LGBTなど、性的マイノリティに対する差別発言で岸田総理への追及が続く国会。

性的マイノリティの当事者で、LGBTQの情報を発信し支援する、LGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」の代表・松中権さんに、当事者としての経験と、差別を無くすための法整備に対する思いを聞いた。

留学先で初めてカミングアウト

ーー松中さんが「プライドハウス東京レガシー」の代表になったきっかけは?
私は石川県金沢市生まれで、高校までそこで育ちました。

小学校ぐらいから同性が好きでゲイでしたが、東京以上に北陸地域は差別、偏見が強くて、「ここでは暮らせない」と思い、大学から東京に来ました。

「プライドハウス東京レガシー」代表・松中権さん
「プライドハウス東京レガシー」代表・松中権さん
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それでも自分のことを明かすことはできず、オーストラリアに留学した時に初めてカミングアウトして語ることができました。

「カミングアウトできる社会というのはこんなに心地良いんだ」、「自分らしくいられるというのはこういうことだ」ということを経験しました。

その後、日本に帰国し、日本の会社では自分のことを隠していましたが、やはり自分らしくありたいとカミングアウトして、仕事しながらNPOを立ち上げて、二足のわらじで働いてきました。

しかし2017年に会社を辞めて、今はLGBTQ+の活動に専念しています。退社した理由は、一橋大学の「アウティング事件」でした。

「プライドハウス東京レガシー」
「プライドハウス東京レガシー」

一橋大学のロースクールに通う学生が自分がゲイであることを友達にカミングアウトしたら、友達が本人の許可を得ずに周りにばらしてしまった。それを“アウティング”と言いますが、差別、偏見がキャンパスに広がってゲイの学生は心を痛めて、学校に相談できる良い対応もなく、最終的には校舎の6階から転落死、自殺しました。

一橋大学は私の出身校でもあったため、同じことが自分にも起きていたのではと思いました。

日本で暮らしているLGBTQ+の方々の中にも過去に自殺を考えた人もいるし、実際にたくさんの方が亡くなっていて、今起きている差別・偏見は命にかかわることだと知ってもらいたい。

プライドハウス東京では、厚生労働省の交付金をもらって命の相談窓口も設けています。

総理の釈明は「奇弁にしか聞こえない」

国会で連日続く、性的マイノリティへの差別発言をめぐる岸田総理への追及。

「社会が変わってしまう」と答弁したのは「ネガティブな意味ではない」と釈明したことについて、松中さんは疑問視する。

ーー岸田総理が「ネガティブな意味ではない」と釈明したが、どう思う?
法案について「社会が変わってしまう」という発言がポジティブな意味なら、どんどん法案を作って通していけばいいと思います。

もともと同性婚やLGBTQ+に関する法整備を進めることは、社会が変わってしまうから慎重な議論が必要と言ってきているので、それはネガティブなことだと思います。

総理の答弁は、奇弁にしか聞こえません。全くポジティブには捉えられないです。

答弁する岸田総理
答弁する岸田総理

ーー立憲民主党は岸田総理にリーダーシップを発揮してほしいというスタンスだが、総理は「見守っていく」と発言。これはどう捉える?
世間は岸田総理や秘書官の発言に対して声を挙げているのに、「見守る」というのは本当に信じられない話。

昨年、ドイツで開催されたG7では、首脳声明で「性的マイノリティの人の環境をきちんと整える」と明確にうたわれました。

今年はそのG7のホスト国のリーダーですから、そのリーダーが引っ張らず誰がやるのかと疑問に思います。

LGBTQ+に関する書籍
LGBTQ+に関する書籍

これだけ差別があることを伝えていて、人権を守るための法律が必要だということがわかっているのに、何を見守っているのか教えてほしいです。
リーダーが引っ張らない限り国は動かないし、いろいろな意見を取りまとめていくのが首相の役割だと思うので、見守っていてはだめだと思います。

岸田総理は本当にLGBTQ+の当事者に会って、何が困難で苦しいのか、という声を聞いたのか。実情を聞けば動かざるを得ない、動きたいと思うはずです。

それを「見守る」というのであれば、反対派、もしくは差別している人たちを擁護しているとしか思えません。

LGBTQ+の人は日本で暮らせない

性的マイノリティに対する一刻も早い法整備を願う松中さん。今の日本で暮らすことに不安を感じている人はたくさんいると話す。

ーー自民党内でまだ反対の声があると思う?
ちょうど1年半ほど前、「理解増進法」を超党派の議連でやっていこうと決まった時、自民党内で反対意見が一部あり、法案にならなかった。
まさに今同じことが起ころうとしていると思います。

その時は、「差別は許されないもの」ということを法案の中に書き込むことだけでも反対が出た。差別ということを書きたくないということは、差別をしている人たちを守りたいだけかなと思います。

ーー秘書官の「隣に住んでほしくない」発言はどう思う?
昨年の自殺総合対策大綱の中に、性的マイノリティはハイリスク層ということで政府として書き込んでいるのに、政府トップの官邸の中から発言があったというのは信じられない。

当事者は怒りを通り越して、気持ちを抑えられず力を失っている状況です。

 
 

ーー今回は差別禁止法案までは行かず「理解増進法」だが、今後政府、与党、野党に望むことは?
とにかく差別をなくす法律、差別的取り扱いをなくす法律を作ってほしいです。

それは法律上、同性カップルが結婚できるということだし、トランスジェンダーの方が望まない性別適合手術を強要されないということです。

その法律がない限りは、日本に住むことに不安感を持つ人がたくさんいます。
実際にLGBTQ+の方々は日本を出ていってますし、日本で暮らせないと思っているのが現状です。

この国を良くしたい、多様性を受け止める国にしたいと政府が思うのなら、いち早く法制度を整えてほしいと思います。

「プライドハウス東京レガシー」
2020年にオープン。社会全体のLGBTQ+に関する理解を広め、差別をなくすための情報発信を行う常設の日本初の総合LGBTQ+センター。安心して寛げる空間を提供し、約3500冊のLGBTQ+やジェンダーに関する本や漫画、絵本など書籍が並ぶ。