「国民の意識と病院の体制、この二つをしっかりと組むことが重要だと思います」

現状の政府のコロナ対策について、見解を述べたのは田村憲久前厚生労働大臣(58)

田村前厚生労働大臣(58)
田村前厚生労働大臣(58)
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日本中が新型コロナウイルスの恐怖に包まれていた2020年9月、6人に1人が感染という状況下で管轄省庁である厚生労働省の大臣に就任。“テレビで田村さんを見ない日はない”というほど、ある意味一番大変な時に厚労相になったという印象が強い。

前編では厚労相としての当時の生活や菅前首相とのやりとりについて聞いた。

国と自治体の役割とは

田村氏自身もコロナ対応ではスピード感にこだわり、臨時の医療施設の設置に向けて動いていたが、実現に苦労している印象があった。それは主導権の明確化がされていなかったという課題も指摘もあるが、実際に国か自治体かどちらが握るべきなのか。

「実際には自治体が重要になります。何故なら現場は自治体なので。ただ都道府県によってそれぞれ色があり、スピード感も違います。今度新しい感染症対策の司令塔機能を作る予定で、私の方から役所に対しては「普段から都道府県の保健衛生部局と知見を共有しあいながら、状況によってどのような体制を組んでいくのか、意思の疎通ができるようにしてもらいたい」と伝えました。人と人とのコミュニケーションが取れなかったら意味ないですし、都道府県でこういう対応をしてほしいですとか、逆に都道府県がうちは今こういう状況なのでこれじゃなくてこれでいきます、じゃあ国はこういうお手伝いをしようみたいなコミュニケーションをとれることが一番重要なので。今回のコロナはやはり初めての事ということもあり、そこがなかなか難しかったですね。」

専門家との連携

あらゆる専門家の見解や提言を一つの客観的事実として、それを受け止め政策に繋げていくべきではないのかという声も聞かれた。一方で政府と専門家との綱引きのような局面が取り沙汰されることもあったが、実際にその辺りの連携はどうだったのか。

「専門家の方々も暗中模索の状態でしたし、何の専門家を揃えるかというのが重要です。感染症の専門家だけでは駄目なんですよ。臨床の専門家も必要で、今振り返ると“社会システム学”の専門家が入っていなかった。どこまで社会を止めて、どれくらいの期間ならば社会として麻痺しないのか、人間のストレスや経済の耐久性など、社会システムと感染症は密接に関わってくるので、そこの専門家を入れてバランスとってやっていただくとまた違った答えが出てきたかもしれないです。」

ーー政府分科会の尾身会長の見解に対し「自主的な研究の成果の発表」という田村氏の発言が批判的に受け取られたこともありました。

あれは尾身会長が元々有志で動かれていた。何故かというと分科会やアドバイザリーボードなどのクレジットでやると、それはもう政府でオーソライズされてしまうので、尾身さんも動きづらい。要は、有志が集まって色んなオリンピックに対する研究を始めますと、そういう意味で“自由”ということなんです。我々は政府というものに縛られない研究者、学者としての自由な研究と受け止めて、しっかりと参考にさせていただきますと言っているので、何も問題ないはず。ただ、その2日後くらいに私は訂正しますと申し上げて、その時に田村は官邸で菅総理に怒られたから謝ったという声がありましたが、菅さんは怒るどころか気にもしていなかった。尾身さんも全然気にしていなかったですし、我々の自主性を重んじていていただいているというのは分かっていますからと。どこかマスコミも当時のコロナの状況を見て私と尾身さんの関係性を煽りたかったんでしょうね。

現状の政府のコロナ対策について

田村氏は2021年の10月に厚労大臣を退任し、今は自民党コロナ対策本部の座長を務める。現在、国内の感染状況や、政府のコロナ対策についてはどう見ているのだろうか。政府は1月下旬に新型コロナの法律上の位置付けを5月8日に、2類相当から季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げる方針を決めた。

「世界には、もうマスクをせずに普通の生活をして問題ない国もあって、感染症部会の方でも、5類にするのは妥当だろうという声も聞かれます。結局何で2類にするのかというと、国民の生活に制約をかけるためなんですよ。どちらかというと国民を束縛するための法律なので、そういう意味からすると、ワクチンの効果もあり、毒性も下がってきたとなったらいつまでも国民に緊急事態宣言やまん延防止などの措置を発令できるような法体系においておくのは問題だろうと学者も言われますよね。」

ーー移行するタイミングについてはどう感じますか?

もっと前でも良かったとは思いますが、一つは国民の意識ですね。国民が怖いと思っているのに5類に引き下げたら逆に不安になる。ただ現状、もう5類にして欲しいという国民の声も多く聞かれているので、中にはまだそうじゃないという人もいるとは思いますが今のタイミングで移行するのは理解が得られるであろうと思います。

ただ実際に自治体によっては医療の混乱などを危惧する声も聞かれる。

「病院の中はなかなか5類にできないですよね。基本的にインフルエンザのように微熱や熱のない風邪の症状では検査しないということになりますから。今までのコロナはそうではなくても見つけ出して、行動に制限かけて、無症状でもPCR検査しますよね。それをやらないとなると、万が一クラスターが発生して一般医療が止まる事態に繋がる可能性があるのでそこの対応をどうするのか考えないといけない。そういった病院の体制をしっかりと整えた上で、あとは本当に発熱しても見てもらいたい人は見てもらえるような体制を組むことが大事だと思います。僕は個人的に「国民の意識と、病院の体制」、この二つをしっかり組んで5類にするのが良いかと思います。」

そして、岸田首相はマスクの着用に関しても屋内外問わず個人の判断に委ねる認識を示したが、“個人の判断”ということに社会はどう判断したら良いのか困惑する可能性もある。

「マスクはもう屋外でしている意味がほぼないので、外では外しても良いと思います。「冬は寒いのでしたい人は良いと思いますが、暖かくなってきて外でする意味はないです。」と言いながら私も周りの目を気にしてなかなか外せないんですけど(笑)。暖かくなってきたら外は外した方がいいですよ。屋内に関しても換気していれば外しても良いとは思いますが、している人に外して下さいなんて強要する必要もないし、インフルエンザの予防でする人は冬場にはいるので、各々でご判断してもらう方向で良いと思います。ただ換気が悪いところで大人数で特に不特定多数の人が集まるような例えば飲食店の様なところは、知恵を出して換気を良くしてもらいたいですね。」

国内で初めてコロナが確認されてから約3年、ウィズコロナに向けて日本社会の対応も徐々に変化しつつある。一人一人が自らの基準に合わせて考える段階に入ってきた今、人々が健康な社会生活を送れるような道筋を今後も政府には示してもらいたい。

社会部
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今、起きている事件、事故から社会問題まで、幅広い分野に渡って、正確かつ分かりやすく、時に深く掘り下げ、読者に伝えることをモットーとしております。
事件、事故、裁判から、医療、年金、運輸・交通・国土、教育、科学、宇宙、災害・防災など、幅広い分野をフォロー。天皇陛下など皇室の動向、都政から首都圏自治体の行政も担当。社会問題、調査報道については、分野の垣根を越えて取材に取り組んでいます。

木下康太郎
木下康太郎

フジテレビアナウンサー。
神奈川県横浜市出身、上智大学卒。
2010年フジテレビ入社。
主に情報、報道番組を担当。
とくダネ!、知りたがり!、めざましテレビ、めざましどようび、グッディ!を担当し、現在は日曜報道THE PRIME・情報キャスター。
厚生労働省・国交省の記者も兼務している。