愛知県長久手市に2022年11月1日にオープンしたジブリパーク。そのジブリこだわりの世界を手掛けた名古屋の大工と瀬戸市の陶芸家を取材した。
木造建築の料亭をジブリパークに移築…宮崎監督に直談判した大工
この記事の画像(40枚)ジブリの大倉庫からどんどこ森につながる入口に、ある建物の一部が移築された。中村区の遊郭にあった料亭「稲本」だ。
大正から昭和初期の木造建築は、まるで千と千尋の神隠しの世界感だ。
手がけたのは中村武司さん(57)。大工の親方だ。
中村武司さん:
柱とか梁というものは、栗材を使っています。あとは天井のあじろ、ネズコという木なんですけど、薄く割って、かごのように編んでいって大きな面を作る
中村武司さん:
(「稲本」の建物を)なにかしらジブリの中で使っていくことはできると思うし、考えてはいきたいと思うということを(宮崎吾朗監督は)話されていたと思うので、吾朗さん一瞬のひらめきでこれはいいもので残さないといけないなというものを、直感的に感じてくれたんだなと思います
「稲本」の取り壊しを知った中村さんは、貴重な建築物を残すことはできないかと考え、ジブリの宮崎吾朗監督に直談判していた。
中村武司さん:
ここは柱の根元なので、わりと腐っていたんですね。腐っている部分だけ切りとって、古い材と新しい材を接合している。結構、大工の技術が必要なんです
色を塗り替え…。
傷んだ瓦を直し…。
格子を取り付け、耐震性を高めた。
中村武司さん:
千と千尋とかの世界をほうふつとさせるような建物なので、ゲートというか門を設置することで、非常に象徴的に、どんどこ森に、トトロの世界にいざなうようないいアプローチの空間ができたかなと思います
「しっかり木造で」 愛知の森から誕生したジブリパークの建築物
名古屋市で、三代続く大工一家に生まれた中村さん。大学で建築を学ぶと、金物を使わない伝統的な木組みの工法に魅せられ、木造建築の技術を深めていった。
中村さんとジブリのつながりは17年前に遡る。2005年の愛・地球博だ。
中村さんの技術を知る博覧会協会の委員から声がかかり、宮崎吾朗監督とともにサツキとメイの家を手がけた。
中村武司さん:
吾朗さんは見世物ではなく、昭和30年ごろに建てられた普通の家、本物の家を建てたいということを言われたので、「それだったらできるかもしれませんね」っていうような話をしたんですね
サツキとメイの家は、映画のセットではなく実際に住める“本物”の家。
多くの職人を集め、昭和初期の工法と材料に徹底的にこだわった。
万博終了後も多くの人が訪れる人気の場所だ。
17年越しに、再びジブリの仕事に携わることになった中村さん。トトロをイメージした「どんどこ堂」や「耳をすませば」に登場する「地球屋」など、ジブリパークに建つ木造建築の多くをイチから造り上げた。
「どんどこ堂」に続く木製ゲートにも、多くのこだわりが。
中村武司さん:
“どんどこ”の文字看板は私が掘りました
中村武司さん:
ボルトとか使わないで、全部とめてあるっていうような仕事なので、見る人がみればわかるけど、ちょっとこだわっています
中村武司さん:
そこも、大きな節ですけどあえて(残して)生命力を感じられますし、あえてそれも使っている
そして、丘の上の「どんどこ堂」。
中村武司さん:
丸太は周囲6本、真ん中に1本立っていますけど、あれは愛知県の新城の材木屋さんに頼んだ
中村武司さん:
口のところの格子もヒノキの丸棒ですね
中村武司さん:
木の木目がちゃんと感じられて、においも感じられるものですから、単なるキャラクターの作り物っていうよりも、これも建築物かなと私は思っていますね
木の手触りが感じられる本物の建築。
木材の加工も機械任せにはせず、一本一本手作業で行う昔ながらの工法で用意した。
中村武司さん:
日本国中、もしくは世界中から人が来て、愛知の森からできたものを見てもらえるというのはいいプロジェクトというか。ジブリパークという施設というか建築群が、ただのハリボテではなくて、しっかりした木造で、天然素材で自然の素材で造らせてもらえたっていうのは、非常に意味があることだと思います
陶芸作家が作った“意外な部分”…イメージに近づけるための試行錯誤
様々な職人のこだわりが随所に詰まったジブリパークだが、意外な場所で活かされている、この地方ならではの職人技があった。
ジブリパークのある長久手市の隣、日本三大陶磁器の産地・瀬戸市の陶芸家、小野穣さん(54)。
代表作は、「猪目」と呼ばれるハート形の抹茶茶碗。
ピンクやグリーン、紫など華やかな色合いが女性を中心に人気を集めている。
小野さんが手がけたのは、ジブリパークに立つあのオブジェの意外な部分だ。
小野穣さん:
実はこういったものをね…。ジブリパークの、どんどこ堂の目と鼻の型です
小野さんが作ったのは、トトロをイメージした「どんどこ堂」の「目」と「鼻」。
これらは、本物の陶磁器で作られていた。
小野穣さん:
最初引き受けた時は「ちょっと友達に自慢できるかな」ぐらいだったんですけど、やっていくうちにだんだん難しいことがわかっていって。誰が見てもトトロのイメージっていうのを作り上げなければいけなかったので
まず小野さんがこだわったのが、瞳の大きさや位置。
誰もが知っているトトロのイメージに近づけるため映画を見直し、何度も試作品の製作を繰り返した。
小野穣さん:
どうしても焼き物ですからね、(色が)薄かったりとか筆むらがあったりとかして、もう一回上から塗って焼き直してもいいかなとか。一応、目の位置は指定があったんですけど、最初の指定の大きさよりはもうちょっと大きいものじゃないとトトロのイメージに合わないなということで、何回か輪郭を大きくしていきました。白目はきれいに輝いて、黒目とのメリハリをしっかりつけるようにしました
「鼻」にも並々ならぬこだわりがあった。
小野穣さん:
黒い金属が入った土を使いました。表面に模様がでる釉薬を使ってみました。そうすると生き物の鼻みたいで、いとおしく感じます
机の上に無造作に並んだ黒色のものが、「鼻」の試作品。当初は、ツルツルとした光沢のある質感のものを製作していた。
しかし方針を転換し、焼き上げに使う釉薬を工夫して、本物の動物の「鼻」に近いザラザラとした質感に仕上げていった。
小野穣さん:
プラスチックではなく、陶器で作ったことの意味があると思うんです。プラスチックだと経年変化でボロボロになっていくでしょうし。陶器だと触ることができる、五感に訴えることができるので、こうした素材で作らせていただいたことは永遠に残るし、皆さんの心にも残っていただけるといいかなと思います
2022年10月26日放送
(東海テレビ)