タイでは去年11月、ロシアからの観光客の人数が2カ月前の7倍近くに達し、ビーチには多くのロシア人観光客の姿が…。

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この急増を観光が主要産業のタイも歓迎しているが、各国がロシアに制裁を加える中、疑念も出ている。

タイにロシア人が急増した理由について、現地からFNNバンコク支局・池谷庸介記者がお伝えする。

「本当に最高!」ビーチリゾートでバカンスを満喫 

バンコクから車で2時間ほどの場所にあるリゾート地・パタヤに来ています。

ここはウォンアマットビーチと呼ばれる場所で、多くの人たちが日光浴や海水浴を楽しんでいますが、8割以上がロシアからの観光客ということなんです。

最寄りのウタパオ空港では、11月以降ロシアとこの空港を結ぶ直行便が再開し、モスクワなど10以上の都市から1日2便ほどが到着しています。

この日はシベリア地方のケメロボという都市から200人以上が訪れ、空港の外に待機していたバスに次々と乗り込む姿がみられました。

現地メディアによりますと毎週5000人近いロシア人が、この空港を利用して、パタヤでのバカンスを楽しんでいます。

ロシア人観光客:
今、ロシアの気温は-30℃よ。ここは私たちにとって夏だし本当に最高!

ロシア人観光客:
タイが恋しかった。新型コロナの影響で3年間も来られなかったから。

ロシア人の急増はデータにも現れています。

タイを訪れるロシアからの入国者は、ウクライナ侵攻後の4月に5223人に落ち込んだものの、9月は1万5900人、さらに11月は10万8985人と急増しているんです。

ロシア発行のクレジットカードは使えないが…

もともとロシアが冬のこの時期、タイは人気の旅行先ですが、ほかの旅行先、例えばヨーロッパ諸国はロシアへの制裁の1つとしてロシアからの観光客の受け入れを制限していますし、そもそも、日本を含む多くの国でロシアとの直行便は運休したままとなっています。

一方、タイではロシアからの観光客の受け入れ制限はしていません。さらに去年10月以降、運休していたロシアからの直行便が続々と再開していることも大きいとみられています。

私たちはウクライナ侵攻直後の去年3月に、航空便が運休してタイに足止めされたロシア人を取材しました。

ロシアで発行されたクレジットカードが決済停止の措置を受け、カードを使えず困る人が続出していました。

そして、現在もカードの決済は停止しています。

今回、旅行に来ていたロシア人10人以上に聞いてみましたが、全員が旅行資金を現金で持ってきていました。

ロシア国内では、ルーブルからアメリカドルへの両替ができるので、数十万円分をドルで持ち込み、さらに、両替所で多くのロシア人がドルをタイ・バーツに替えていました。

ロシア人観光客:
2000ドルを持ってきました。ドルは便利だし、為替のレートもいいし。

ロシア人観光客:
クレジットカードが使えなくても問題ないよ。ドルとルーブルを持ってきているからね。

ロシア人観光客はタイの救世主?

去年12月、年間のタイ入国者が1000万人を突破した際にセレモニーが行われ、ロシアからの直行便で到着する観光客に記念品を配ったり、伝統舞踊を踊るなどして出迎えました。

国際社会がロシアに厳しい目を向ける中、まさに異例とも言える歓迎ぶりです。

実は、運休していたロシアとの直行便も、タイ側からの働きかけもあって再開したんです。

観光が主要産業のタイは、ロシアからの観光客はコロナ前は150万人訪れていた大切なお客様です。

こうした事情もあるのか、タイ政府は、ウクライナ侵攻についても中立の立場を取っています。

さらに、ロシア人観光客を歓迎するもうひとつの要因が、中国人観光客の激減です。

ゼロコロナでほとんど来なかった中国人ですが、22日から春節が始まる中国からは、多くの人が海外旅行に向かうとみられています。

そして、タイ側も中国の海外旅行解禁を心待ちにしていました。

こちらは、今月9日のバンコク近郊の空港の様子ですが、渡航制限緩和後に中国から最初に到着した便の人たちを横断幕を持って歓迎しています。

というのも、中国人観光客はコロナ前には、タイを訪れる観光客の3割を占める最大のお客様だったんです。

日本と違い、水際対策を特に強化せずに受け入れを行っています。

ただ、中国人観光客の本格的な回復には、まだ半年ほどかかると言われています。

そのためロシアからの観光客に頼る状況が続いているんです。

タイ官観光庁パタヤ事務所 アノマ・ウォンニャイ所長:
ロシアから観光客を受け入れることができるのは、私たちの強みです。モスクワのタイ大使館も、ロシア国内での観光PRを頑張った。

ロシアと関係を保ちながら、現実的に利益を追求するタイのたくましさが感じられますよね。

一方で、こうした姿勢に国際社会からは冷ややかな視線が注がれているのも事実です。

(「イット!」1月18日放送)