年をとるほど、発症しやすくなるといわれる「認知症」。2025年には、5人に1人の高齢者が発症すると推計されているが、今や認知症は高齢者に限った病気ではなくなっている。
ある日突然、認知症と診断された人たちを取材した。
再就職に2年半「認知症という言葉だけで判断しないで」
午前8時、東京都豊島区。職場へ出勤する埼玉県在住の渡邊雅徳さん(45)。認知症を発症している。
この記事の画像(30枚)自宅から職場までの通勤時間は、1時間ほどだというが…。
取材スタッフ:
普段、何時頃に出勤されるんですか?
渡邊雅徳さん:
最寄り駅池の袋駅に、7時半に着く電車に乗るようにしています。
取材スタッフ:
お仕事は何時から?
渡邊雅徳さん:
8時半からですね。
取材スタッフ:
1時間早く来る?
渡邊雅徳さん:
そうですね、途中で色々わからなくなった時とかのために、早めに(家を)出るようにしてます。
不意に通勤ルートを忘れてしまうこともあるため、時間に余裕を持って出勤している。
渡邊さんに異変が起きたのは、今から5年前、40歳の時だった。
渡邊雅徳さん:
朝起きた時に自分が何の仕事をしているか、どこで働いているかとか、誰と働いているかとか、そういったのが一切分からなくなって。
取材スタッフ:
どんな感覚ですか?
渡邊雅徳さん:
感覚…怖かったんですかね。何もわからなくなっていたので…。
突如、陥った記憶障害。この時は数時間後に記憶が戻ったというが、後日、病院で聞かされた診断結果は予想もしなかったものだった。
渡邊雅徳さん:
アルツハイマー型の若年性認知症と診断されました。認知症って、お年寄りがなるイメージだったのでびっくりしました。
「若年性認知症」とは65歳未満で発症する認知症のことで、国内の患者は3万人以上にのぼる。初期症状は「物忘れ」や「意欲の低下」「仕事でのミスが多くなる」「道に迷う」などがあり、うつ病と間違えられることもある。
そのため、当時、不動産関連の仕事に就いていた渡邊さんも…。
渡邊雅徳さん:
(診断されるまでに)まともに仕事ができなくなっていたんで。何億円くらいの大損害とか出すぐらいの失敗とかをしちゃってて…仕事に行くのが怖くなってて。
その後、症状が進行し、同僚から心ない言葉を言われることもあったため、退職を決断。
このように、若年性認知症患者は仕事に支障がでるため約65%が自己退職、約5%が解雇されている。退職後、渡邊さんは2年半にわたって就職活動をしたものの、認知症を理由に再就職できなかった。
渡邊雅徳さん:
(就活の時に)認知症っていうのを見ただけで落とされる、っていうのがあって。書類審査はすべて、志望動機もろくに見てもらえず落とされてきた。
その後、渡邊さんは福祉サービスを受け、2022年1月にようやく再就職。障害者雇用を手がける会社で、実習に来る人をサポートするのが今の仕事だ。職場でも、認知症に向き合い、ミスをしないよう日々、工夫をこらしている。
渡邊雅徳さん:
やらなきゃいけないことは、パソコンのモニターのすごく邪魔になるところにあえて貼り付けて。優先度が高いものは赤い付箋で貼るみたいな。
付箋の文字が必ず目に入るようにして、大きな失敗を防いでいるという。渡邊さんの仕事ぶりについて同僚は。
同僚・茂木舞さん:
とても前向きで、自分ができることは最大限やろう、という気持ちが伝わってくるなと思います。
それでも、会議などを忘れてしまうことがあるそうだが、同僚の細かい声かけに助けられているという。
今では若年性認知症の当事者として、積極的に講演活動も行っている渡邊さん。強く伝えたい思いがある。
渡邊雅徳さん:
仕事だけに限らず、認知症というのだけで「この人になんかやってもらうのは無理だな」とか、「教えるのは無理だな」とか、認知症っていう言葉だけで判断するな、っていうのを伝えていきたいです。
実際にはないものが見える“幻視” 夫婦で支え合う
観客の前でギターを演奏する、この男性もその1人。“認知症シンガーソングライター”として活動する松浦謙一さん(67)。
謙一さんは、62歳の時に「レビー小体型(しょうたいがた)認知症」と診断を受けた。現在、妻のえり子さ(61)んと2人暮らし。認知機能が低下しているため…。
妻・えり子さん:
今年、令和何年だかわかる?
松浦謙一さん:
何それ、何それ…。令和わからない。
元号が令和に変わったことがわからないという。深刻な症状は他にも。
松浦謙一さん:
初期の頃から見えてるのが子どもと老人で、最近見えるようなったのが虫ですね。
レビー小体型認知症の最も特徴的な症状である「実際にはないものが見えてしまう」=「幻視」だ。
この映像は、あるレビー小体型認知症患者の幻視を再現した映像。認知症の主人公が音楽仲間の自宅を訪ねる設定だ。
女性が「楽器はここに置いておいて」と言って部屋のドアを開けると、そこにいた男性が突然消えた。
「どうしたの?大丈夫?」と声を掛ける女性。そして、リビングへ進みむと…。
リビングに実際にいるのは3人のみ。だが、知らない男性3人の姿も見えている。
見えていたものが突然消える。そして、現実には存在しないものが見える。妻のえり子さんが異変に気付いたのは、謙一さんに認知症の初期段階で見られる、怒りっぽくなる症状が現れた時だった。
妻・えり子さん:
(ある日)あるものを忘れてしまって。もしかして主人の部屋に置いておいたのではないかと思って、捜しに入って「ちょっと捜させてね」と言ったら、「俺が取ったのかと思ったのか」と何かすごい勢いで怒られてしまって。その時の形相とかが、これは普通じゃないなと思って病院へ行くと、レビー小体型認知症と診断されました。
松浦謙一さん:
幻視をたくさん見えるとか、そんなことよりも、いろんな記憶をなくしてしまうことが一番怖いですね。
記憶を失う恐怖と闘いながら、一方で「認知症=何も出来ない」ではないと伝えたいと話す。
松浦謙一さん:
進行具合の10を想像しちゃって、認知症=全てを忘れるという感覚を持つ人が多いのかな。スタートの1から始まってる人もいるんです。
妻・えり子さん:
進行を遅らせることはできる病気だと思っているので、認知症になった次の日から、普通の生活ができないというわけではない。
患者らは認知症への理解や、当事者と周囲が認め合える社会の実現を訴えている。
(「イット!」10月28日放送)