赤ちゃんも安心して食べられるケーキ。アトピー性皮膚炎に悩まされてきた長野市の母と娘が、震災のボランティア活動を機にケーキ店を開業。二人三脚でアレルギーに配慮したケーキを作り家庭に笑顔を届けている。

てんさい糖使用 添加物や保存料 不使用

♪「ハッピーバースデートゥーユー」

1歳の誕生日を迎えた女の子。早速、お祝いのケーキを食べた。

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実はこのケーキ、砂糖の代わりにてんさい糖を使用し、消化器官が発達していない赤ちゃんのことを考え乳製品を一切、使っていない。作っているのは長野市上松の「てんしのけーき」だ。

「てんしのけーき」(長野市上松)
「てんしのけーき」(長野市上松)

ふわふわに焼きあがったシフォンケーキ。

果物とクリームでデコレーションすれば、赤ちゃんも安心して食べられる誕生日ケーキの完成だ。

シフォンケーキ クリーム上面デコレーション4212円(季節の果物を使用)

てんしのけーき・パティシエ・母袋風実さん:
白いお砂糖、添加物、保存料を一切使わずに作っているので、赤ちゃんから安心して食べられる

アトピー性皮膚炎を患った「経験」

作っているのは、パティシエの母袋風実さん(35)と店長の母・京子さん(67)。今のケーキ作りは親子の「経験」から編み出されたものだ。

てんしのけーき・母袋風実さん:
(子どものころは)お菓子とかケーキとか食べられなかった。砂糖を摂取することでアトピーが悪化したりということがあるので

風実さんは幼い頃からアトピー性皮膚炎を患い、卵や添加物が入ったものを口にすると全身に湿疹が出た。何かと制限される食事。その分、「甘いもの」への憧れは人一倍強くなったと言う。

てんしのけーき・母袋風実さん:
友達の家に呼ばれてお菓子を出されると、家では食べられない分、反動で食べてしまい、びっくりされちゃって

弟2人も同じ症状。母・京子さんは成分を細かくチェックし、細心の注意を払って料理を作ってきた。

母・京子さん:
できるだけ地元のものだったり、その季節のもの、不自然じゃないものを食べさせていた

パティシエになる夢

母の姿を見て育った風実さん。自然と料理を手伝うようになり高校時代は調理実習でクッキーを作ったことをきっかけに「お菓子作り」に夢中になった。

てんしのけーき・母袋風実さん:
レシピを自宅に持ち帰って作ったら「これ楽しいぞ」という気持ちが芽生えて

専門学校かケーキ店に進みパティシエになろうとしたが、思うようにいかず、高校卒業後は福祉施設で働いてきた。

てんしのけーき・母袋風実さん:
夢をあきらめてしまいかけたことがあったんですが、母は「自分の夢どうしたの」って喝を入れてくるのと、私もこれ(ケーキ作り)をなくしたらどうなってしまうんだろうと…

風実さんは仕事から帰るとほぼ毎日ケーキを作り、親族や京子さんの仕事仲間に振る舞うようになった。

震災ボランティアが転機 

2011年9月・福島県いわき市(提供写真)
2011年9月・福島県いわき市(提供写真)

転機が訪れたのは2011年。東日本大震災が発生、多くの人が避難生活を余儀なくされた。テレビでその様子を見た2人はー。

京子さん:
とにかく皆さん、おなかをすかせているだろうから、でもケーキじゃないよね。余計なことをしてもらってと思われるのが、実はすごく怖かったんですよ。でもある方から「いやいや、心を満たすためにはケーキってとても大事だよ」と言われ

その年の9月、親族がいた福島県いわき市へ。仮設住宅を訪れ、風実さんが焼いたケーキ500カットを被災者に配った。

てんしのけーき・母袋風実さん:
お子さんが「ああ、ケーキきた!」って喜んでくれた。本当に小さなことなんですけど、人を幸せにする力があるのはすごいなって

提供写真
提供写真

この経験が2人の背中を押した。

京子さん:
仕事から帰って、コツコツと家庭内オーブンで毎日1個ずつ焼いてためていく姿を見て「夢がかないそうかな」って思ったことがきっかけ

翌年、自宅を増築して店をオープン。風実さんは念願のパティシエとなり今年で10年目だ。

経験を生かして こだわり抜いた食材

赤ちゃんでも安心して食べられるケーキは、風実さんの体験・経験が生かされている。

米粉のシフォンケーキを作る
米粉のシフォンケーキを作る

てんしのけーき・母袋風実さん:
(何を作っている?)米粉のシフォンケーキです

デコレーションケーキの土台にもなるシフォンケーキは、小麦アレルギーに配慮して米粉を使用。

てんしのけーき・母袋風実さん:
一切、膨張剤使ってないんですね。米粉だけなので、このようにメレンゲをしっかり泡立てないと膨らまない

オーブンで45分焼きー

米粉のシフォンケーキ2376円

またクリームは生クリームの他に、カスタードクリームや豆乳クリームを選べるようにしてある。

“顔中クリームだらけにして”

てんしのけーき
てんしのけーき

てんしのけーき・母袋風実さん:
こんにちは

大西聖さん:
大西で予約しています

てんしのけーき・母袋風実さん:
ありがとうございます、かわいいケーキできました

店のケーキは子育て世代に支持されている。市内から来店の大西さんはー

大西聖さん:
1歳の子でも食べられるケーキを買いました。ありがたいですね、娘の初めてのケーキなので

大西聖さん:
ハッピーバースデー ディア ののちゃん

早速、娘・乃々華ちゃんのお誕生日会。購入したのは卵、乳製品、小麦粉を使っていない豆乳ケーキだ。

大西聖さん:
初めてです、こうやって手で食べるの。これからまた1年、すくすくと育ってほしい

てんしのけーき・母袋風実さん:
お電話ありがとうございます、「てんしのけーき」でございます

注文が次々とー

岩田まゆ子さん:
誕生日ケーキを注文したくて、今週の日曜日なんですけど

てんしのけーき・母袋風実さん:
日曜日ですね。娘さんの誕生日、1歳ですね

岩田まゆ子さん:
ネットで1歳の誕生日に何しようと調べていて、前からここにしようと決めていた

誕生日当日―。

てんしのけーき・母袋風実さん:
おまたせしました、素敵なお誕生日を

1歳になった岩田柚穂ちゃんのお誕生日会を取材させてもらった。

母・まゆ子さん:
食べた?おいしい?

祖母:
一切れ食べちゃったよ!すごいね!

柚穂ちゃん
柚穂ちゃん

母・まゆ子さん:
こんなに顔中クリームだらけにして、子どもが喜んで食べてくれて本当によかった

父・英紀さん:
僕も食べましたけど、乳製品とか気を使っているかわからないくらい、普通においしい

12月、店は大忙し
12月、店は大忙し

12月、店は大忙しだ。クリスマスケーキ100個も予約でいっぱいとなった。苦労しつつも夢を諦めなかったこと、可能性を信じてきたことが、今の繁盛につながっている。

てんしのけーき・母袋京子さん:
2人だけで頑張ってやってきたのが、こうやって輪が広がってきたこと。ケーキ屋冥利(みょうり)っていうんですか、うれしいですね

てんしのけーき・母袋風実さん:
「てんしのけーき」が安心できるのかなと思っていただいているのはうれしい。優しい気持ちで作り続けることを大切にしていきたい

(長野放送)

長野放送
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