行き過ぎた“勝利至上主義”の見直しを理由に、「小学生の全国大会」を廃止する動きが出る中、日本スポーツ協会が1月27日、「小学生の全国大会」に関する調査結果を公表した。

調査の対象となった団体のカテゴリーは、大きく分けて3つ。

小学生の年代を対象とした全国規模の大会を主催する立場の「中央競技団体」。

小学生年代を対象とした都道府県の大会を主催する立場の「都道府県スポーツ少年団」。

地域でスポーツ活動を行い、大会に参加する立場の「単位スポーツ少年団」。

「中央競技団体」67団体、「都道府県スポーツ少年団」47団体、「単位スポーツ少年団」2万7384団体を対象に、小学生の年代の全国規模の大会が必要かどうか、聞いたところ、「必要」という回答は「中央競技団体」が76.9%、「単位スポーツ少年団」では58.3%だった。

一方で「都道府県スポーツ少年団」は25.5%。回答にバラツキが出た、としている。

小学生年代の「全国大会」の必要の有無(提供:日本スポーツ協会)
小学生年代の「全国大会」の必要の有無(提供:日本スポーツ協会)
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「必要」と回答した理由では、中央競技団体と単位スポーツ少年団で最も多かったのは「小学生の年代から夢や目標となる大会として必要」。

都道府県スポーツ少年団は「全国から参加する選手や指導者などとの交流の場として必要」だった。

「小学生の全国大会」が必要な理由(提供:日本スポーツ協会)
「小学生の全国大会」が必要な理由(提供:日本スポーツ協会)

一方、「必要ない」の理由では、中央競技団体で最も多かったのは「大会で勝つことよりも競技そのものを楽しませたいから」。

都道府県スポーツ少年団は「発育発達の個人差が大きい小学生年代では全国1位を決める大会は必要ないと考えるから」。

単位スポーツ少年団が「指導者が勝つことを目指した指導に極端に偏り、不適切な指導につながるから」だった。

「小学生の全国大会」が必要ではない理由(提供:日本スポーツ協会)
「小学生の全国大会」が必要ではない理由(提供:日本スポーツ協会)

今回の調査で、「都道府県スポーツ少年団」は、他の団体と比べると、「必要」という回答の割合が少なかった。この理由としては、どのようなことが考えられるのか?

また、今回の調査結果を踏まえ、「小学生の全国大会」は、どのようにあるべきなのか?


日本スポーツ協会の担当者に、小学生の全国大会の“今後の在り方”を聞いた。

調査を行った3つの目的

――日本スポーツ協会は「小学生の全国大会」の開催の可否に関して、どのような形で関わっている?

日本スポーツ協会の内部組織である「日本スポーツ少年団」が主催している全国規模の大会(全国スポーツ少年団競技別交流大会)については、日本スポーツ少年団が開催の可否を決める立場にあります。

つまり、日本スポーツ協会が、その立場にあるといっても問題ありません。

一方で、中央競技団体(日本陸上競技連盟、日本水泳連盟などの競技を統括する団体)が主催している大会については、日本スポーツ協会が開催の可否について、言及する立場にはございません。

大会の開催の可否については、その大会の主催団体が決める権限を持っています。
 

――「小学生の全国大会」に関する調査を行った理由は?

日本スポーツ協会の内部組織である「日本スポーツ少年団」は、これまで、スポーツ少年団の理念に基づき、「全国スポーツ少年団競技別交流大会」を実施してきましたが、大会の出場チームを選定する際において、試合で勝つことのみに固執するようなチームが選定されるなど、スポーツ少年団の理念にそぐわない事例も見受けられるようになっていました。

スポーツ少年団の理念は「一人でも多くの青少年にスポーツの歓びを提供する」「スポーツを通して青少年のこころとからだを育てる」「スポーツで人々をつなぎ、地域づくりに貢献する」です。

また、近年のスポーツ少年団活動において、競技志向の高まり、勝利至上主義による行き過ぎた指導や過度なトレーニングが顕在化してきています。

スポーツ少年団の課題の整理や課題解決のための取り組みについて検討することを目的に、2021年4月に設置された「スポーツ少年団緊急対策プロジェクト」においても、「全国スポーツ少年団競技別交流大会」の在り方について検討することが提言されました。

また、「日本スポーツ協会 スポーツ医・科学委員会」が発表した、「スポーツ少年団の活動実態調査と活動プログラムに関する研究(1990)」や「発育期のスポーツ活動ガイド(2021)」において、子どもたちへの過度な負担を避けるため、小学生の年代の全国規模の競技会を推奨しておりません。

イメージ(小学生の全国大会)
イメージ(小学生の全国大会)

このような状況を受けて、日本スポーツ少年団では、2022年2月に取りまとめた「スポーツ少年団改革プラン2022」に基づき、「全国スポーツ少年団競技別交流大会」を中止とするのか、新たな形とするか、今後の在り方について検討することとなりました。

こうした背景を踏まえ、以下の3つの目的のために、今回の調査を実施することにしました。

(1)中央競技団体や都道府県スポーツ少年団、単位スポーツ少年団が小学生年代を対象とした全国規模の大会、「全国スポーツ少年団競技別交流大会」に関して、それぞれの立場でどのような考えや意見をもっているのかを明らかにする。

(2)現在、中央競技団体が実施している小学生の年代を対象とした全国規模の大会、および、都道府県スポーツ少年団が実施している小学生の年代を対象とした都道府県の大会、ならびに、単位スポーツ少年団(以下・単位団)の活動実態を把握する。

(3)上記の2点を踏まえ、今後の「全国スポーツ少年団競技別交流大会」の在り方の検討材料とする。
 

「都道府県スポーツ少年団」はスポーツ少年団の理念を重んじた

――小学生の全国大会が「必要」という回答は、団体によってバラつきが出た。こちらは、どのように受け止めている?

率直なご意見と受け止めております。

組織や立場によって、小学生年代の全国規模の大会に関する意見が様々であることは、興味深いと思われます。
 

――「都道府県スポーツ少年団」は、他の団体と比べると「必要」という回答の割合が少なかった。この理由としては、どのようなことが考えられる?

スポーツ少年団の組織においては、過去にも全国規模の大会の是非や必要性について、検討してきた歴史があります。

スポーツ少年団の理念には、「一人でも多くの青少年にスポーツの歓びを提供する」「スポーツを通して青少年のこころとからだを育てる」とありますので、理念に反する、勝利至上主義から起こる不適切な指導や子どもの発育発達を踏まえた活動の在り方を考慮して、主催している「全国スポーツ少年団競技別交流大会」の是非について協議・検討してきました。

そういった背景から、スポーツ少年団の理念を重んじ、都道府県スポーツ少年団での意見として、全国規模の大会が必要との意見が少なかったと、みています。

「2023年度末までに結論を出す」

――「小学生の全国大会」が必要な理由は「夢や目標となる」が中央競技団体と単位スポーツ少年団で最多。こちらは、どのように受け止めている?

率直なご意見と受け止めております。

大会の存在が「子どもたちの夢や目標であること」について、主催する「中央競技団体」と大会に参加する「単位スポーツ少年団」が同じような認識であることが明らかとなったと思います。
 

――「小学生の全国大会」が必要ない理由については、どのように受け止めている?

中央競技団体では、全国規模の大会が「必要ない」と回答した団体数が8と少ないため、参考程度と受け止めています。

都道府県スポーツ少年団の回答については、「発育発達の個人差が大きい小学生年代では全国1位を決める大会は必要ないと考えるから」の他、「指導者が勝つことを目指した指導に極端に偏り、不適切な指導につながるから」、「ブロックや都道府県規模の大会で十分であるから」の回答が続いています。

単位スポーツ少年団の回答については、「指導者が勝つことを目指した指導に極端に偏り、不適切な指導につながるから」の他、「大会で勝つことよりも競技そのものを楽しませたいから」、「発育発達の個人差が大きい小学生年代では全国1位を決める大会は必要ないと考えるから」の回答が続いています。

最も多い回答だけでなく、その次に続く回答も考慮すると、子どもを取り巻く指導の在り方や子どもの発育発達を踏まえて、小学生の年代に必要なスポーツ環境や全国規模の大会について、それぞれが考えられているのではないかと考えています。

イメージ(小学生の全国大会)
イメージ(小学生の全国大会)

――今回の調査結果を踏まえ、「小学生の全国大会」は、どのようにあるべきだと思う?

日本スポーツ協会としては、今回の調査結果から、組織や立場によって、小学生の年代の全国規模の大会に関する意見が様々であるため、現時点で結論を明らかにすることは難しいと考えています。

しかしながら、昨今の小学生年代の全国規模の大会をめぐる議論においては、いくつかの課題があることは明らかです。

こうしたことから、日本スポーツ少年団が主催する「全国スポーツ少年団競技別交流大会」を現状通りに開催するのではなく、これまで議論してきた改革の2つの方向性(1:全国スポーツ少年団競技別交流大会を中止とするのか、2:新たな全国スポーツ少年団競技別交流大会の形とするのか)について、「全国スポーツ少年団競技別交流大会」を共催している中央競技団体や、日本スポーツ少年団を構成する都道府県スポーツ少年団と丁寧に調整し、協議の上、2023年度末までに結論を出すこととします。

イメージ(小学生の全国大会)
イメージ(小学生の全国大会)

去年3月には全日本柔道連盟が全国小学生学年別柔道大会の廃止を発表するなど、廃止の動きが出ている「小学生の全国大会」。
今回の調査結果を踏まえ、今後どうあるべきなのか、何が子どもたちにとって最善なのか、丁寧に協議して、結論を出してもらいたい。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。