「能力の低下の自覚」「家族のすすめ」などから、運転免許を自主返納する高齢ドライバーも決して少なくはない。なぜ返納したのか、返納後の生活はどうなるのか、97歳の男が運転する車が暴走し6人が死傷する事故が起きた福島県で取材した。
97歳高齢での運転に疑問
福島県いわき市泉町に住む小野多喜子さん、88歳。自分より9歳年上の97歳の男が引き起こした、福島市の6人死傷事故に疑問を投げかける。
この記事の画像(9枚)小野多喜子さん:ああいうの見ると、やっぱりもうそろそろ良いんじゃないって、友達と言っていますね。
運転技術には自信があり、過去に大きな事故は起こしたことがなかった小野さん。4年前、体力などの衰えは感じていなかったが、息子の妻・美保さんの「出かけるときは一緒に連れて行く」という言葉がきっかけとなり、50年間持っていた運転免許を返納した。
小野多喜子さん:もったいないなとは思ったけど、仕事にも行かなくなったし。やめてもしょうがないかなと思って、やめるようにしたんですよね。
しかし、その後 美保さんが病気で他界。返納していたことで、不便さや後悔を感じることもあったというが、今は徒歩で近くのスーパーなどに通っている。
小野多喜子さん:ここは割と近い方だから運動にもなるし、歩いてもいいかなとは今は思ってますけど。
返納後の生活は周囲のサポートが大切
一方、かかりつけの病院やコメなどの重いものを買うときは、友人や家族の力を借りることもあるという。返納後の生活には周囲のサポートも大切だと実感している。
小野多喜子さん:ああいう事故ばかり聞くので、いい時にやめたかなっていう思いでいますね。今はね。
歩いて外出できるようにするため、散歩などで日々体力づくりをしているという小野さん。今後は、運転経歴証明書によるタクシーの割引なども活用しながら生活していこうと考えている。
運転免許を返納した高齢者の移動支援
2022年8月に福島県本宮市で始まった実証運行「まちタク」
市役所や医療機関など指定の施設と自宅を行き来する際に、定額でタクシーを利用できるサービスだ。
増子タクシー・根本恵理子業務課長:病院に行くにしても、買い物に行くにしても、足が、無いと行けない所が多かったりするので。
メーター運賃に応じた3段階の定額料金が設定されていて、市が差額分を負担する。増子タクシーでは、1日平均15件ほどの利用者がいて、60代以上の方が約7割を占める。
溝井敏子さん:万が一事故なんか起こした時、困るなと思って、だったらタクシー使った方が楽だと思って。
免許返納してよかった
溝井敏子さん(82)は、銀行や買い物などで週に3回ほどまちタクを利用している。体調などに問題はないが、2022年5月に運転免許を返納した。福島市の死亡事故のニュースに触れて、その判断は間違っていなかったとも感じている。
まちタク利用者・溝井敏子さん:「ああいう風な事故を起こしたら気の毒でしょ。だからダメだって。私は(運転)終わらせて良かったなって思っています」
現在約600人が登録している「まちタク」
本宮市では、返納した人の日常生活を支えるための移動支援として、実証運行を最長で2023年3月31日まで継続する予定だ。
”自主返納者”は増加傾向
福島県の75歳以上の運転免許返納者数は、2012年は701人だったが年々増加し、2019年は過去最も多い5982人が返納した。
この年は東京・池袋で当時87歳の男が運転する車が暴走し、3歳の女の子と母親が亡くなる事故が起きていて、こうした状況も背景にあるとみられている。
返納を決断するためには、周りのサポートや交通手段の確保は欠かせない。
(福島テレビ)