三菱重工長崎造船所で建造された、海上自衛隊の護衛艦「のしろ」。

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全長133メートル、排水量は3,900トンで、従来の護衛艦よりも1割から2割ほど小さいほか、船体の凹凸を減らしたことでレーダーに探知されにくいことから、ステルス性能が向上した。

初航海に同行取材
初航海に同行取材

最新鋭の護衛艦とも言われる「のしろ」の初航海に、KTNのカメラが同行取材した。艦内の設備はどのようになっているのか。そして、1月14日(日本時間)にアメリカで行われた日米首脳会談でも懸念の声が上がった「東アジア情勢の緊迫化」の中、のしろを佐世保に配備する狙いにも迫った。

“省人化”を徹底 背景には自衛隊の隊員不足

テレビ長崎・平仙浩教アナウンサー:
護衛艦「のしろ」は少ない人員で、さまざまな任務にあたることができる最新鋭の護衛艦です。これから、その秘密を探るべく内部で取材をしてきます

KTNのカメラが同行したのは、引き渡し後、造船所からの初めての航海だ。配備先の佐世保基地へ向かう。

「のしろ」の最大の特徴は、徹底した「省人化」。船体には、船のまわりを360度見渡せるカメラを設置。これによって、見張りの人員を減らすほか、システムの統合や自動化で、通常時はたった3人でオペレーションを行っている。

そもそも「のしろ」の乗員は、従来の半分以下の約90人。省人化の背景には、自衛隊の隊員不足がある。

自衛官候補生(陸・海・空)の応募者推移
自衛官候補生(陸・海・空)の応募者推移

自衛官候補生の応募者推移を表したグラフを見ると、直近の2021年度は、2万8,000人余り。2018年度には募集年齢の上限を26歳から32歳に引き上げたにも関わらず、応募者の数は、過去10年間で2割ほど減少している。少子高齢化が進む中、隊員の確保は今後ますます難しくなる。

「のしろ」初航海に潜入

艦内を歩いてみると、隊員が日常生活を送る場にも効率化の工夫が施されていた。

食堂の様子
食堂の様子

テレビ長崎・平仙浩教アナウンサー:
金曜日の昼はカレーが出るということで、いい香りが漂っています。食堂にも工夫があり、これまでは幹部クラスは別に食事をとっていたそうですが、乗組員と一緒に食事を取ることで食事を準備する手間も省けたということです

「のしろ」の速力は30ノット。時速では約55km/h。西彼杵半島に沿って進み、この日は3時間ほどで佐世保湾の入り口に到達した。

テレビ長崎・平仙浩教アナウンサー:
「のしろ」は、これから佐世保湾の入り口を通過します。佐世保湾は入り口が狭く、奥に広がるような形・ヤツデの葉の形に似ていることから葉港(ようこう)と言われ、古くから軍港として栄えました

佐世保には、1889年に日本海軍の鎮守府が置かれた。戦後は海上自衛隊、アメリカ海軍の基地に姿を変え、東アジアに向けた防衛・軍事の拠点となっている。

護衛艦隊・福田達也司令官:
佐世保の土地柄、東シナ海など、警戒監視あるいは情報収集しなければいけない海域が間近に迫っている。「のしろ」が果たす役割は大きい

「のしろ」は警戒監視をはじめ、海中の機雷除去といった掃海艇としての役割、さらに、陸上自衛隊の水陸機動団との連携など、幅広い任務が想定されている。

海上自衛隊元幹部が注目するポイント

「のしろ」は、海上自衛隊が導入を進める最新鋭の護衛艦で、「もがみ型」というタイプだ。将来的には海上自衛隊の護衛艦54隻のうち、約4割にあたる22隻をこの「もがみ型」に転換する計画だ。のしろと同型の護衛艦はすでに2隻が就役しているが、いずれも配備先は神奈川の横須賀基地で、佐世保への配備はこれが初めてだ。

背景には何があるのか。キーワードは「燃費」だ。

海上自衛隊・呉地方総監などを歴任した金沢工業大学の伊藤俊幸教授は、「のしろ」のエンジンが飛行機などで使われる従来のガスタービンからディーゼルに一部変更されている点に注目している。

金沢工業大学・伊藤俊幸教授:
東シナ海にいる中国艦艇を警戒監視することが主な目的だと、ほとんど動いていない。ずっとにらみ合いをしていて動き出したら動くので、その間ずっとガスタービンエンジンを回すと燃費が悪い。エンジンを変えて(コストを)安価にした。ひと言で言うと中国海軍に対応するため

岸田政権は2022年12月、相手国のミサイル基地を攻撃する「反撃能力」保有の明記や、防衛費の大幅な増額を盛り込んだ安保3文書を閣議決定した。

2023年1月の日米首脳会談では、バイデン大統領にこれを報告し、両首脳は「日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していく」とした。やはりここでも、台湾有事が懸念される中国の動きなどが念頭に置かれている。

金沢工業大学 伊藤俊幸教授:
中台(中国と台湾)が紛争を起こす。この戦争そのものに海上自衛隊や日本の自衛隊が直接関与することは考えにくい。やるとするならば、アメリカ海軍に対するサポートが、海上自衛隊の第一義的な任務になる。それにあたっても、中国の正面ということで、佐世保が一つの拠点になることは間違いない

伊藤教授によると、今回佐世保に配備された「のしろ」に限っては、台湾有事よりも尖閣諸島周辺での機雷除去の任務にあたる可能性があり、その際は水陸機動団との協働が考えられるということだ。最新鋭護衛艦「のしろ」の配備は、今の世界の安全保障情勢を反映しているといえそうだ。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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