今から約50年前、高度経済成長期に次々と建てられた高層マンション。その一部のマンションが今、老朽化に伴う「ある問題」を抱えていた。
この記事の画像(25枚)“行いたくてもできないマンションの修繕”です。
横浜市にある築48年のマンションの場合
神奈川県横浜市の繁華街の近くにマンションの一室を所有する田邊さんもその問題に悩まされていた。
案内してもらったのは、築48年、9階建ての分譲マンション。
一見、それほど古くは見えない。
(有)ホームサポート・田邊賢一代表:
「大規模修繕を5,6年前にやったので(表は)きれいになってますけど」
ところが、裏に回ってみると、マンションの5階部分までツタがびっしりと覆っていた。よく見ると、窓から建物の中にまでのびてしまっています。
さらに、通りに面していないもう一方の壁にはヒビが入ったままだった。
修繕が済んでいるはずなのに、なぜ半分だけ老朽化が進んでいるのか?
(有)ホームサポート・田邊賢一代表:
お金がなかったんで。2面はやりましたけど、こちら側(残りの2面)ができていないので。
本来であれば、新築当時から修繕積立金などでどういう修繕しなきゃというのを計画的にやっていればよかったんでしょうけども…。
このマンションには10年ほど前まで管理組合がなく、住民から修繕積立金をほとんど集金できていなかった。築40年の時点で積み立てた修繕費はわずか300万円ほど。
そのため、通りに面した2つの壁しか修繕できなかったのだ。
その結果、至る所の老朽化が進んでいて、天井に残る水漏れの跡や、屋上の柵の一部はさびて外れてしまっているなど、危険な箇所も残っていた。
現在、田邊さんは管理組合の理事長を務め、修繕を進めているが、実施には高いハードルがあるという。
(有)ホームサポート・田邊賢一代表:
外国の方が多いんですよね。話も通じないし、日本の文化とその方たちの住み慣れた文化違うので、いろんな考え方持ってるのでまとめるっていうのは大変です。
横須賀市にある集合住宅の場合
こうした“修繕費がないため直せないマンション”は多いようで、田邊さんが一室を所有する神奈川県横須賀市の別の分譲マンションでも老朽化が進んでいた。
部屋を見せてもらうと…
天井は一部が崩れていて、そこから外光が差し込んでいて、トイレには崩れ落ちた天井の破片が散乱。
崩れた天井をよく見ると、コンクリートがむき出しになっていた。
老朽化で人が住める状態ではなくなってしまい、現在は“倉庫”として使っているというが、問題は共用部分にも…。
手すりの一部が外れていたり、手すりの土台部分のコンクリートがひび割れて手すりが支えられていない状態になっていた。
(有)ホームサポート・田邊賢一代表:
隙間があいてるし、ちょっと怖いですよね。
階段部分のコンクリートがひび割れ、隙間があいていた。
もうひとつの階段を見ると全体的に錆ついて、幾つも穴が開いていた。
かなり危険な状態のため、住民が自転車で塞ぎ、登れないようにしている。
このマンションに賃貸で住む人からは「地震が来たときが1番怖いよね。もう限界じゃない?」と地震を心配する声が聞かれた。
さらに、近所に住む男性に話を聞くと、このマンションに設置されているアンテナが近隣住宅の方に今にも倒れそうになっている状況を示して、「怖いんだよ!だって、あれ、見て!倒れるだけだよね…」と今の心境を話してくれた。
現在、このマンションは8割近くが空き家で、管理組合もなく、所有者を把握できていないため、必要な修繕ができないという。
(有)ホームサポート・田邊賢一代表:
誰が所有していて誰が管理しているのか分からない。(自分が所有している部屋は)一区分しかないから、何をやるにも今はこのままですよね…」
全国で初めて実施された行政代執行
このまま放置されればどうなってしまうのか…。
過去の例を見てみると、2019年に取材したのは10年以上も人が住んでいない築47年の鉄筋3階建て分譲マンション。
地震や台風の影響で老朽化が進み、変わり果てたベランダに、外壁も完全に崩れ、部屋の中が見えてしまっている。
いつ倒壊してもおかしくない危険性に加え、近所の人たちにも深刻な影響が及んでいた。
近隣住民:
体によくないアスベストが飛んでくるんですよ。
天井材が剥がれ落ちた場所からところどころアスベストが露出していた。
こうした事態にも関わらず、所有者の同意が得られなかったため解体は進んでいなかった。
そこで行われたのが、行政代執行。
市役所職員:
著しく保安上危険な物件の除却をするため、行政代執行を実施致します。
行政代執行は、市が所有者の代わりに解体を行い、その費用を所有者から徴収すること。
このとき集合住宅としては、全国で初めて行政代執行による取り壊しが行われた。
市によると、その解体費用の総額は約1億2000万円にのぼったという。
資金不足を解消して修繕を実現した物件も…
こうしたマンションがある一方で、資金不足の問題を解決し、修繕を実現したマンションもあった。
訪れたのは東京・大田区。12年前に大規模修繕をおこなった築48年の分譲マンション。
修繕前は、地震の影響もあって壁にはかなりのクラック(ヒビ)が入っていたと話す理事長の山内さん。
しかし…
山内理事長:
積立金は管理会社で計画的にやってたんでしょうけどそれじゃ足りないって。
他のマンション同様、修繕費の積み立てがうまくいっていなかったというが、それではどうやって修繕費用をまかなったのか。
このマンションのコンサルタントをしている高橋さんに案内してもらった。
大田区マンション交流会・高橋明彦さん:
した。駐車場が増えたんで収入も増えました。
さらに…
大田区マンション交流会・高橋明彦さん:
基地局です。毎月1機で12万と8万円です。
携帯電話の基地局を屋上に設置して毎月20万円の収入も得ていた。
この他にも「自主管理」に変えたり、保守点検費用を節約するなどコスト削減をしたという。
それでもいつかは限界がくるマンションに不安もあるという。
大田区マンション交流会・高橋明彦さん:
究極的には建て替えなきゃいけない。建て替えは大規模修繕よりはるかに難しい。建て替えとなると大変な作業です。
では、全国のマンションの内、築40年以上のものは20パーセント近くもあり、10年後には倍増すると見られている。
政府は、老朽化したマンションの建て替えを促すために、法の改正を検討している。
(「イット!」 11月8日放送)