俳優の渡辺徹さんが11月28日、敗血症のため亡くなった。61歳だった。

敗血症とは一体どのような病気なのか。

敗血症の原因と症状、どういった人がなりやすいのかなど、日本感染症学会専門医で、KARADA内科クリニック五反田院長の佐藤昭裕医師に聞いた。

高齢者、糖尿病、免疫不全は敗血症のリスク

――まず、敗血症とは?
敗血症というのは、何らかの感染症がきっかけで、生命に危険が及ぶ状態のことをいいます。肝臓、腎臓、呼吸、心拍の機能が急激に落ちてしまう状態です。

細菌やウイルスがきっかけで、体が過剰反応を起こし、色々な臓器障害を起こしてしまいます。

敗血症自体での死亡率は10%程度と言われていますが、血圧が保てなくなり血圧を上げる薬・昇圧剤の投与が必要な方では、死亡率は40%程度にまで上がってしまうとても恐ろしい状態です。

佐藤 昭裕医師
佐藤 昭裕医師
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――どういった人が敗血症になりやすい?
敗血症のリスクが高い方というのは、やはり高齢であるとか、糖尿病をお持ちの方になります。

糖尿病は、感染症の増悪リスクの1つになります。

新型コロナウイルスでも糖尿病基礎疾患をお持ちの方は重症化リスクのうちに入っていますが、一般的にどんな感染症に対しても、糖尿病の方は重症化するリスク、もしくはかかりやすいということがあります。

また、免疫不全をもともと持っている方や後天性になってしまった方は、敗血症を起こしやすいです。

ただ、もちろん健康な人でも、細菌・ウイルス感染症によって急に敗血症にまで至ってしまうということも十分あります。

(イメージ)
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――健康な人が敗血症になる場合はどういった時?
健康な人も、普通に体の中に細菌が入ってしまい、それが血液中に乗っかって体全身をめぐって、それに対する体の反応が起こって臓器不全という形になるということです。

臓器不全になると、意識障害が起こったり、呼吸がしっかりできなくなったり、血圧が保てなくなり、血圧が下がる状態になります。

――敗血症の症状はどんなものがある?
敗血症は何かしらの感染症をきっかけに起こるものなので、熱が出るとか、感染症が起こってしまった臓器に痛みが出ます。

例えば、胃腸炎だったらばお腹が痛い、咽頭炎など喉の炎症だったら喉が痛いなど、局所の症状が出ます。

あとは熱と共に心臓がドキドキして、脈が高くなっている状態とか、呼吸が荒くなって1分間に20回も、30回も呼吸をするような状態は、感染症を疑う症状の1つです。

“迅速に見付けて治療”が大原則

発熱や痛みなど感染症が疑われる症状が出た場合は、速やかに医師の診察を受け、適切な抗生物質の投与などによる治療が必要だという。

(イメージ)
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――どういった治療をする?
まず大事なのは、感染症の治療なので、抗生物質の投与などが必要になります。

また感染症が重度になってしまうと、呼吸の酸素濃度がどんどん下がってきて、自分ではとても呼吸ができないような状態になるので、人工呼吸器を挿入したり、血圧が下がるという状態であれば、血圧を上げるような薬を入れて、全身のサポートを行います。

――感染症になった場合、医師にかかる前に自分でできることはある?
無いと思います。

感染症の治療は、診断がしっかりついて、細菌やウイルスに対する適切な治療をしないといけません。なので、なるべく迅速に見つけて、迅速に適切な治療することが大原則になってきます。

それをしながら、血圧が保てないとか、酸素濃度が保てないとなった時には集中治療室のようなところで、人工呼吸器をつけたりとか、血圧を上げる昇圧剤といったものを使うということです。

原因不明の発熱が1週間続いたら感染症かも

――自分で何とかしようというのは難しい?
敗血症の最初の原因が“発熱だけ”ということもあります。別に喉も痛くないし、お腹も痛くないし、咳も出ないといった状態です。

普通の風邪だったら2~3日寝てれば治ります。コロナウイルスだとそれが少し長くて、1週間~8日症状が続く方もいますが、検査をしても何もひっかからないのに、熱の症状が4日~1週間続くというのは、やはり何かの感染症を疑って、より具体的な検査をするのが望ましいです。

感染症は一度悪化すると、止めるのが難しいんです。

糖尿病だったり、基礎疾患がある方はなおさら進行が速かったりするので、早期発見して原因を突き止めて治療するというのが大事です。

ステント(イメージ)
ステント(イメージ)

――敗血症の患者が増加傾向にある原因は?
1つの理由は、人工物です。

人工血管やステント、人工弁、人工関節など、人工物が体の中にあると、血液中に入ったばい菌がそこにくっついて、敗血症を起こすことがあります。

人工物は、体の中にもともと存在しないものなので、そういったところに菌などが着いてしまいます。そこで菌の塊みたいなのを作るので、除去しない限りは、なかなか抗生物質を投与しても良くならないということはよく経験します。

そのため、「ソースコントロール」と言われる手術でその人工物をとるなどの処置をします。何か原因があるのにどんどん抗生物質を流しても、その原因を取り除かない限り治らないということです。

これも重要な感染症の治療の1つです。

あとは、がんが増えているので、がんの患者さんは感染症のリスクです。

そういった方々が感染症を発症してしまって、敗血症で亡くなることも多いです。

世界的に増加している耐性菌

医療の進歩によってさまざまな治療が可能になる一方、その過程で引き起こされるリスクがある敗血症。

最近は、抗生物質が効きにくい「耐性菌」の増加も大きな問題となっていると佐藤医師は指摘する。

(イメージ)
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――医療の進歩はあるが細菌との戦いは難しい?
そうですね。

耐性菌の問題があり、普通の細菌だとある程度の抗生物質を使えば治るんですが、抗生物質が効きにくい菌というのが、今、世界的にとても増えています。

なので、検査をしてから2~3日ぐらいしないと、どういう抗生物質が効く菌なのかが分からない。

フタを開けてみたら耐性菌だったということもあり、最初の治療に使っていた抗生物質が効かなくて、2~3日治療が遅れてしまうということもあります。

かなり複合的な原因で感染症の治療が難しくなっているというのは言えると思います。

ワクチンで予防、しっかり問診

敗血症の原因となる感染症を予防するためにできることはあるのか。

佐藤医師は、肺炎球菌ワクチンの重要性を強調する。

――リスクを減らすポイントは?
糖尿病ならばしっかり診断を受けて、血糖のコントロールをするのが一番大事です。

あとはワクチンもありまして、例えば高齢者は肺炎球菌ワクチンを今打つようになっています。

肺炎球菌は、肺炎を起こすことが一番多いんですが、肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌が血流に入ってしまったときに起こる、菌血症敗血症という状態を防ぐことができるワクチンになります。

――どう診断する?
患者さんはかぜの症状で来ますが、問診で、一週間以上40°の熱が続いているとか、血液検査で炎症反応値が高かったりとか、肝臓や腎臓の機能が悪くなっているのを医師が見て判断して、重症化してしまうかもしれないと思った時点で、入院をして、原因を調べて治療に入る、という流れになります。

問診、診察、検査をしっかり行って、バイタルサインと言われる体温、血圧、脈拍数、呼吸数に異常が見られた場合は、すぐに入院できるような施設に紹介するという形になります。