北朝鮮側から板門店を訪問

南北軍事境界線にある「板門店」。韓国・文在寅大統領と北朝鮮・金正恩委員長が今年4月、初めて首脳会談をした舞台となった。11月初旬、我々はこの板門店を北朝鮮側から訪れる機会を得た。平壌市内からおよそ170キロ。高速道路をひたすら直進する。休憩を挟み、2時間半ほどかかって到着した。

南北軍事境界線にある「板門店」。韓国・文在寅大統領と北朝鮮・金正恩委員長が今年4月、初めて首脳会談をした舞台となった。11月初旬、我々はこの板門店を北朝鮮側から訪れる機会を得た。平壌市内からおよそ170キロ。高速道路をひたすら直進する。休憩を挟み、2時間半ほどかかって到着した。入口には、バスでやってきた15人ほどの中国人観光客らの団体が待機していた。韓国側と同じように、北朝鮮側でも、「板門店訪問ツアー」が中国やロシアの観光客向けに組まれているのだ。入口の脇には土産物店もあった。
土産物店にはチマチョゴリ姿の店員
店内には、朝鮮半島の伝統服・チマチョゴリを着た女性店員が何人かいる。商品を見ていると店員が近づいてきて簡単な説明はするものの、そのあとはほとんど声をかけてこなかった。海外の土産物店で著者自身が経験したことのある、「押し売り」のようなしつこさはなかった。並んでいる商品はというと・・。

これはチョコレートの菓子だ。値札には、欧州のユーロで「0.7ユーロ」。さらに中国通貨の元で「5元」と併記されている。円にすると、「5元」は80円ほど(1元=16.34円換算)で、「0.7ユーロ」だとさらに10円程度高くなる。「同じようなチョコレートを日本で買うのと、あまり変わらない値段だなあ」などと独り言を言いながら、さらに店内を見て回った。

ハングルや英語で「板門店(PANMUNJEOM)」とかかれた帽子やTシャツが置かれていた。北朝鮮の旗もあしらわれている。朝鮮人参エキスのドリンクやミルク味のキャンディーも並んでいた。

「板門閣」から韓国を望む
そうこうしているうちに、板門店を案内する朝鮮人民軍の担当者がやってきた。

板門店の案内担当者は、朝鮮人民軍の中佐だった。板門店に勤務して5年らしい。まだ30代だというから出世頭なのかもしれない。車で一緒にゲートの中へ移動して、板門店の北側の施設「板門閣」に到着した。テラスに上がって、韓国側に目を向けた。
一変した「共同警備区域」

韓国側の建物を見ていて、違和感を覚えた。
韓国側「から」見た光景の印象が強かったためだろう。
ただ、違和感の理由は、もう一つあった。
これまでは南北双方のあちらこちらで兵士らが直立不動で警戒・監視を行っていた。しかし、この日はそういう兵士はほとんど見なかったのだ。案内担当の中佐によると、「南北の合意を受けて、これまでのような警戒監視の人員配置はなくなった」のだという。

この「合意」とは、今年9月の南北首脳会談で採択された軍事合意文書のことだ。板門店の韓国側の「自由の家」や北朝鮮側の「板門閣」など主要な建物を取り囲むように設定された約800メートル四方のエリアを、「共同警備区域=JSA」と呼ぶ。このJSAの「非武装化」が、9月の軍事合意には盛り込まれた。JSAの内側で勤務する兵士は南北双方銃器を携帯しないことや警戒所を撤収することが決まったのだ。それらの措置が、ちょうど10月末に完了したばかりだった。

さらに、JSAの内側で勤務する兵士の服装にも変化があった。北朝鮮の兵士はこれまでカーキの単色の軍服だったが、「軍事合意を受けて、最近、軍服が迷彩柄のものに変わった」と中佐は言う。「迷彩」は韓国の兵士が着る軍服の柄で知られる。平壌市内から我々に同行した北朝鮮の担当者は、「南側から兵士が入ってきたのかと思ってびっくりした。これまで板門店に何度も来ているが、初めてだ」と、かなり驚いた様子だった。

JSAの非武装化が完了したことを受けて、近く、民間人が板門店で南北間を自由に行き来できるようになる見込みだ。早ければ11月中にも実現するという。 今年に入って以降、南北の「融和」や「対話」がキーワードだ。板門店はまさにその「縮図」であると、この地に立って改めて実感した。過去を振り返ると、板門店は、ポプラ事件や脱北・亡命事案など、「緊張」の歴史が色濃い。板門店に「一触即発」というイメージを持つ人も、少なくないのではないか。著者の目の前には、着々と融和が進む板門店の「変化」があった。最初に感じた「違和感」は、時間が経つにつれて一層強まった。「分断の象徴」は、時代の大きな節目に差し掛かっている。
牧歌的な光景も

最後に・・・。
板門店に向かう高速道路の道中に、「休憩所」があった。日本でいうサービスエリアのようなところだ。土産物を売るテントが設けられ、北朝鮮のタバコや菓子が並んでいた。


著者はコーヒーキャンディーを買ってみた。子供向けの味付けだろうと予想はしていたが、食べてみると想定以上に『超甘口』だった。

駐車スペースの脇には、青空食堂のようにテーブルとイスが置かれている。緑の制服姿の女性店員がインスタントコーヒーやリンゴを売っていた。リンゴは、売れたら店員がその場でナイフで皮をむくサービスのようだ。トイレを利用して外に出ると、中国人観光客らが思い思いにくつろぐ牧歌的な光景が広がっていた。