夏の絶対王者・内村航平(34)と冬の絶対王者・羽生結弦(28)。スーパーレジェンド二人による国宝級対談。
この記事の画像(27枚)第1弾では「オリンピック」についてフォーカスしたが、第2弾は「ゾーン」をテーマにお届けする。
内村「“ゾーンの向こう側”に」
トップアスリートが競技人生で極まれに入ると言われる極度の集中状態「ゾーン」。究極のアスリート二人が経験した“究極の境地”とは?
羽生:
自分で「ゾーン」を定義するのであれば、何回くらい入れたと思いますか?
内村:
いや、もう数え切れないぐらい。レベルで言うとMAXに近いのが2回ある。
競技しているところ以外でも今日は1日上手くいくって所から始まって、最後まで自分の思い通りにいった。
羽生:
ラッキーパーソンみたいな言い方してますけど、そんなレベルじゃないですよね(笑)
2011年の世界選手権で、内村は心技体全てが揃ったまさに“パーフェクトな体操”を見せた。6種目全ての着地を完璧に決める圧勝で、史上初の個人総合3連覇を達成した。
内村:
寝ているんだけど、「もうすぐ目覚まし鳴るな」と思う時があるでしょう。
その時から「今日は全てがうまくいく」って思えてそこから全部良かった。
羽生:
試合当日ですか?すごいですね。
内村:
それが“過去一のゾーン”。
“ゾーンの向こう側”にいったこともあって、それはリオ(五輪)の個人総合決勝の鉄棒の時で…。
内村は自身3度目の五輪だった2016年リオ五輪で、44年ぶりとなる個人総合2連覇を成し遂げた。0.9点差を大逆転した最終種目・鉄棒の演技中に、内村は「ゾーン」すらも超えた“向こう側”にいきついた。
内村:
「練習は試合のように」「試合は練習のように」と言われる。
でも試合が練習のようにできたことなんてほぼない。
絶対にないと思っていて、「試合は試合」だと思っていたけれど、その時だけ「あ、練習のようにできている!」みたいなことがあって。
“ゾーンの向こう側”にいけたから、1回入りまくったら“無”になったみたいな。
いつも通りできた。
羽生:
ちなみにゾーンの時テンション高くなります?
内村:
なるけど抑えている。
「これはテンション上げると良くない」って。
羽生:
向こう側にいってる時は“無”なんですね。
内村:
“無”だった。
すごく開き直れてるというか、「どうにでもなれ!」みたいな感じの時が“ゾーンの向こう側”なのかなって気がする。
羽生「“奥の方のゾーン”は呼吸すら危うい」
羽生:
(ゾーンが)深いなと思ったのは僕も2回なんですけど、初めてゾーンに入ったなと思ったのは小学校4年生ぐらい。
羽生結弦の小学校4年生(9歳)といえば、2019年のインタビューでこう話していた。
「僕の中で9歳の自分とずっと戦ってるんですよ。
9歳で初めて全日本ノービスを優勝した時の“自信しかない”、“自信の塊”みたいな自分がいて」
2004年の全日本ノービスBで初めて全国優勝。“自信の塊”だった小学4年生の羽生はその時「魔法のような感覚」を手に入れていた。
羽生:
その時は、上からちゃんと全部リアルで見えていて、(ジャンプを)跳んだ瞬間に時間を止めて、「軸ブレてるから直そう!」って思って、上からつまむような感じでギュッと直したら全部跳べるみたいな時期もありました。
内村:
“ゾーンの感覚”が似てるかもしれないです。
羽生くんの場合はおそらく“操り人形系”なんですけど、僕の場合は“ロボット司令塔系”なんですよ。
“操縦室”みたいなところに“ちっちゃい自分”がいて、(演技を)やってるんだけど感覚は自分ではない。頭の中にいる“ちっこい自分”が操ってるみたいな感覚。
羽生:
面白いですね。僕は上からですね、完全に。
内村:
一時停止できるのいいね。俺はできなかった。
羽生:
たまにあるじゃないですか。カメラとかで跳んでる瞬間に後ろにいくみたいなやつ。
回ってて途中の段階で一時停止して、カメラアングルが変わって降りてくるみたいな。
アレができます。
でもそれは“ゾーンの手前”です。“奥の方のゾーン”は、呼吸すら危うい感じ。
してるかしてないか分かんないみたいな。あくびしかでない。
2020年の全日本選手権がゾーンが一番深かったと思います。
2020年の全日本選手権・フリー。羽生は4回転4本を含む高難度構成を完璧に決め、5年ぶりの全日本王者に輝いた。
そんな神演技の直前に入った“最も深いゾーン”。
通常ならアップから演技に向けテンションを最高潮に持って行く羽生だが、この時は違っていた。
羽生:
ただ疲れてる人みたいな感じ。でも、なにもミスする気がしない。
6分間の本番直前練習が終わって、自分の本番に入るまで10分ぐらい寝ました。
だから、寝ながらイメトレとかしていたと思うんですけど、しっかり熟睡してるんです。それで、ちゃんと10分と決めて自分でストップウォッチ押して、目をつぶってからパッて目開けてパッとやるまで、完璧な“10分00秒”に行くんです。深い時はそういうことがあります。
羽生:
でも、やっぱり4回転半入れるようになってから、そんな簡単にゾーンに入れなくなりました。やっぱり意識しすぎちゃう。いろいろ計算するじゃないですか、難しいジャンプや技をやる時は、「ここ、こうして、こうやって、こうなって、こういくからこういって、ここで行ける」みたいなことをずっとイメージして、何回も何回も反復でやる。
固まるんです。思考使いすぎると酸素も奪われるし、その感覚は4回転半には、すごくあります。
内村:
確かにめちゃくちゃ分かる。
羽生:
ブレットシュナイダー(空中で体を2回宙返りしながら2回ひねって鉄棒をつかむというH難度の大技)やる前とかめっちゃくちゃ考えてますもんね。
なんか分かります、見ていて。
内村:
考えて考えて考え抜いて、“その先に考えない”みたいなところに…。
羽生:
そこにいけると楽なんですよね。いけないんですよね。
内村:
いけないんですよ。本当考えちゃうんだよね、やっぱわかってるんだけど、考えちゃうみたいなとこは、確かにある。
羽生:
それも練習なんですね。
どれだけ質のいい練習ができるか、っていうと、そこまでたどり着けなかったらやっぱりたぶん本来は使うべきじゃないんだと思う。
でも、使わないと勝てない場所もやっぱりあるので、その使わないで勝てない確率が低いものでも、その後“そこにいき着くまでのゾーン”と“そこをやり終えた後のゾーン”に入るスイッチが、どれだけ早くはまるかっていうのはなんか、ちょっと気にします。
レジェンドたちも戦った固定観念“年齢”
人知を超えた超人たちにも、人知れず存在していたのが“葛藤”。
王者が王者であり続ける為に、肉体と精神との究極の向き合い方が存在する。
羽生:
24歳になってその4回転半を目指しながら練習している時に、「なんでこんなに他のジャンプ跳べなくなったんだろう」と思うことがあって、フィギュアスケートの中の“年齢”という固定観念が強かった。
フィギュアスケートで言うところのその24、25歳ってもう落ちてきている年齢なので、「あ、跳べなくなって当然か」みたいな。でも抗おうとしている時点で、その固定観念がとれていない。
それがちゃんと取れたのは、日本に帰ってきて、練習環境が変わって、その効率のいい練習の仕方が見つかってきて…というところでした。
内村:
確かに固定観念が邪魔することはある。
「人間だから」と思う時もあるけど、「人間に不可能はない」と思うこともない?羽生:
あります。
「なんで俺が4回転半跳べないんだろう?」って思うことよくあります(笑)
内村:
そういう感じがある。
「でも人間なんだよな」って思うこともある。
「肉体と精神のバランスが良くなった」
羽生:
精神を摩耗することが少なくなったかもしれない。
無駄に摩耗して行く時って絶対あるじゃないですか。
確かにがむしゃらさは必要かもしれないけど、試合にがむしゃらさは必要ない、最終的には。
例えば、6種目総合やってる時に最後の鉄棒では、がむしゃらさというよりも、いわゆる気持ちが凌駕していて、“肉体勝手に動いてくれている”みたいな。
でも、その“肉体勝手に動いてくれる”までの練習を積んでいないとできない。
例えば、4分半、4分のフリーがある時に最後の3本のジャンプが何も考えなくても跳べる。
その何も考えなくても跳べるまでに至る時に、がむしゃらにやっていたら簡単なジャンプではないので、いつか捻挫するだけだし、そんな回数、例えば、100本跳んだら100本分上手くなるかって言われたらそんなことなくて。
10本ずつを10日間ですごく集中してやった方が学べることは多いかもしれない。
ということを考えると「もっとこういう練習あるじゃん」と思ってやってこられました。
それがある意味では(精神を)摩耗しなくなったという感じです。
体力と精神のバランスが良くなったかなと。
内村:
すごいです!
体操をやっていなくて、ここまでその体操のこと、僕が思ってること、やっていることを分かってる人がこの世にいるんだ!って、今シンプルに思いました。
「考えなくてもできる領域までいかなきゃいけない」と、僕、結構言っていたと思うんですけど、それを本当に分かっていらっしゃるって。
本当に同じ領域までいった人なんだなって思いました。
「羽生×内村」夢の共演が3月に実現
極限で呼応しあうレジェンドが、これから描くのはどんな未来なのか?
3月に内村航平が「現役引退」、7月に羽生結弦が「プロ転向」と、ともに2022年に“競技生活”に終止符を打った。
内村は2022年12月に新たな形の体操イベント、“体操を絵画のように”「体操展」をプロデュースするなど普及活動に力を入れ、羽生は2022年11-12月にプロとして初のソロアイスショー「プロローグ」、2023年には2月に東京ドームで史上初のソロアイスショー「GIFT」、3月に宮城県でアイスショー「羽生結弦notte stellata」をプロデュースするなどプロスケーターとして前代未聞のアイスショーを次々に生み出している。
羽生:
体操を広めていらっしゃるじゃないですか。色々な活動をされて。
内村:
好きでやってきたことで結果も残してきたし、「自分の好きなことをみんな知ってよ」ぐらいな感じでやっているだけ。
はたから見ると、羽生くんのやっていることは次元が違う。
羽生:
自分のスケートを完結させたい。ちゃんと自分のスケートが見たいと思ってくれている人に対して、自分のスケートだけで全部勝負するみたいな感じはちょっとありました。
内村:
ちょっと考えられない(笑)。一人でやることもそうなんだけど、競技レベルでやれるところ。やっぱ年齢的なものなんですかね?僕のは(笑)
羽生:
そこも多分、固定観念だと思いますけど(笑)
内村:
ヤバいな、全部覆される…。
羽生:
若い選手たちのほうが間違いなく勢いがあるし、ジャンプもキレが違うし、高さも出るし、瞬発力とかも。
だんだん変わっていったりとか、それこそ「がむしゃらにやっておけば跳べる」という時期がある。
それで年齢を重ねて、だんだんその「がむしゃら」や、「おもいっきり」がなくなってきますけど、その人たちより経験してるいるし、その経験を使えるのは僕しかいないなと思う。
そう考えるとちょっと楽だなと。
別に瞬発力使えないんだったら違うところで見せられればいいし、それが自分のプライドを傷つけるようなものだったらやる必要はないと思います。
羽生:
だから、僕は4回転半やるのをやめないですし、でも、それプラスアルファで自分がプライドとして持っている“自分のスケートの綺麗さ”は続けていきたいと思いますし、絶対それは譲らないって思っています。
内村:
僕も明日からブレットシュナイダーまたやります!
羽生:
意外とできると思いますよ(笑)
内村:
やれるところまでは戻って来ていて…。
もうあと“ほんのちょっと”だなと思って。
“ほんのちょっと”がまさか羽生結弦さんだったとは思いませんでした(笑)
1月13日に発表された、アイスショー「羽生結弦 note stellata」(3月開催)での二人の共演。内村航平がスペシャルゲストとして出演することが決定した。
内村航平と羽生結弦。
二人のトップランナーはこれからも、自らの信じる未来を突き進む。
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