光を99.98%以上も吸収する真っ黒な「至高の暗黒シート」を産業技術総合研究所が開発した。

これは、同研究所が2019年に開発した「究極の暗黒シート」を進化させたもので、当時は反射率0.5%以下だったが、「至高」では一桁以上低い0.02%以下になったという。

一般的な黒い樹脂板と「至高」「究極」を並べて光を当ててみると、「至高」は、ぎらつき(鏡面反射)や、くすみ(散乱反射)が抑えられていることが分かる。

(産業技術総合研究所 提供※Science Advances誌の論文(https://doi.org/10.1126/sciadv.ade4853)に掲載された図を改変。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))
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触れる素材では“世界一黒い”

光を吸収する秘密は、表面に作られた特殊な「光閉じ込め構造」にあるという。「究極」「至高」シートの表面にはミクロサイズの凹凸構造が敷き詰められており、ここに光が入ると壁面で何度も吸収・反射を繰り返すことで反射率がゼロに近づいていくというのだ。

(産業技術総合研究所 提供)
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(産業技術総合研究所 提供)
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さらに「究極」で顔料に使っていた炭素の微粒子は、シリコーンゴムの中で凝縮して光を散乱させていた事が判明。そこで、この顔料を加えなくても黒い、カシューオイル樹脂に「光閉じ込め構造」を型押したところ光吸収率99.98%以上を実現したという。

(産業技術総合研究所 提供※Science Advances誌の論文(https://doi.org/10.1126/sciadv.ade4853)に掲載された図を改変。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))
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同研究所は、世界一黒い材料とされるカーボンナノチューブ配向体はもろく、触ると性能が損なわれてしまうが、「至高」は指を付けても大丈夫で、「触れる耐久性を有する素材として世界一の黒さを達成」したとしている。

こうしてできた究極を超える「至高」の黒さは、レーザーポインターの光でも消えたように見えるとのことだ。

中央に赤いレーザーポインターを当てたところ。右の「究極」では赤い線が見えるが、左の「至高」では見えない。 (産業技術総合研究所 提供※Science Advances誌の論文(https://doi.org/10.1126/sciadv.ade4853)に掲載された図を改変。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))
中央に赤いレーザーポインターを当てたところ。右の「究極」では赤い線が見えるが、左の「至高」では見えない。 (産業技術総合研究所 提供※Science Advances誌の論文(https://doi.org/10.1126/sciadv.ade4853)に掲載された図を改変。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))

こんな黒い素材をどのように活用するのだろう、と思う人もいるかもしれない。編集部では4年前に「究極の暗黒シート」を取材した際、カメラや分析装置などで光を極力抑えたい場面での活用が期待されていることを紹介している。

(参考記事:ほぼ100%の光を吸収する「究極の暗黒シート」は何に使えるのか?聞いてみた

黒いけど…「究極を見慣れたらなにか物足りない」

その「究極」も相当黒かったが、なぜもっと黒い「至高」を開発しようと考えたのか?「究極」を超える素材に「至高」と名付けたのはなぜなのか? 今回も開発者である同研究所の雨宮邦招さんに聞いてみた。


――なぜ「究極」より黒い「至高」を作ろうと思った?

「究極の暗黒シート」は、当時は十分黒いと評価いただいたものの、見慣れてくると何か物足りないと感じていました。そしてほどなく、一般消費者の手の届く価格で「究極の~」と同程度に黒いシート素材が市販されるようになり、価格競争では不利な暗黒シートは差別化を迫られていました。「暗黒シートはもっと黒くなるはずだ」との確信もあり、視覚応用の分野ではさらに黒い素材の需要もあるとわかったので、「至高の暗黒シート」開発を目指しました。


――「至高」の開発で苦労した点は?

理論上は、従来の暗黒シートの光閉じ込め構造でも素材表面の鏡面反射(ぎらつき)はほぼ完ぺきに抑えられているはずでした。どうしても反射が生じてしまう原因が、当時、シリコーン樹脂を黒くするために混ぜていたカーボンブラック顔料(=炭素の粉)であることを突き止めるのに時間を要しました。カーボンブラック顔料によらない黒色素材を求めるにあたり、黒い塗料の歴史にヒントがあるのではと考え、絵具や塗料をひたすら調査しました。その結果、漆に似た成分のカシューオイル樹脂の黒色塗料にたどりつきました。


――2019年の取材では「2~3年で実用化したい」とのことだったが、現状は?

2020~2021年は、新型コロナ対策のための別の研究テーマに従事していたため、暗黒シートの実用化研究に時間が掛かってしまいました。特許の登録なども進みましたので、今後はライセンス契約の元、素材メーカーさんなどに技術移転を行っていければと考えています。


――なぜ「至高の暗黒シート」と名付けた?至高は究極より上?

英語の論文発表をするにあたり、これまでに「Super black」と銘打った、そしてそれほど黒くもない素材の報告が乱立していたので、それらとは一線を画す黒さをどう表現したらよいかを考え、「Supreme black」としました。それを日本語に訳して「至高の~」と名付けました。「究極」は良い方向も悪い方向もありえますが、「至高」は良い方向しかありえないので、究極をも上回り得るのかなと思っています。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

今後は、具体的な用途開発や実用化に向けた検討を進めていくとのことだ。また将来的には、光の乱反射を極力抑えたいプロ用途だけでなく、身近な場面も含め、光制御・利用技術の格段の性能向上に貢献していくとのことで、さらなる研究に注目していきたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。