた。年間2200万円の維持費もかさみ、来年3月で今の施設を運営する会社が撤退することになっていて、今後の見通しは立っていない。

観光客は多いが宿泊客が少ない宮島にお金を落としてもらう

廿日市市 松本太郎市長:
この宮島の自然・歴史・文化というのはむしろ守っていかなければならない。守っていくためにこういった施設を誘致するんだというところが大前提であるということを忘れてほしくない。そういったものを誘致することによって稼いでいく

新型コロナ前の2019年は国内外から過去最多465万7000人が訪れた宮島。ただ、宿泊者数は30万人台で推移し、ほぼ横ばいの状態が続いていた。

島内での消費額を増やすために宿泊客、特に海外の富裕層を取り込みたい。そこで市は「上質な宿泊施設」を誘致するための観光庁の支援事業に応募し、採択された。

廿日市市 松本太郎市長:
広島都市圏においても富裕層向けの施設がなかった。結局、宿泊する先としては関西の方に流れていく。京都や大阪に行ったりするわけじゃないですか。そういった機会損出がこの広島都市圏全体で生じていた。そういった受け皿をぜひ宮島に作っていきたい

「高級ホテルありきで話が進められている」住民からは反対の声が 

2025年の開業を目指し、2月から本格的に住民らへの説明を始めた市に対し、島の中から戸惑いの声も出ている。

旅館 錦水館・志熊聡総支配人:
もう本当に。えっ、なんでそうなるのかなっていうのが一番大きい。大きなものを作れば、来ていただけるかっていうとまたそれは違うと思ってますので

団体客向けの食事処 正木屋・正木文雄社長:
市長が話をしているのは、結論ありきでやっているということで、非常に遺憾に思いましたね。神の島と崇められてきた島ですから、自然に手を加えるところではない

まず、高級ホテルありきで誘致を進めているのではないか?島の中に渦巻く不信感に松本市長は…。

廿日市市・松本太郎市長:
この事業はやはり地域であったり廿日市全体が良くならないとやる意味はないと思っていますので、地域の皆さんのご理解をいただくことが第一だというふうに思っています。高級ホテル誘致で自然が壊れるということはありえない。皆様に親しまれております包ヶ浦の海岸などあるが、基本的にはこれまで通り一般に開放して行きたい

島全体は特別史跡や瀬戸内海国立公園などに指定されているため、大規模な開発は難しい状況。市では国内外から幅広く事業者を募りたいとしている。

五十川裕明記者
五十川裕明記者

五十川記者:
今回、世界遺産の島で浮上した高級ホテルの誘致問題。2025年の開業という言葉が一人歩きしないように困惑している関係者とどのように歩調を合わせていくのか丁寧な議論が求められます

(テレビ新広島)

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