中国の習近平国家主席が12月7日から3日間にわたってサウジアラビアを訪問、サウジは国をあげてこれを大歓迎した。

サウジ軍用機が「中国国旗」をイメージしたカラースモークで習氏を歓迎(2022年12月)
サウジ軍用機が「中国国旗」をイメージしたカラースモークで習氏を歓迎(2022年12月)
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習氏はサウジのサルマン国王と会談し、両国は包括的戦略パートナーシップ協定に署名した。包括的戦略パートナーシップ協定は中国の外交における最高レベルの関係である。

サルマン国王との会談(2022年12月)
サルマン国王との会談(2022年12月)

“親米国”サウジの戦略

中国とサウジは近年急速に接近、関係を強化してきた。サウジにとって中国はすでに最大の貿易相手国であり、最大の石油の買い手でもある。中国にとってもサウジは主要な原油供給先のひとつだ。

今回、両国間で交わされた合意には、石油の貿易規模の拡大や石油や天然ガスなどの探査・開発における協力拡大、中国の経済圏構想「一帯一路」とサウジの経済改革構想「ビジョン2030」の連携などに加え、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)のクラウドコンピューティング地域の設立、サウジでの電気自動車製造工場の建設、サウジが建設中の未来型スマートシティへのグリーン水素電池の供給なども含まれている。エネルギー供給という枠組みを超え、両国関係が拡大、深化しているのは明らかだ。

伝統的な親米国であるサウジが、米国と対立する中国の元首をあからさまに大歓迎し、関係強化を憚らない背景にはサウジの戦略がある。

サウジ国営通信は習氏訪問に先立ち、「サウジアラビア王国が中国側との二国間関係を発展させることに熱心なのは、すべての影響力のある国や国際勢力との二国間関係やパートナーシップを強化し、それらとバランスのとれた関係を確立するという戦略計画の一部である」と説明した。世界の大国間同士の対立においてどちらかの側につくことはせず、自国の経済的利益、安全保障上の利益を最大化させるためにパートナーを多様化するというのがサウジの基本方針だ。 

米中対立に関しては、経済的には中国と、安全保障的には米国との関係を維持、強化したいというのが本音だ。加えて、価値観という点においても、湾岸諸国は「内政不干渉」原則を掲げる点において中国と足並みを揃えている。

サウジ紙に掲載された論説で、習氏は今回の訪問について「アラブ世界、湾岸アラブ諸国、サウジアラビアと中国の関係の新時代を開く」ための「先駆的な旅」であると述べ、中国とアラブ諸国は「内政不干渉の旗印を高く掲げ続けるだろう」と加えた。

ムハンマド皇太子との会談(2022年12月)
ムハンマド皇太子との会談(2022年12月)

中国国営放送CCTVによると、ムハンマド皇太子もこの考えに同調し、「人権の名の下に中国の内政に干渉する」ことには反対だと述べたという。ムハンマド皇太子は「中国が過激化を取り除くための措置や努力を断固支持し、あらゆる勢力が人権を名目に中国の内政に干渉することに断固反対する」とも述べ、「一つの中国原則」への支持も表明したとされる。これらの発言は、サウジが中国のウイグル人弾圧や香港の民主化デモ弾圧だけでなく、中国の今後の台湾政策も支持するであろうことを示唆している。

安全保障には米国の協力・支援が不可欠

しかし中国はサウジにとって、米国に代わり安全保障を担ってくれる存在ではない。

2022年7月にサウジを訪問したバイデン大統領
2022年7月にサウジを訪問したバイデン大統領

米国務省が公開している米国とサウジ間の安全保障協定についてのファクトシートでは、米国がサウジを、「安定し、安全で、繁栄する中東」という共通の目標に向かって共に取り組む重要なパートナーとみなしており、それゆえ米国がサウジをテロや、イランの影響、その他の脅威から守るために必要な装備、訓練、フォローアップ支援を提供している旨が記されている。米国の安全保障協力・軍事支援なしには、サウジは国家の安全保障を維持することができないのが実情だ。

米国はサウジの中国接近を無制限に許容することはないと既に牽制している。ブレット・マクガーク米国家安全保障会議(NSC)中東・北アフリカ調整官は11月、中東地域について「軍事・情報システムが中国とつながればつながるほど、この地域のわが軍にとって直接的な脅威となる」と述べ、それがある一定程度を超えれば「(中東諸国が)我々と協力することは難しくなる」と述べた。

上海協力機構(SCO)首脳会議(2022年9月)
上海協力機構(SCO)首脳会議(2022年9月)

今回のサウジと中国の合意には、明らかな軍事協力は含まれていない。しかしサウジは9月、中ロが主導する安全保障機構である「上海協力機構(SCO)」の「対話パートナー国」となった。中国のドローンをサウジで製造することや、中国の人工知能企業と合弁事業でサウジ国内にAIラボを建設することなども既に合意されている。

このサウジが、日本にとって最大の石油供給国であることを、我々は忘れてはならない。

【執筆:麗澤大学客員教授 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。