携帯電話で菓子職人の手元やできあがった作品を撮影する大勢の人たち。タイの和菓子PRイベントでの光景だ。その奥深い味わいと繊細な細工を施した華やかな見た目で、タイの人たちを魅了した。和菓子を世界に広げたいと活動する、老舗の5代目を取材した。
タイで和菓子PRイベント リーダー格は老舗の5代目
大勢のタイの人で混み合う商業施設。訪れた人たちのお目当ては、日本の「和菓子」だ。

2022年11月にタイの首都バンコクで行われたこのイベントで、客の視線の先にいたのは浜松市の和菓子店「厳邑堂(がんゆうどう)」の内田弘守さんだ。
厳邑堂・内田 弘守さん:
(お客さんが)みんな明るいので、やりやすいですね

内田さんは、明治4年創業の厳邑堂の5代目だ。この日、日本の百貨店・サイアム高島屋で行われた和菓子のイベントに参加した。
東京や滋賀など全国各地から選ばれた5店舗が参加するイベントで、なかでも厳邑堂の内田さんは「特別な存在」と、高島屋のバイヤーも信頼を寄せている。

高島屋 和菓子バイヤー・畑 主税さん:
厳邑堂の内田さんに頼り切りというところがありますし、皆さんの中でも最年長ということもありますし、海外経験が多いのでリーダー格として今回は頑張っていただいています
2018年にタイ進出 店頭での製造販売が人気
関係者が内田さんに信頼を置くのには理由がある。

イベント会場となった高島屋の1つ上のフロアに行くと、鉄板でどら焼きが焼かれ、たくさんのみたらし団子などが販売されていた。厳邑堂が2018年にオープンした店舗だ。日本人の支店長とタイ人スタッフが切り盛りをしている。

コロナ禍で売上がゼロになるなど厳しい状況に陥ったものの、飲食店やホテルなどの顧客を獲得して売上を回復させているという。
厳邑堂・内田 弘守さん:
(Q.店内で和菓子を作っている店は、タイでは珍しい?)和菓子に関しては、うちが唯一だと思いますね
「和菓子の味や芸術性を海外で広めたい」
「和菓子の味や芸術性を、昔から海外で広めたかった」と話す内田さん。これまでもニューヨークやパリ、シンガポールなどでPRを行ってきた。

コロナ禍によって海外への渡航は一時なくなったが、3年ぶりとなった海外でのイベントで和菓子の魅力をアピールする。

厳邑堂・内田 弘守さん:
この白いものが「練り切り」という材料です
イベントで内田さんが特にアピールに力を入れたのが、あんこやもち米につなぎを加え練り上げた「練り切り」だ。

練り切りは四季折々を表現した繊細な細工を施す、日本らしい奥深さの詰まった生菓子で、内田さんは慣れた手つきで「菊」をモチーフにした練り切りを作り始めた。

イベントの出店ブースは次々に人が集まってくる。
携帯の動画で、内田さんの作業を撮影する人たちが並ぶ。初めて見る和菓子に興味津々の様だ。

来店客:
ワ~オ!スゴイデス
次から次へと注文が入り休む暇がない盛り上がりぶりで、お客さんたちも満足そうな様子だ。
来店客:
とてもおいしい。甘さのバランスが絶妙で完璧ね

来店客:
時間と手間をかけた芸術ね。 値段は高く感じるけど、買う価値があるわ
健康志向に乗って世界に広がれ
厳邑堂・内田 弘守さん:
こんなに盛り上がると思っていなかったので、とてもいい経験にもなりますし、いい状況が作れたかなと思います。日本のお菓子も発展させて、同時に発展の延長線上に海外で受け入れられるものを作っていきたいなと思います

和菓子は洋菓子に比べ砂糖の量が少なくバターやクリームも使わないため、“健康的なスイーツ”として海外でも健康志向の高まりにつれ人気が出つつあるそうだ。内田さんにとっても追い風だ。

浜松から世界へ、和菓子の魅力を伝えたい。
奥深い味わいとカロリーでの優位性、それに見た目の華やかさで、内田さんの夢が現実になる日もそう遠くないかもしれない。
(テレビ静岡)