臨時国会は第2次補正予算や旧統一教会の被害者救済法などが成立して閉会。岸田内閣の支持率は下落しているが、野党第一党である立憲民主党の支持率は上がらない。立憲民主党の立ち位置はどこにあるか、政権交代への戦略はあるのか。BSフジLIVE「プライムニュース」で、先﨑彰容氏が福山哲郎立憲民主党元幹事長に直言した。

「リベラル」な立憲民主党が、被害者救済法で個人の心に踏み込む正当性は

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新美有加キャスター:
10日の参議院本会議で、旧統一教会の被害者救済を図る新たな法律が自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決、成立。不当な寄付を防ぐため「個人の自由な意思を抑圧、適切な判断が困難な状況に陥らせない」ことや「個人・家族の生活維持を困難にすることがないよう」「勧誘する法人などを明らかにし使途を誤認させるおそれがないよう」「十分に配慮」しなければならない、となった。立憲民主党はいち早く日本維新の会と法案を共同提出したが、政府案が出されると維新は早々に政府案支持に傾いた。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
当初、岸田総理も自民党も30年にわたる自民党・旧統一教会の関係も含め非常に消極的だったが、我が党と維新・社民が被害者救済法案を提出すると政府案の策定に入り、政府案と野党案が揃って修正協議が始まった。法律が一旦成立したことはよかったが、これでは宗教2世の方の救済がカバーできない。また自民党の「点検」は甚だ中途半端で、地方議員に対する調査も岸田総理は明言せず。経済や安全保障の問題も扱いながら、この問題を引き続き扱っていかなければ。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長
福山哲郎 立憲民主党元幹事長

反町理キャスター:
再発防止に向けてのふたはしたが、被害者救済にはならず。先﨑さんはどうご覧に。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
注意が必要なのは、政治が救えることと政治が救えない個人の内面の問題があるということ。「個人の自由な意思」などの言葉を簡単に使うが、個人の心の問題は極めて哲学的で思想的。立憲民主党がリベラルを標榜する政党なら、個人の内面は最も重視されるべきで、タッチしてはいけない問題のはず。

反町理キャスター:
なるほど。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
また、被害者救済法のきっかけは安倍元総理の暗殺だったが、安倍元総理がずっと言っていた「戦後レジームからの脱却」という言葉が皮肉にもすごく大事。つまり、戦前の日本で個人の自由を最も抑圧したのは国家権力とされるが、心の中に介入してはいけないとして宗教問題を不問にしてきたのが、宗教における戦後レジーム。これが変革期に入った。政治権力がどこまで我々の心の問題に介入できるのかが、今回の宗教問題の本質。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家
先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
あまり異論はないが、今回の旧統一教会は本当に宗教と言っていいのか。献金の仕方、韓国へのお金の持って行き方、それが北朝鮮に行っていることも含め反社会的集団なのでは、として政府も質問権行使の判断をした。政治が一定の介入をしないと優先順位の高い被害者救済ができない中での議論だった。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
それでいいと思う。個別の案件についての立法はまさに政治の仕事。一方、この問題以外も含め俯瞰したものの見方が今の政治には極めて欠けている。私は政治権力の介入を批判しているのではない。毒薬も薄めて使えば体が治るように、権力という毒薬をどう扱うかが政治の本質。我々が政治権力を行使して団体に規制を強くかけている自覚を持つことが大事。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
戦後レジームの転換という歴史の話があったが、戦後リベラリズムに基づいた国際レジーム、国連を中心とした仕組みが徐々に影響力を失っていると私は思う。国連改革をするにも5大国がバラバラでできない。だが、国連以外に何もよすがのない微妙な状況。二項対立ではないので極端な政治のメッセージの出し方も難しく、我々の立場を含め難しい時代だと思う。

コア層にフォーカスしすぎた立憲民主党 右派への支持拡大は

新美有加キャスター:
二項対立でない状況という話があった。先﨑さんから「過半数をとる政治」というキーワードをもらっているが、立憲民主党はどこをターゲットにした政治を念頭に置くべきか。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
新聞が典型だが、自分たちが縮小していくイメージにあるとき、自分たちの岩盤支持層に対して訴えかけるようにシュリンク(縮小)していく。すると、周りにいるふわっとした層がこぼれていき、原理主義化する。立憲民主党の中でコアな支持層に向けての方向性が強すぎると思う。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
2021年の衆議院選挙で共産党との選挙区調整に対して批判が出てきたのはわかる。だが、まず国民に選択肢を与えるためだった。半分負け惜しみだが、事前の世論調査では菅内閣なら与党の過半数割れはほぼ間違いなかったところ、岸田さんに代わって我々が議席を減らす形に。どういうターゲットに対し物事を言っていたか、何が有権者に必要だったのか、反省しなければいけない。

反町理キャスター:
戦略上左に寄りすぎたという反省か。「立憲共産党」とも言われた。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
立憲共産党と言われ、それがメディアを通じて広がったのは非常に大きい。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長(左)、新美有加キャスター(中)、反町理キャスター
福山哲郎 立憲民主党元幹事長(左)、新美有加キャスター(中)、反町理キャスター

反町理キャスター:
先﨑さんのご指摘は、例えば10%の支持層を持つ立憲が10%を対象にアピールしても伸びない、もう少し右に20%ぐらい広げた戦略をとればどうかと。枝野・福山体制でチャレンジする思いはあったか。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
あった。

反町理キャスター:
あってなぜ立憲共産党だったのか。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
共産党とは選挙区調整しただけ。

反町理キャスター:
みんなそう受け止めなかった。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
でも現実にそう。共産党と連立政権を組めないことは明確に申し上げていた。そもそも安保政策が違う。だが選挙区調整をして1対1の構造にしなければ、小選挙区制度は厳しい。

反町理キャスター:
泉代表は今、共産党と距離を置きながら、今国会では維新と接近。右への展開に見える?

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
見えない。選挙区調整については双方一切言っておらず、維新にその気があるか全くわからない。重要なのは、野党第一党と第二党の国会内での共闘。維新が救済法について途中で政府案に傾いたというが、修正協議をうまくやるよう間を取ったとも見える。安住国対委員長がしっかり話し合い、枠組みを作った。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
「自分たちがやった」とアピールする必要はない。今の話も、野党が共闘して法律ができ、しかも自民党案に乗る前に先に出したと、もっと堂々と言えばいい。「対立軸として自民党があるが、僕たちは……」と言った瞬間に、もう自分の立ち位置は下になってしまう。

野田元首相の言葉に見る、政治家に必要な懐の深さ

新美有加キャスター:
立憲民主党の野田佳彦元総理は、安倍元総理への追悼演説で「真摯な言葉で建設的な議論を尽くし、民主主義をより健全で強靱なものへと育て上げていこう」と述べた。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
批判を黙らせる懐の深さを多くの人が感じたと思う。実は先日、野田元総理と会食した。そこで野田元総理がおっしゃった話がある。野田さんについていたSPからメールが来た。彼は安倍元総理が凶弾に倒れたときのSPの友人。「正義感を持って仕事をしてきたが挫折を感じている、もう仕事をやめようか」という内容。野田さんは彼を励まし、安倍元総理銃撃事件現場にいたSPの方にも伝えてくれと言ったのが「私は追悼演説で、挫折から這い上がってきた男が安倍さんだと言った。あなたもどん底から這い上がることが何よりの供養になる」と。こういう話を聞くと、国のトップになってよい方だと思う。個人的な体験からにじみ出るものがあり、話を聞かなければいけない雰囲気がある。野党にああいう方が増えてほしい。

野田佳彦 元首相
野田佳彦 元首相

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
野田さんの演説を聞いて、推敲して言葉を選んで演説原稿を書くというのはこういうことだとすごく思った。ただ、メディアが野党政治家の言葉をあれほどきっちり報道してくれたことはない。野党側が法案を出してもほとんど報道されない。もう少し野党を評価していただく仕組みがあると与党にも緊張感が出るし、野党も無責任な発言をしてはまずいという空気になり、それがお互いの政治家を育てることになるのでは。

反町理キャスター:
だが、例えば本会議場での代表質問や演説の中で必要以上に罵声を張り上げるとか、議長へ振り向きながら「どうですか、どうですか」、そういう演説を繰り返してきたのが、ここ最近の立憲民主党だったのでは。

福山哲郎 立憲民主党元幹事長:
何が必要な情報かということ。基本的に野党の質問はほとんど切り取られる状況。愚痴になるが、国の予算で原発立地自治体に専従の警備隊を配備する案を岸田総理に言ったら「前向きに考える」と言っていただいた。だが、私が問題提起したとどこも伝えてくれない。こういう報道では野党は育たない。

反町理キャスター:
質問者が誰かより、総理が発言したことがニュースの価値として高い。長いバージョンなら「立憲の福山氏の質問に答えたものだ」と伝える。

先﨑彰容 日本大学危機感理学部教授 思想史家:
野党の発言の仕方に問題があるのと同時に、総理大臣の発信も深く問われている。政治全体の問題。劇場型のパフォーマンスには国民全体が飽きている。だからド直球みたいな野田元総理の発言が染みてくるのでは。

(BSフジLIVE「プライムニュース」12月13日放送)