2023年春に計画されている東京電力・福島第一原発の処理水海洋放出。二言は許されない「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」という国・東京電力との約束はどうなるのか。海洋放出への理解を深めるための、東京電力の取り組みを取材した。
海洋放出への懸念
2022年8月、福島県などが事前了解した処理水の海洋放出に関する設備工事。海底にトンネルを掘り、沖合1キロから処理水を放出する計画で工事は着々と進んでいる。
この記事の画像(20枚)福島第一廃炉推進カンパニー・小野明プレジデント:ALPS処理水の取り扱いについて、ご理解を深めていただけるよう引き続き全力で取り組んでまいります
安全な廃炉に向けて各市町村の代表などが参加する会議で聞かれたのは、海洋放出への懸念、そして十分な情報発信だった。
双葉町の代表者:安心と安全ということの”見える化”を、ぜひ心掛けていただければと思います
南相馬市の代表者:正直言って分からないから、危ないから反対だっていう格好になってくると、なかなかこれの処理っていうのは進まないんじゃないかと
目に見える形で情報公開
東京電力はどのように理解を深めていくのか?
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション推進グループ・小島綾華さん:
ALPS処理水に関するデータですとか対応状況などを、こちらのポータルサイトにまとめておりまして
東京電力が”重要なコンテンツ”と位置付けるウェブサイト。処理水に含まれるトリチウムの性質、海洋放出の仕組みなどを紹介している。
福島第一原発周辺とその他の海で測定した放射性物質の濃度を、比較できるようにするなど日々改良を続けている。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション推進グループ・小島綾華さん:
いままで数値のみの公開をしていたんですけれども、実際にこういうグラフ化をすることによって、目に見える形で公開している
情報発信の仕方に課題
現在、公開に向けて準備を進めているのが「海洋生物の飼育試験」について。
処理水を放出した場合に水産物への影響がないことを証明するため、東京電力が2022年9月から取り組んでいる。
英語版の作成も進め国外への情報発信も強化。「分かりやすい」コンテンツを作り不安や疑問に応えようとする一方で、課題も見えている。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション推進グループ・小島綾華さん:
まだ理解が進んでいないという所は各方面からお声をいただいておりますので、「作ったそのコンテンツをどう発信していくか」っていうのがやはり課題かなと思います。「作るだけではなくて発信の仕方」に関しても今後検討していかなければいけないのかなと感じております
地元の理解を得るために
廃炉の実現に向けて、避けては通れない処理水の問題。地元の理解を得るための取り組みも進められている。福島県大熊町出身の吉崎沙紀さんは、事故前から福島第一原発で働いてきた。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション企画グループ・吉崎沙紀さん:
毎日点検していた設備とかがガレキの中に埋まっていたり、変形しちゃってたりして、全面マスクの中ですごく泣いたのを覚えてますね。泣いてもマスク取れないので、一番悔しかったかもしれないですね
吉崎さんが制作する廃炉情報誌「はいろみち」は、大熊町や双葉町などの住民や企業に2カ月に一度配布していて、発行部数は約6万部に上る。
専門用語が飛び交う廃炉作業も分かりやすく伝えようと、試行錯誤を繰り返してきた。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション企画グループ・吉崎沙紀さん:
何のためにとか目的を明確に入れるようにしたり、写真とか断面図を少し大きくして文字もできる限り大きくして、何のことを指してるかっていうのがすぐわかるように
2022年からは「はいろみち」を使った住民との対話も開始。科学的な安全性を伝えながら、安心につなげたいと考えている。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション企画グループ・吉崎沙紀さん:
出てきた疑問というところにも、その場でお答えするようにして、少しでも安心感と一緒にお伝えできればなと
30年から40年続くとされる廃炉作業。処理水の海洋放出に限らず、地元や関係者の理解は必要不可欠だ。
福島第一廃炉推進カンパニーコミュニケーション企画グループ・吉崎沙紀さん:
これまで何十年も発電してきた発電所は、これから何十年もかけて廃炉を続けていくことになりますので、それも弊社の使命でもありながら、一町民としてもそこに携わっていくことで、復興の一助になればいいなと個人的には思っています
理解なしには行わない
処理水の海洋放出について「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と約束した国と東京電力。放出開始の目標とする2023年春頃が近づく一方、理解は広がっていないのが現状だ。
福島テレビと福島民報社が実施した最新の県民世論調査では「処理水を海洋放出する」方針について理解が広がっていないと回答した人は、全体の約半数を占めた。
廃炉と福島の復興をどう進めていくのか。解決しなければいけない課題は山積みだ。
(福島テレビ)