2022年に入り、相次いだ北朝鮮による弾道ミサイルの発射。韓国メディアが報じた統計によると、2022年のミサイル発射数は、過去最多を更新。
また、ロシアによるウクライナ侵攻、さらには海洋進出を進める中国の影響など、日本を取り巻く環境が厳しさを増す中、いま議論を呼んでいるのが“防衛費増額をめぐる増税”です。

12月8日、岸田総理が明かした防衛費増額にともなう財源の内訳は、2027年度以降に不足する年4兆円分のうち、1兆円余りを“新たな増税”でまかなう方針です。

値上げラッシュが家計を直撃し続けるなか、突如浮上した増税案。
果たして、政府が検討する増税の中身とは。「めざまし8」は専門家に詳しく話を伺いました。

日本の防衛費は増税でどう変わる?

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これまでの日本の防衛費の目安は、GDP比約1%、2022年度当初予算は約5.4兆円となっています。これを今後5年間、2027年度までに倍のGDP比約2%(年間約11兆円)に引き上げると、単純計算で、20歳以上の国民1人当たり約5万円の負担増になります。

実現した場合、世界9位だった防衛費が、アメリカ、中国に続き世界3位に。

財政政策に詳しい野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、この数字について以下のように話します。

野村総合研究所 木内登英 氏:
非常に大きな変化になるかなと思います。
日本のGDPは今世界3位ですので、経済規模に見合った防衛費になるという考え方もできますし、ただ一方で政府の借金はどの国より大きいので、それも踏まえた上で財源の確保を考えていく必要があるように思います。

防衛費を倍増 使い道は?財源は?

増えた予算の使い道は?防衛力強化には、7つの柱があるといいます。

・長距離ミサイルの開発など
・陸海空を複合した防空能力
・ドローン、戦車などの無人化研究
・宇宙・サイバー、電磁波などの領域強化
・情報戦を含む指揮統制
・島しょ部などへの戦力の迅速な輸送能力
・弾薬確保など継戦能力の強化

軍事ジャーナリストの井上和彦氏は、「現在の予算では、装備品の整備すらまともにできていない状況。防衛力強化のためには増額は必須」と指摘します。

問題は、その財源です。
岸田首相が財源として提示したのは、他の歳出を見直し削減する「歳出改革」、コロナ対策予算など余った予算「決算余剰金」の転用、さらに国有財産を売却して得た収益や、外為特会の余剰金などを「防衛力強化資金(仮称)」にするというものです。

しかし、それらの財源を使用したとしても、年1兆円の財源が不足するという試算から、“増税による確保”の表明を行いました。

増税時期については、昨今の物価上昇などを考慮し、2023年度からの実施は見送りに。2027年度までに段階的に進めていく方針としています。

検討されている増税案として、法人税、たばこ税のほか、東日本大震災の復興特別所得税(所得税に2.1%上乗せ)の収益のうち、約半分の2000億円を転用するとの案も出されています。

“増税案”与党内部からも反発の声

突如として打ち出された「増税案」に、与党内部からも反発の声があがっています。

西村経産相は9日の会見で、「これからみんなで好循環を作っていこうという機運が高まっているので、私自身は増税に慎重であるべきだという考え方」と発言。
高市経済安保相も自身のツイッターで「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された総理の真意が理解できない」と増税に対し難色を示しています。
また、9日に開かれた自民党会合でも、参加議員の約8割から増税に反対・疑問の声があがりました。

野村総合研究所 木内登英氏:
防衛費を増やして国防力を高めるというのは、メリットを受けるのは国民全体なので、国民もその負担をする覚悟は必要なんだと思います。
それを増税にせよ、歳出削減にせよ、国債発行にせよ、いずれにせよ国民の負担になるということは理解する必要があると。増税については、岸田総理は所得税ではなくて法人税でまかなうと言うことを言っています。
ただ、法人税でやったからいいというものではなく、法人税で引き上げた分、企業が賃金を抑えるとか価格に転嫁するということをすれば、国民にも影響が出てくる。痛みがない負担の仕方はないんだと言うことも、考える必要があるのではないかと思います。

“増税”以外の手立ては?

増税以外の財源確保の手立てとして、「国債による財源確保」も考えられます。

台湾に訪問中の自民党の萩生田政調会長は、防衛費の財源確保のために、「国債の償還期間のルールを見直すことも検討に値する」と発言。償還期間を延長することで、財源を捻出しやすくする案も検討対象との考えを明らかにしています。

国債の活用案に関して、木内氏は…

野村総合研究所 木内登英 氏:
1つの選択肢ではあると思います。重要なのは、防衛費を拡大したときにメリットを受ける人は誰なのかということで、一応は将来の世代にそのメリットは及ぶのだと思います。
なので部分的に国債発行でまかなって、60年先まで将来の世代にも負担してもらうという考えもあるとは思うんですが、全てを国債発行でまかなうというのは無理があるかなと思います。

将来へのメリットはあるものの、全てをまかなうのは無理があるといいます。

野村総合研究所 木内登英 氏:
多くメリットを受けるのは、今生きている世代の人なので、そういう人たちがやはり何かを犠牲にしなくてはいけない。
今政府から受けている色んなサービスのうち、何かを犠牲にして、それよりも防衛費拡大による生命の安全の方が重要だという選択をしていくのであれば、歳出削減を従来の常識にとらわれないようなギリギリの削減をしていくと。
岸田総理の説明ですと、そういうことをやっても1兆円は穴が残ることですけども、もっと常識にとらわれない形で歳出を削減する見直しというのを、2027年度に向けてやっていくのが必要かなと思います。

国民への説明は?今何が求められているのか

物価の高騰など家計への負担が続く中での、財源の確保、そして防衛費のあり方の説明は、どのようなものが求められるのでしょうか?

野村総合研究所 木内登英 氏:
岸田総理は当初、防衛費増額については、中身と財源と規模を三位一体で決めていくという話だったのですが、実際は規模だけ先に決まって、中身や財源の議論が後になってしまったのが大きな問題だと思います。
国防費増強は良いが、国民の負担になるなら慎重だという意見があるなら、防衛費のところ自体ももう一度見直して、本当に国民の生命の安全に寄与するものかどうかを国民がチェックして、その上で中身と規模と負担のあり方を一体で決めていく、というプロセスが必要だと思います。
年末の慌ただしいタイミングで、国民が考える余裕もないなかでどんどん決まっていると。そういうところに、大きな問題があるのではないのかなと思います。

(めざまし8 「わかるまで解説」より12月12日放送)