主に作成した文書のレイアウトを崩さないために使う「PDFファイル」。設定次第では、PDF化した後でも、加工や修正ができることをご存知だろうか?

PDFの開発元であるアドビが11月30日に発表した調査で、PDF化した後でも加工や修正ができることを6割以上が「知らなかった」と回答したことが分かった。

アドビは今年10月に、「仕事でデスクワークを主とし、月に1回以上PDFファイルを扱っていると回答した20~59歳の全国のビジネスパーソン600人」を対象に、日本でのPDFファイルの利用状況や認識に関する調査を実施。

この調査で、コロナ禍前後でのPDFファイルの利用頻度について調べたところ、「以前よりも大幅に増えた」が15.0%、「どちらかというと以前よりも増えた」が32.3%で、合わせて47.3%がPDFファイルの扱いが増えたと回答した。

コロナ禍前後でのPDFファイルの利用頻度の変化(提供:アドビ)
コロナ禍前後でのPDFファイルの利用頻度の変化(提供:アドビ)
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PDFファイルに対してビジネスパーソンが持っているイメージを調べたところ、最も多かった回答は「レイアウトが崩れない」が45.3%、次いで「編集ができない」が44.2%となった。

PDFファイルに対して持っているイメージ(提供:アドビ)
PDFファイルに対して持っているイメージ(提供:アドビ)

PDFファイルに関して、普段利用している機能について聞いており、最も多かったのは「変換機能(エクセルやワード、パワーポイントなどをPDFに変換する)」の57.8%。

機密性の高い文書をPDF化する際に、パスワード設定や権限設定を行っているかについては、全体では「頻繁に利用している」が20.3%、「時々利用している」が35.0%で、合わせて利用率は55.3%となった。

一方で、全体の25.7%にあたる、4人に1人以上がパスワード設定や権限設定を「全く利用していない」ことが分かった。

機密性の高い文書をPDF化する際のパスワード設定や権限設定の利用状況(提供:アドビ)
機密性の高い文書をPDF化する際のパスワード設定や権限設定の利用状況(提供:アドビ)

また、「PDF化した後でも設定次第では第三者が後から加工・修正できること」、および個人情報の漏洩に繋がる危険性について認識があるか調べたところ、全体の64.3%が「知らなかった」と回答し、適切な設定をしないことによるセキュリティリスクが浮き彫りになった。

「PDF化した後でも設定次第で、第三者が後から加工・修正できること」の認知度(提供:アドビ)
「PDF化した後でも設定次第で、第三者が後から加工・修正できること」の認知度(提供:アドビ)

アドビによると、「PDF化した後に、第三者が後から加工・修正できる」ということなのだが、これは、どのような条件でどのように設定をすれば、できるのか? また、第三者に加工・修正されないためには、どうすればいいのか?

アドビの担当者に話を聞いた。

PDFは「いろんなデータを安全に管理できる情報箱」

――今回の調査を行った理由は?

2008年にPDFの仕様がISO(国際標準化機構)に委譲され、オープンになったことで、PDFは今やビジネスだけでなく、教育現場やプライベートなど、あらゆるシーンで利用されている重要フォーマットの1つになりました。

しかし、仕様が公開され、PDFファイルを作成・編集などができるソフト「Adobe Acrobat」以外にも、様々なPDF変換ツールが流通した一方で、中には規格要件を十分に満たさないPDFも多く作成されるようになり、品質の影響から「PDFを正しく表示できない」といった事象も発生しています。

また、PDFが持つ機能への理解不足からセキュリティの設定がおろそかになり、作成者の個人情報がプロパティ(文書のタイトル、作成者、セキュリティ設定などといった、文書の基礎情報のこと)に残ったまま文書が外部に公開されたり、“黒塗り”したはずの文字情報が消し切れていなかったりと、企業や自治体による「不本意な情報漏洩」といったトラブルが発生しているのも事実です。

情報の管理がますます重要になる中で、PDFの開発元として、改めてPDFの持つ機能について啓蒙することが重要と考え、今回の調査を実施しました。


――そもそも、PDFは何のためにある?

PDFは、元の文書に含まれる体裁やフォント、画像といった複数の情報を、高い再現性をもって、1つのデータにまとめて管理できます。

“ポータブル・ドキュメント・フォーマット”の名のとおり、持ち運び可能なデータは、異なるデバイスやOSで開いても、同じように文書が表示されるので、作成者の意図を損なわずに、正確に文書の内容を伝えることができるのが特徴です。

元々は、「紙のように、ドキュメントデータはいかなる環境でも閲覧できるべきだ」という思想に基づき、開発されましたが、今ではデータを格納する情報コンテナとしてだけでなく、セキュリティ機能の高さから、電子署名による本人性の確認なども行える「セキュアな情報コンテナ」として活用されています。

PDF=あらゆる情報をシステムに依存せず交換可能にする「情報コンテナ」(提供:アドビ)
PDF=あらゆる情報をシステムに依存せず交換可能にする「情報コンテナ」(提供:アドビ)

――「セキュアな情報コンテナ」とは?

テキストや画像だけでなく、動画や音声データ、文書の属性情報や誰がいつ署名したのかという情報など、あらゆるデータを一つにまとめることができ、また、パスワードなどで保護することができる安全安心なファイル形式のことです。

PDFは、紙や印刷物を単にデジタル化したもの(=可視情報のデジタル化)ではなく、「いろんなデータを安全に管理できる情報箱」というところがポイントになります。

PDF化された文書を加工・修正する方法

――「PDF化した後でも設定次第で、第三者が後から加工・修正できる」ことを6割以上が「知らなかった」と回答。この結果はどのように受け止めている?

年間で作成されるPDFの数は、兆単位と言われています。今回の調査で約半数が「コロナ禍前後でPDFの扱いが増えた」と回答するなど、今後ますます、PDFを活用したコミュニケーションが増えていくことが予想されます。

そうした中で、文書の用途によって「閲覧」や「編集」の権限設定を行ったうえでPDFを作成し、正しく情報を開示することで、不本意な情報の漏洩や、改ざんの危険性を無くすことが重要です。

また、年代別に調査結果をみると、20代男女においては半数以上が「知っていた」と回答しており、他の世代と比べ、ITリテラシーの高さがうかがえました。

一方で、運営元の不確かな無料のオンラインサービスを使って、ビジネス資料をPDF化・編集などをした経験が「ある」と20代、30代の約半数が回答しており、企業は情報を守るため、安全性が担保されたデジタルツールを導入するべきであると考えます。


――「PDF化した後に、第三者が後から加工・修正」。これはどうすればできる?

PDFを作成する際に、パスワード設定といった「保護機能」が施されていない場合、PDFに格納された「情報コンテナ」にアクセスし、しかるべきツールを使って、編集を行うことができます。

例えば、「Adobe Acrobat」では、ファイルを開いて「PDFを編集」ツールを使うと、テキストの追加や画像の入れ替えといったことができます。その他にも、複数のファイルの結合や、ページの削除、抽出などが可能です。

こうした機能は、「サブスクリプションサービス」で提供しています。

ちなみに、閲覧に多く利用されている無料の「Adobe Acrobat Reader」では、「コメント(ノート注釈・ハイライト・スタンプ)の追加」が可能です。


――「Adobe Acrobat」の「サブスクリプションサービス」では、数字の改ざんも、できてしまう?

セキュリティが設定されていない場合は、「PDFを編集」ツールによって、書き換えることが可能です。また、文書のプロパティ(タイトルや作成者など)の情報も変更することができます。

PDFファイル(イメージ)
PDFファイル(イメージ)

――PDF化した後の文書を、第三者が後から加工・修正するためには、「サブスクリプションサービス」に入らないと、できないということ?

「文字情報などを直接、書き換える」機能は、「サブスクリプションサービス」で提供しています。


――「サブスクリプションサービス」の月額は?

「Adobe Acrobat」のスタンダード版は、税込み1518円(年間プランで月々払いの場合)で提供しています。

第三者が加工・修正できる機能がある理由

――無料の「Adobe Acrobat Reader」で、できるのは「コメント(ノート注釈・ハイライト・スタンプ)の追加」だけ、ということ?

具体的には以下のようなことも可能です。

・PDFに注釈の追加
・「入力と署名」より電子契約/サインする(月2回)
・ログインすることで、クラウド経由でPDF共有(2GB)
・デスクトップ版「Acrobat Reader」のスナップショットツール(テキストやグラフィックを画像としてクリップボードにコピーし、貼り付けが行える)
・編集メニューから「高度な検索」でフォルダを検索する
・「ものさし」ツールで距離や面積の測定(用途はほぼ図面に限られます)


――「コメント(ノート注釈・ハイライト・スタンプ)の追加」は、どのような機能?

原稿を確認するときなどに、修正をお願いしたい場所に印をつけて、注釈コメントを追加するといったことに役立ちます。また、スタンプの追加からは電子印鑑や、署名の追加といったことが可能です。

PDFファイル(イメージ)
PDFファイル(イメージ)

――「PDF化した後でも設定次第で、第三者が後から加工・修正できる」機能は、何のためにつけている?

そもそもの前提として、PDFは、一旦、作って終わりではなく、その時々の用途に応じて編集したり、他のファイルに変換できる柔軟なフォーマットです。この点においてはWordファイルなどと大きな違いはありません。

したがって、PDFを編集されたくない場合は、作成者がPDFをセキュリティで保護する必要があります。


――「PDF化した後も加工・修正できること」は、知っておいた方がいい?

ビジネスはもちろん、プライベートでもPDF活用が広がっていますが、特徴について、正しく知って使っていただくことが重要と考えます。

様々な情報をデータとして保管する際にPDFは便利ですが、機密性の高い情報など、外部に公開をする場合は、きちんとセキュリティ対策を行う意識を持つことが必要です。

第三者に加工・修正されないための設定方法

――第三者に加工・修正されないためには、どのような設定をすればいい?

「Adobe Acrobat」のサブスクリプションサービスで、「保護機能」からセキュリティの設定を行うことができます。PDFにパスワードをかけたり、コピー、編集、印刷の権限などを設定することができます。


――無料の「Adobe Acrobat Reader」でも、第三者に加工・修正されないための設定はできる?

PDFをパスワードで保護するなどの、セキュリティを強化する機能については、有料で提供している「Adobe Acrobat」を利用していただく必要があります。

イメージ
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――「第三者が後から加工・修正できる」機能は、どのような人にどのようなときに使ってほしい?

多くの文書は、1回作成して終わりではなく、その後も、随時、更新されていきます。

また、新しく文書を作る場合でも、“元からある文書”をもとに作成する場合が、ビジネスシーンではよくあります。そういった場面において、PDFの編集、変換機能が役立ちます。

また、複数人での文書レビューや、電子署名による本人性の確認など、従来の紙ベースでのやり取りに代わって、PDFで利用可能な機能は拡充していますので、ドキュメントによる、あらゆる生産性の向上に役立ててほしいと考えています。

PDF(提供:アドビ)
PDF(提供:アドビ)

「PDF」は、アドビの有料のサービスを使うと、書き換えることができるとのことだった。仕事の文書をPDFで送っている人は、文書のセキュリティを高めるため、有料のサービスを使う場面もありそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。