人々の疲れをいやし、憩いの場となってきた“銭湯”が燃料費の高騰で苦境を迎えている。

つらい 営業努力ではどうしようもできない勢い。

このコメントと共にTwitterに投稿されたのは、2023年1月分のガス料金の領収証。支払い額は「172万1826円」にのぼり、消費税などだけでも15万円以上かかっていることが分かる。

押上温泉 大黒湯
押上温泉 大黒湯
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投稿したのは、東京・墨田区にある「押上温泉 大黒湯」(@daikoku_yu)。露天風呂や炭酸泉、薬湯、サウナなど、さまざまなリラクゼーションを提供する、1949年創業の銭湯だ。午後から翌日午前10時までの、オールナイト営業でも知られる。

大黒湯の2023年1月分のガス料金。約172万円
大黒湯の2023年1月分のガス料金。約172万円

そんな大黒湯の悲鳴は注目を集め、Twitterでは「高すぎる…」「知らんかった。こんな掛かってたなんて…。」といった驚きの反応が相次いだほか、経営状況を心配するユーザーもいた。

大黒湯の営業時間と入浴料金(2023年2月時点)
大黒湯の営業時間と入浴料金(2023年2月時点)

大黒湯の入浴料は大人500円、中学生400円、小学生200円、0歳~幼児100円。ガス料金の172万円を支えるには、約3443人の大人に利用してもらって、やっとトントンという計算だ。

金額の大きさに驚くが、「営業努力ではどうしようもできない」とはどのくらいガス料金が増えたのだろうか。

100万円ほど値上がりした

最近は、電気料金も高騰していて、銭湯の厳しい経営状況が想像できるが、大黒湯の担当者に聞くと、簡単に値上げできない実情も見えてきた。


――1月分のガス料金を見た時の心境は?どれくらい値上がりした?

びっくりしました。最初は風呂場のお湯が漏れているのではないか、設備の不具合があったのではないかと思ったほどです。ただ、そうしたことはなかったので、本当の料金なんだと思いました。以前のガス料金は月に70万円前後でしたので、100万円ほど値上がりしたことになります。

大黒湯の内観
大黒湯の内観

――電気料金も高騰しているが、経営状況は?

電気料金は詳しく調べていませんが、以前より3割~4割は上がったと思います。何年も営業努力は続けてきたのですが、営業すると赤字になってしまうこともある状況です。銭湯(関係者)の会合では「経営が厳しいので(銭湯を)やめようか」というところも出ています。

サウナの温度を上げるため、電気も使うという
サウナの温度を上げるため、電気も使うという

――ガス、電気は銭湯でどんな役割をしている?

ガスは湯舟のお湯を沸かしたり、シャワーの温度を上げるために使います。欠かせないもので、ここを削るわけにはいきません。電気は冷暖房や街灯のほか、サウナの温度を上げるためにも使用します。

入浴料金は簡単に値上げできない、お店の休業もできない

――入浴料金を値上げすることはできないの?

一般の公衆浴場の入浴料金は、都道府県ごとに統制額(上限)が決まっています。今の額は2022年夏に決まったもので、ガス料金のここまでの高騰は想定していなかったと思います。自治体からも一定の補助はあるのですが、カバーできない状況です。
※東京都の公衆浴場入浴料金の統制額 大人(12歳以上の者)500円など


――お店を一時休業するようなことは難しい?

銭湯を維持するにはさまざまな機械類が必要です。例えば、地下から温泉をくみ上げたり、お湯を循環させるためにモーターを動かしたりします。こうした機械類は長期間止めると不具合が出たり、固着して動かなくなることがあります。修理が必要になるとかなりの出費なので、難しいです。

銭湯の文化を次の世代につなげるためにも、お店は開けたい
銭湯の文化を次の世代につなげるためにも、お店は開けたい

そして、公衆浴場は国民の衛生を守るという役割があります。営業を止めると、従業員もお客様も困ることになりますし、銭湯の文化を次の世代につなげるためにもお店は開けたいのです。

貸タオルを苦渋の値上げ

――今回の高騰をどうカバーしようと考えている?

大変申し訳ないのですが、2023年1月25日から、貸タオルの料金を20円(大小セットは50円)値上げさせていただきました。このほか、営業を終了するとガスのスイッチをすぐに切るといったことはしているのですが、正直どうしたらいいのだろうという状況が続いています。銭湯としての魅力がなければ、お客様も来てくれなくなります。

貸タオルの値上げの告知
貸タオルの値上げの告知

――Twitterの反応をどう受け止めている?

応援の声は励みになりますし、ありがたく思います。銭湯はお風呂の環境をシェアするという、SDGs的なところもありますので、入浴に来ていただければと思います。今は銭湯の文化を残したい、続けたい。もう少し耐えればどうにかなるかもしれないといった気持ちです。どの業種も大変だと思うので、何とか頑張っていきたいです。


燃料費の高騰は、銭湯業界にも大きな打撃となっているようだ。政府もガス・電気料金の負担緩和策をスタートさせているが、今の状況が続けば、銭湯の存続に影響を与えかねないだろう。

(提供:押上温泉 大黒湯)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。