12月22日に最終話を迎えたドラマ『silent』。
主人公の青羽紬(あおば・つむぎ/川口春奈)が、本気で愛しながらも、突然別れを告げられてしまった恋人・佐倉想(さくら・そう/目黒蓮)に、再会したことから動き出すラブストーリーは、ハッピーエンドで終わった。

このドラマのプロデューサー・村瀬健が、自身が考えるsilentの象徴となったシーンや、音楽・言葉の使い方、出演者の演技の力などについて明かした。
第1話のラストシーンがsilentの“象徴”
これまで、ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年/フジテレビ)、映画『信長協奏曲』(2016年)、『約束のネバーランド』(2020年)などを手掛けてきた村瀬健プロデューサー。
ドラマ「silent」で視聴者から特に反響が大きかった、第1話の最後で紬が想の耳が聞こえないと分かるシーンの誕生秘話について明かした。
紬 「…ねぇ、佐倉くんだよね?」
想 「…」
紬 「ねぇ!」
紬 「え、無視することないじゃん…」
想 「(紬から目をそらす)…」
紬 「あの後、卒業した後、すごい心配したんだよ!何かあったのかと思って…あ、別にもう怒ってるとかじゃないんだけど…ねぇ、ちょっと話そうよ!今から…は、私用事あるから、また今度。あ、そうだ、連絡先教えて。佐倉くん全部変えちゃったでしょ?」
紬 「…そんなに私と話したくない?」
想 「(手話で)声で話しかけないで」
紬 「…え?」
想「(手話で)そんなに一生懸命話されても、何言ってるかわかんないから。聞こえないから。楽しそうに話さないで。嬉しそうに笑わないで」
紬 「…え…」
想 「(手話で)高校卒業してすぐ、病気がわかった。それから少しずつ聞こえにくくなって、 年前、ほとんど聞こえなくなった」
紬 「ちょっと待って…」
「脚本家の生方さんと私とで、オリジナル企画でゼロから『silent』を作ってきたんですが、一番最初にこの企画を考えて『こういうキャラクターで、こういう物語をやろう』と話したあと、生方さんから上がってきた最初の1〜2枚のメモ書きに、第1話のラストシーンがすでに書いてありました。
それを見たときに、私は『silent』というドラマはいいものになると思っていました。実はこのドラマはそこから始まりました」

silentの脚本家・生方美久(うぶかたみく)さんは、2021年の『フジテレビヤングシナリオ大賞』で大賞を受賞。コンクール出品作以外の脚本を一度も書いたことのない新人ながら、完全オリジナル作品での脚本家デビューという、異例の抜擢となった。
その脚本家が描いたシーンに、村瀬プロデューサーは何度も涙したという。
「物語を2人で作っていって、私はプロデューサーなので第1話目の台本を一番早く読むんですよね。
生方さんと私の2人しかおらず、監督も誰も決まっていないときにもらった初稿のラストにあのシーンがあって、1人で脱衣所で読んで号泣、目黒蓮さんがキャスティング決定して、目黒さんが手話指導を受けながらあのシーンを練習している姿を見てまた号泣。これは良いシーンになるなと。
そして、実際に芝居を見て号泣、実際にカメラがまわって撮影しているのを見て号泣。
作り手の私自身が本当にぐっとくるシーンになりました。silentというドラマの誕生と共にあのシーンがあったので、ある種、あのシーンがこのドラマの象徴みたいな存在だと思っていました」
そしてそのシーンには目黒さんの演技にかける想いの強さが、大きく影響していたという。

「目黒さんが最初に『手話練習をとにかくしっかりやりたい』と言ってくれて。ご覧いただいた方はわかると思いますが、目黒さんって第1話にはあまり出てないんですよね。手話をやるシーンはほとんどあのラストシーンだけだったんです。
しかもあのシーンはドラマで言う長台詞の手話版ということで、目黒さんは早くから練習してくれて、物凄く真剣にやってくださった。
今でも覚えていますが、目黒さんと初めてお会いしたのが手話練習の1回目だったんです。そこで手話指導の先生とお会いした瞬間に、彼はもう『始めまして、私の名前は目黒蓮です』という自己紹介を手話でやりました。初めて練習に来るときに、もう独学で自己紹介までできるようになっていたんですよね。
その姿勢に感動して、目黒さんよく色々なところでいうんですけど、『プロデューサーの村瀬さんが最初の挨拶でもう泣いてた』って(笑)。
彼が手話を自分のものとして、与えられた手話をやっているのではなくて、想というキャラクターの手話になっていたから、多くの方の心に刺さる演技になったんじゃないかなと思います」
silentを彩った“音”の演出
恋愛だけではなく、想と戸川湊斗(とがわ・みなと/鈴鹿央士)の友情も描かれていたsilent。
第4話で2人が再会したシーンには、ある音の演出を仕掛けたという。
湊斗「なんか違うの飲む?さすがにこれ以上怒られるかな。紬以外と主婦っぽいっていうか1円単位で家計簿つけたりしててさ、どうしよう…なんか買い足していたほうがいいかな」
(33秒経って…)
想「湊斗」
33秒間の無音の後に、想が「湊斗」と声をかけた。
「想の世界では“音が聞こえていない”ということを、しっかりと伝える初めてのシーンだったと思います。それで会話の最中に音を消すという演出をして。
最初に仮繋ぎしたものを見た時に私は『凄い!』と思って、確かにこれは想の気持ちに入れると。湊斗の後ろ姿が見えていて、『湊斗』と呼ぶまでの時間を無音にするというアイディアを聞いた時に、『来た!』と。勇気が必要でしたが、これが絶対に正解だなと思ったので、そのままやりました」

このドラマで音楽プロデューサーを担当している谷口広紀さんは、過去に村瀬プロデューサーと『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』や『約束のネバーランド』でもタッグを組んできた。
「今回のドラマの一つのポイントは、音楽プロデューサーの谷口さんです。
この方がサウンドトラックの音楽を、風間太樹監督と私と一緒に作って、かつ、どの音楽をどういう風に表現していくかという“音のプロデュース”をしてくれる方です。
とにかく音の演出が上手なんですよ。この方は今回silentというドラマをやるにあたって、音楽と音が大事。特に想という人にとっては世界は音のない世界ですし、桃野奈々(ももの・なな/夏帆)にとってもそう。
手話のシーンがたくさん出てくるので、今回音楽と音というのは凄く重要になると谷口さんと話していて、それで彼から出てきたアイディアに視聴者の方が注目してくれました」
音の演出に関するこだわりは、第1話の冒頭シーンから始まっていた。キラキラした青春時代から8年後の現在に移り変わるシーンでは、音が一気に無くなる。
これも谷口さんがアイディアとして持ってきたもので、谷口さんと監督と村瀬プロデューサーの3人で細かな打ち合わせをしながら作ってきたという。
「このドラマでは結構挑戦的なことをやっていて、例えば第6話のタイトル明けから7分49秒に渡ってずっと音楽がありません。
普通ドラマってオープニングが始まると派手な音楽がかかるなど、“つかみ”といって割と視聴者の気持ちをしっかりつかみたいということがあります。テレビってどうしてもザワザワした場所で見ていることが多いじゃないですか。僕らは割と音楽をかけたいんです。
だけどsilentに限っては音楽無しで、ただ芝居を見せるだけのシーンが6分くらい続くようなことを結構やっていて、これは今までのドラマではあまり無いです。
チャレンジなんですけど、それがsilentという世界感をうまく作れているのかなと思っています」
共感できる等身大の台詞

想「青羽」
紬「はい」
想「いい返事」
想「とって」
紬「とった!」
想「新譜入っている貸す」
紬「借りる!」
第1話で高校生らしい会話の中で音楽プレイヤーを受け渡す、紬と想。この2人が使う言葉選びにもこだわりがあった。
「私は“生方節”と言っているんですけれど、生方さんの言葉選びの才能とセンスです。彼女は今29歳なんですけれども、やはり今回がデビュー作ということもあって、いわゆる職業作家的に脚本をまだたくさん書いていません。
そのビビットな感性、一番良い意味でただの高校生に近い感覚というので、彼女から出てくる言葉がリアルになるんだと思います。多分そこに皆さんが共感していただいていると思っていて」
他にも第1話の高校時代では、次のようなシーンも。

想「すき 付き合って」
紬「え?」
想「もう一回言う?」
紬「ううん、大丈夫」
「よくインターネット上でも書かれていたんですが、『まるで自分も目黒君演じる想のことを好きだった気がする』という言葉。
やはり生方さんが書く台詞のリアルさに親近感が沸く。しかもそれを風間監督がことさら演出せず、強調せず、本当にありのままを描くという演出が、輪をかけてリアルにさせていると思います。
群馬県の高崎南高校という設定になっていますが、そんな高校は実在せず、実際撮影は足利でやっているんですが、その“高崎にあるあの高校で本当に起こっている”ようなリアルさがあるのは、生方さんの台詞と風間監督の演出が地に足がついているのにキラっとした何かがある、そこのバランスがとても良くて。
ここに関しては私はおじさんなので、自分の恋愛感を押しつけたらアウトだと思っているので、恋愛の言葉に関しては生方さんと風間監督に任せています」
予想を遥かに超えた演技力
「このドラマは色々な意味でシンプルに『ラブストーリーで人の心を丁寧に描く』ということをテーマにしている分、いろんなチャレンジができると思いました」
そう話す村瀬プロデューサー。

第5話で描かれた紬と湊斗の別れで、2人が電話越しに涙で話すシーンでもそのチャレンジが話題を呼んだ。
通常の撮影では別々に撮影する電話のシーンは、実際に電話をしながら同時に撮影をしたことで「同時にやらないとできない芝居」になったという。
さらには予告でもチャレンジは行われていた。
「予告編が全部手話ってこれまでに無かったと思います。
第6話と第7話は奈々の物語。当然彼女は手話をしているので、手話で予告編をつくることも別に奇をてらってやっているわけではなく、紬と想と奈々の物語を描くのであれば手話が中心となるから予告が全部手話でもおかしくないよね、という気持ちでやっている。
チャレンジをしたくてやっているんじゃなくて、この物語をちゃんと描こうとしたら、結果何かしらにチャレンジしていくことになりました」
そしてその“チャレンジ”を支えるのは、村瀬プロデューサーの期待を遥かに超える出演者たちの演技力だった。

「silentというドラマがどういうドラマかと聞かれたときに、音のない世界にいる彼と再会して、出会い直す物語とよく言ってるんですが、8年経ったときに大好きな人が音のない世界に生きていた。私もその間8年、特に最近の3年は湊斗という今の彼氏、支えてくれた人と過ごしてきた。
2人が再会したときに、“変わってしまったもの”と“変わっていないもの”、それを今回テーマとして描きたいねと、生方さんと話していて」

変わったもの、そして変わらないものというテーマの中で、silentの回想と現在を行き来する特徴がうまれていったという。
「その最たるものが、高校時代にこうだった、そして今はこうであるという、このドラマの特徴である、回想と現在を行き来するあの造りなんですね。
だから制服や、高校の舞台になる場所は凄く大事でしたし、これは半分後付けですが、川口春奈さんと目黒くんだったら『高校時代いけるな』と思ったんですよ。2人とも『無理ですよ高校時代!』って言ったけど、『大丈夫!絶対いける!』って。
川口さんは目線とかキラキラ感が、現代を演じるときと全然違うんですよ。表情から仕草、歩き方、動き、そういうものでちゃんと高校生を演じてるんですよね。
目黒君にしてもそうで。あの頃の想と、耳が聞こえなくなってしまった今とは。2人は年齢を演じわけている。
キラキラのあの時代を演じてくれているから、変わってしまった今というのが如実に表せていて、もともと狙いでやったことなんですが、私の期待を遙かに超える演技力を川口さんと目黒君、もちろん鈴鹿央士君も見せてくれました」

「川口さんが特にそうなんですけど、見ててはっきりわかるのは、目の大きさがもう違うんですよ。やっぱり目を大きく開けて、表情が豊か。
高校時代の紬の笑い方が100だとしらた、今の26歳の紬の笑いは、多分75から80ぐらいだと思うんです」
村瀬プロデューサーは演じる役柄の年齢をしっかり捉えて演技する川口さんを絶賛。そして、さらに高校時代でもなく、26歳の紬とも違う川口さん演じる紬のあるシーンを、改めて見てほしいと語る。
「人間って、若い頃はもっと感情が豊かだったり、色々経験してきて本当に笑えなくなったりもするじゃないですか。
紬の歩き方一個とっても今とは違っていて、髪がゆらゆら揺れていたり、目がパチパチしてたり、本当に違っている。是非1話とか2話とかの回想の時の紬をもう1回見てほしいんですが、高校生ならではの動きを演技でやってます。メイクが違うとか制服を着るとかではなくて、川口さんは演技力でその年齢を超えている。
もう一個声を大にして言いたいのは、ファミレスで湊斗と会ったときの3年前の紬についてです。セクハラを受けたりいじめを受けていると話をしたときの紬は、高校時代のキラキラとも、26歳の今の紬とも違っています。
この落ち込んでいて、決して人生がうまくいっていない、想とも離れて何年か経ち、まだ湊斗に支えてもらう前。川口さんがちゃんと計算して演技プランで、3年前の紬、そして人生でどん底である紬を演技でやっている。物凄いお芝居の力だと思います」