園児の送迎バスでの置き去りを防ぐため、子ども用シューズを「見守り」に活用する取り組みが進められている。
スポーツ用品大手の株式会社アシックス(神戸市)は、同市にある近畿タクシー株式会社や神戸常盤大学附属ときわ幼稚園と協力し、スマートシューズによる送迎バスの見守り実証実験を実施しているのだ。
使用するのは「TUNEGRID-Cube」という約7グラムの小型センサーを取り付けたシューズで、Bluetoothを介した受信機との連動や、時間に応じた歩数を記録できるもの。

実験では5歳の園児14人にこのシューズを履いて通園してもらう。近畿タクシーが運行管理する送迎バスに子どもが乗車すると、車内に設置した受信機が乗降を検知。幼稚園の職員が使うアプリに、一目で分かるよう伝える仕組みになっているという。

また、車内の受信機にはGPSが搭載されており、送迎バスの位置やおよその到着時間もアプリで把握できる。さらに幼稚園の正門にも受信機があり、送迎バスから降りて登園したことが分かるようにしているとのことだ。

実験で使う「TUNEGRID-Cube」は、もともとスマートシューズやビデオカメラなどのツールと連携して競技や個人の運動データを管理分析し、競技力向上などに活用するスポーツデータ統合システム「TUNEGRID」の中核を担う技術のひとつ。
現在「TUNEGRID」はさまざまな分野に用途を広げ、子どもの体力向上や、暑さ対策をふまえた運動環境の構築などの課題解決にも取り組んでいくという。
バス事業のDXソリューションを模索中に…
スポーツメーカーが、本来は異なる用途で作った技術を「見守り」に使うきっかけは何だったのだろうか? またセンサー内蔵ということだが、靴を水洗いするときはどうすればいいのだろうか? アシックスの担当者に聞いてみた。
――置き去り対策に取り組んだきっかけを教えて。
近畿タクシー様が「TUNEGRID」に興味を持って頂いたことがきっかけです。両社でバス事業に関するDXソリューションを模索していた際、幼児のバス置き去り事故が起き、その解決策のひとつになり得るのではないかと思い、当社が有する「TUNEGRID」を活用した、今回の実証実験の実施を決めました。
そして、ときわ幼稚園様に、実証協力のお願いをさせて頂いたところ、社会課題の解決につながり得る取り組みということでご快諾頂き、3者の取り組みを開始しました。
当社は、「スポーツでつちかった知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」をビジョンに掲げ、世界の人々が健康で幸せな生活を実現できる製品やサービスの提供を目指しています。今回の実証実験では、スポーツ分野で開発したシステムを活用し、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。また、体力向上や怪我リスク軽減、運動環境の改善など教育現場が抱える他のさまざまな課題解決にも貢献し、子供たちが安心安全に運動できる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。

――「見守り」にシューズを使うメリットは?
靴は外出する際、必ず身に着けるという点です。違和感なくご着用いただけるよう、軽量で小型のセンサーを靴に取り付けています。
――実証実験のアプリで、保護者が子どもの情報を見ることはできない?
現在は幼稚園の職員の方にご使用いただいております。今後は、保護者の方もご利用頂けるシステムの構築を目指します。
センサーは完全防水で水洗いOK
――「TUNEGRID-Cube」と受信機は、どのぐらい離れても検知するの?
およそ20mです。
――「TUNEGRID-Cube」が付いたシューズは、どうやって洗う?
センサーは完全防水となっており、そのまま水洗いが可能です。

――このシューズの値段を教えて。
現在は一般販売しておらず、通常のシューズよりは少し高くなる想定をしています。また、センサーはおよそ1年間ご利用頂けますので、「靴が小さくなった」「破れた」などの場合はシューズのみ買い替えていただくことも想定しています。それぞれの価格設定については、現在検討中でございます。
――実用化はいつごろになる?
具体的な実用化の時期は決めていません。本実証を通じて課題を抽出し、慎重に取り組んでいきたいと考えています。

近年は毎年のようにバスの置き去りが報道され、保育園などでも注意しているはずだ。それでも起きてしまっていることから、このような仕組みも活用し、少しでもヒューマンエラーを防ぐことが必要なのかもしれない。