埼玉県に住む田島史也さん(26)は、幼い頃から“ある病”と闘いつづけてきた。

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「オッッ!ウッッ!」出そうと思っていないのに、突然大きな声が出てしまったり、いきなり体が勝手に動いてしまう「トゥレット症」だ。

「抑えようにも抑えられない…」
自分の意思では抑えられない症状、その困難を抱えた人たちと支える家族を取材した。

「運動チック」と「音声チック」

「トゥレット症」患者の田島さんを取材したのは、1月14日のこと。

「トゥレット症」を患う田島史也さん(26):
いまウーバーイーツの配達の待機中です。

先月から、フードデリバリーの配達員として働き始めた田島さん。

配達する時には、お客さんに対し、必ず事前に“あるメッセージ”を送っていた。

フードデリバリーで田島さんが事前にお客さんに送信しているメッセージ
フードデリバリーで田島さんが事前にお客さんに送信しているメッセージ

「チックという病気があり、身体の動きや声が出てしまう事がありますが許していただけると幸いです!」

お客さんを驚かせないための、病気の説明だ。

そもそも田島さんが患っている「トゥレット症」という病気には…
田島史也さん(26):
「運動チック」と「音声チック」というのがあって、ぼく両方ともあるんですけど、自分の場合は(意思に反して)後ろに下がってしまうことが多いです。
※患者によって症状は異なる。

NPO法人日本トゥレット協会の資料を基に作成
NPO法人日本トゥレット協会の資料を基に作成

「まばたき」「顔しかめ」「首振り」「体をたたく」など体が突然動いてしまう症状を「運動チック」、「発生」「せき払い」「不謹慎な言葉」「舌打ち」など声や言葉が急に出てしまう症状が「音声チック」と言う。

NPO法人日本トゥレット協会の資料を基に作成
NPO法人日本トゥレット協会の資料を基に作成

双方の症状が自分の意思に関係なく、複雑に1年以上続いた場合に診断されるのが「トゥレット症」だ。

「トゥレット症」の原因はいまだ解明されていないため、完治させる治療法はない

田島さんの場合、意思に関係なく“後ろにさがってしまう”運動チックの症状が、取材中にも頻繁にみられ、“普通に歩いているだけなのに”看板にぶつかりそうになる場面もあった。

――人とぶつかったことは過去にある?
田島史也さん(26):
そうですね。本当にまれなんですけど、(過去に)あって…。後ろに下がった時にバシッと当たっちゃって、「なんだよ」みたいに言われちゃって。「すみません」ってなんとか謝って…。

症状に驚く人に何度も「すいません」

田島さんにチックの症状が出る頻度は、調子が悪い時で、約10秒に1度。

周りに人がいる時には“驚かれること”もある。

スーパーで買い物中に症状が出て、急に後ろに下がる動きをすると、周囲にいたお客さんが振り向く。

驚いた人に謝る田島さん
驚いた人に謝る田島さん

「すいません」

驚いた人に謝る田島さん
驚いた人に謝る田島さん

その後も、突然のことに、周りのお客さんの多くは驚いた様子で田島さんの方を振り向く。

驚いた人に謝る田島さん
驚いた人に謝る田島さん

スーパーで買い物をしているだけなのに「すいません」と何度も謝っていた田島さん。

“買い物など日常生活でも”周りに気を使わなければならないのだ。

田島史也さん(26):
極力なら人混みはさけたいんですけど、でもどうしても行かなくちゃいけないし、生活の一部なんで…。

学生時代には「おい、チック」と病名で呼ばれたことも

田島さんにチックの症状が出始めたのは4歳の頃。

学生時代は、いじめられたこともあったという。

田島史也さん(26):
症状も、自分が、声とか出たりすると「おい、チック」みたいに病名を言われて、いじられるみたいなことは結構ありました。

大人になってからも、日常生活の様々な場面で影響が出ている。

お昼ご飯を作っている時に症状が出て、熱くなったフライパンに自分の手をぶつけてしまうことも。

田島史也さん(26):
危ないのはわかっているけど、やってしまう。(症状が)出ちゃうので…。

さらに、包丁は自分の体を切ってしまう恐れがあるため、使わないようにしているという。

そして食べる時も、スプーンを器にぶつけてしまったり、すくったご飯を思うように口に運べなかったり…。

履歴書1枚に半日以上… “まずは知ってほしい”

しかし、一番“苦労”するのが文字を書くことだという。

田島史也さん(26):
文字を書くっていう時はつらいですね。

2022年まで就職活動をしていたが、履歴書1枚書くのに半日以上かかるという。

実際に書いてもらうと、
「トンッ、トントントンッ」
「ドンドンドンドン…ドンッ」
手が勝手に動いてしまい、履歴書に“余計な線”が入ってしまう。

田島史也さん(26):
症状がドンドンとか始まったりして、抑えようにも抑えられない…。

書き終えた履歴書には“余計な線”が…
書き終えた履歴書には“余計な線”が…

書き終えた履歴書を見ると、いかにこの病気が大変なのかわかる。

さらにパソコンはもっと苦労する。キーボードを意味なく勝手に叩いてしまうので、手書きより時間がかかるという。

そして、時間をかけて履歴書を書いても、就職活動ではトゥレット症を理由に…。

田島史也さん(26):
(面接の時に)「体が勝手に動いてしまうと、どうしても任せられないよね」って…。悔しい気持ちとかいろいろ混ざって複雑な気持ちでした。

就職活動では、10社近くの会社に採用を断られたという。

いまトゥレット症患者に何が必要なのか?田島さんに聞くと、

田島史也さん(26):
知らないとやっぱり人間って怖がるもんじゃないですか…。まずは知ってもらうことが大事かなと思います。

理解ある社会の実現へ “優しい無視を”

そして、困難に直面しているのは「トゥレット症」に悩む人々を支える家族も同じだ。

1月21日に神奈川・横浜市緑区で行われた日本トゥレット協会「かながわの集い」。当事者同士の「交流会」だ。

患者(夫・40代):
僕はトゥレットの当事者で、音声チック・運動チック両方ありまして…。

「トゥレット症」患者の40代男性は当事者同士の「交流会」に妻と二人の子どもと参加
「トゥレット症」患者の40代男性は当事者同士の「交流会」に妻と二人の子どもと参加

「トゥレット症」患者の夫と、小学生の子ども2人と一緒に参加した妻はこう語った。

妻:
(家の中で) 大きく声が出てしまったりとか、怒鳴ったりする声に、ちょっとあの・・・。みんながちょっと今・・・。

患者(夫・40代):
(家族が)疲れてしまって、苦しいと思いますので…。すいません、私の責任です、それは…。

妻:
色んなところを頼って・・・いきたいなと…。

言葉に詰まりながらも“苦悩”を語り涙した。

話を聞いていた、別の参加者からは励ましの言葉がかけられた。

息子が患者(40代母親):
つらいだろうなってすごい感じました。誰も悪くない…。

患者(夫・40代):
僕が家で(症状が)出ちゃってるから…。

息子が患者(40代母親):
(男性の肩をさすりながら)悪くないですよ全然。出したくてやってるわけじゃないから…。

時には周囲に認知されていないがゆえに、冷たい視線をあびたり暴力を受けるケースまであったという。

そのため、交流会に参加していた患者の多くが街の人にある対応を望んでいた。

女性患者(32):
“優しい無視”をしてほしいなと思います。気持ち悪いから無視とかじゃなくて、思いやりをもって無視してほしいですね。それが一番生きやすいです。

患者と、その家族は「トゥレット症」への理解ある社会の実現を訴えている。

(「イット!」 2月10日放送より)