岸田首相の側近・荒井勝喜前首相秘書官による同性婚に関する差別的な発言を受け、自民党内でLGBT=性的マイノリティの人たちへの理解を促す「LGBT理解増進法案」の提出・成立に向けた動きが加速している。
LGBT法案 おととしは与野党合意も国会提出断念
6日には、自民党の茂木幹事長、萩生田政調会長ら幹部が会談し、対応を協議した。会談後、茂木幹事長は、LGBT理解増進法案の「提出に向けた準備を進めていきたい」と述べ、前向きに検討する意向を表明した。秘書官の更迭からわずか2日後のことだ。
この記事の画像(4枚)この秘書官の問題発言を受けて急に持ち上がったかに見えるLGBT理解増進法案だが、実は一昨年、超党派の議員連盟が法案をとりまとめ、成立を目指していた。しかし、国会への提出を断念した経緯がある。
当時、超党派の議連で法案をとりまとめた稲田朋美元防衛相は6日、「理解を増進させるための法律を成立させた上で、国民的な議論としての同性婚の問題も議論すべき」と意気込みを語った。
「差別許されない」に自民内で反発
なぜ法案は国会に提出されなかったのか。それは自民党内で起きた強い反発だった。
おととしに稲田氏が各党とまとめた法案には、「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」という文言が入っていた。この文言に対し自民党内から反発が出たのだ。前回の法案の内容で国会に提出しようとすると、議論が紛糾するおそれがある。
いったい何が問題なのか。
当時この文言に反対した西田昌司政調会長代理は7日、こう語った。
「『差別を禁止する』といった法的な措置を強化すると一見良さそうに見えるが、逆に(LGBT以外の人たちへの)人権侵害の問題が出てきて社会が分断される。党内の合意形成の手続きを慎重にやるべきだ」。
例えばおととし、党内ではこんな議論が持ち上がった。
男性なのに、「自分は女性」と偽って女湯に入ってきた場合、どうするのか。
仮に「差別を禁止する」といった文言が法律に書かれていた場合、これを禁止した際に「差別を受けた」として訴訟に発展するのではないかという懸念からである。
そのため、西田氏は「理念法という形でまとめる」ことが望ましいと訴える。
「理解増進法案」は、その名の通り、あくまでLGBTの人たちへの「理解増進」を目的とした法律にとどめるべきだという主張だ。
「差別が許されない」といった差別解消に向けた文言は必要か、不必要か。こうした意見の対立が今回も予想される。
広島サミットを前に…問われる首相の人権感覚
しかし、今回の荒井氏の発言は、海外メディアからも批判が上がっている。
今年5月には、日本が議長をつとめるG7広島サミットを控えており、7日、公明党の山口代表は「できればG7の首脳会議をする前に日本としての意思を明確に示すべきだ」と話し、サミット前の法案の成立を求めている。
ある自民党幹部は、「岸田首相の思い入れがある法案ではないが、秘書官の発言を受け、やらなければいけない状況になった」と本音を明かした。
国会で野党の厳しい追及を受けるだけでなく、サミットを前に、国際社会から岸田首相の人権感覚が問われる事態になっている。思わぬ形でこの法案の行方が今国会の大きな焦点となっている。
(フジテレビ 政治部 高橋洵)